Lewy body disease primate model with α-synuclein propagation from the olfactory bulb

概要

【背景】レヴィ小体病はαシヌクレインの異常な凝集体であるレヴィ小体を病理学的な特徴とし、パーキンソン病（PD）、認知症を伴うパーキンソン病（PDD）やレヴィ小体型認知症（DLB）を含む疾患概念である。2003 年にBraak らは、PD ではレヴィ小体は嗅球もしくは迷走神経背側核から脳内を伝播するように進展すると提唱した（Braak 仮説）。近年、レヴィ小体病ではαシヌクレインの凝集体がプリオンのように脳内で増幅・伝播すると考えられつつあり、組み換えタンパク質から作製したαシヌクレインの凝集体を培養細胞やマウス脳内へ接種することで、レヴィ小体様の凝集体が再現されることが報告された。マウスの嗅球や腸管にαシヌクレインの凝集体を接種することで、Braak 仮説で提唱された嗅覚系・腸管-迷走神経系のαシヌクレイン伝播経路の解明が試みられている。しかしながら、これまでの多くの報告ではげっ歯類を用いており、非ヒト霊長類を用いた報告は限られている。げっ歯類と霊長類では脳構造が大きく異なることから、ヒトにおけるレヴィ小体病の病態を解明するために非ヒト霊長類での検討が必要である。先行研究ではげっ歯類の嗅覚系、腸管-迷走神経系経路のαシヌクレイン伝播については報告されているが、非ヒト霊長類の嗅覚系伝播経路については報告がなかった。また嗅覚系、腸管-迷走神経系の伝播経路の違いがどのような病理分布や臨床症状と関連するかは不明な点が多い。

【目的】本研究では小型の非ヒト霊長類であるマーモセットの嗅球へαシヌクレインの凝集体を接種することで、霊長類における嗅覚系伝播経路を明らかとし、さらに MRI や 18F-FDG-PET を用いることで脳機能への影響を明らかとする。

【方法】4 頭のマーモセットに対してαシヌクレイン接種を行い、3 ヵ月後に MRI での評価を行った。さらに3、6 ヵ月で1 頭ずつのマーモセットに対して18F-FDG-PET を行った。最終的に3、6 ヵ月で2 頭ずつsacrifice を行い、リン酸化αシヌクレイン抗体により脳のαシヌクレイン病理を評価した。

【結果・考察】組織学的評価では嗅球、前嗅核、梨状皮質、扁桃体に多くのリン酸化αシヌクレインの凝集体が出現し、少数ではあるが黒質、青斑核、迷走神経背側核にも凝集体の伝播を認めた。αシヌクレイン病理は経時的に増加しながら嗅覚系経路に沿って伝播し、霊長類における嗅覚系伝播経路を明らかとした。さらにMRI ではαシヌクレイン凝集体の接種側の嗅球の優位な萎縮を認め、同部位では細胞死マーカーである single stranded DNA 陽性の細胞が出現した。また18F-FDG-PET では、αシヌクレイン凝集体の接種側で前頭葉、拡張扁桃体、視床、外側膝状体、後頭葉など広範囲に糖代謝の低下を認めた。後頭葉血流低下はDLB の診断基準で支持的バイオマーカーとされており、後頭葉、頭頂葉、帯状回の血流の低下はPD における認知機能障害の予測因子であることが報告されている。さらに既報告ではPD における嗅覚障害はPDD への進展の予測因子であることが示されている。これらの報告はαシヌクレインの嗅覚系伝播経路とレヴィ小体病における認知機能障害の関連性を示しており、本研究の結果に合致するものであった。

【結論】非ヒト霊長類におけるαシヌクレインの嗅覚系伝播経路を明らかにし、嗅球の萎縮と投与側の広範囲な脳糖代謝低下を生じることを示し、レヴィ小体病における嗅覚系伝播経路と認知機能障害の関連性を示した。