線維化αシヌクレインの細胞内取り込みおよび細胞間伝播に寄与する受容体の同定
概要
(書式18)
学
(
位 論 文 要 約
A b s t r a c t )
博士論文題目 Title of dissertation
線維化αシヌクレインの細胞内取り込みおよび細胞間伝播に寄与する受容体の同定
東北大学大学院医学系研究科
神経・感覚器病態学講座
氏名 Name
医科学専攻
神経内科学分野
石山
駿
パーキンソン病 (Parkinson's disease: PD) はアルツハイマー病についで頻度の高い神経変性疾患である
が、その治療は対症療法に限られ根治療法は未だない。病理学的には異常に線維化し凝集したαシヌクレイ
ン(α-synuclein: αSYN) の細胞内蓄積が神経変性を惹起すると考えられている。近年凝集αSYN がプリ
オン同様に神経細胞間を伝播し、周辺組織へ病変を拡大させるという異常タンパク質伝播仮説 (プリオノイ
ド仮説) が提唱され、進行抑制治療ターゲットとしての注目を集めている。凝集αSYN の細胞間伝播を制
御する分子機序については不明な点が多いが、受容体を介したエンドサイトーシスの関与が推定されている。
これ迄に複数の分子がαSYN 受容体として報告されているが、多くは網羅的探索ではなく、神経細胞で低
発現の分子が多い。また、膜タンパク質の単離精製過程で用いられる界面活性剤が、受容体分子の生理的構
造やリガンド結合能を妨げ、結果に影響している可能性があった。そこで本研究では、界面活性剤非存在下
でマウス全脳由来膜タンパク質ライブラリーを作製し、アフィニティーカラム精製と質量分析を組み合わせ
線維化αSYN の受容体を網羅的に探索した。同定された分子について、培養細胞を用いた共免疫沈降法で 2
次スクリーニングを実施し、神経細胞に高発現するタイプ I 膜タンパク質である Sortilin が細胞外の線維化
αSYN と最も強い結合を示す事を確認した。線維化αSYN の細胞内への取り込みは細胞表面の Sortilin 発
現量に依存し、タイムラプス画像解析により線維化αSYN と Sortilin の内在化およびエンドソームへの輸
送が確認された。Sortilin の各細胞外ドメインの欠損実験により、膜貫通領域に近い細胞外の ten conserved
cysteines (10CC) ドメインが線維化αSYN との結合とエンドサイトーシスに関与していることが判明した。
さらに 10CC ドメイン特異的抗体による前処理が、線維化αSYN 取り込みを有意に抑制することを確認し
た。最後に、PD・レビー小体型認知症患者脳のレビー小体のコア領域に Sortilin が存在すること、また、
Sortilin の細胞内移動に関与する小胞輸送経路が PD 脳の脆弱な神経細胞集団において停滞している可能性
がトランスクリプトーム解析で確認された。以上の結果は、Sortilin が線維化αSYN の主要な神経細胞内受
容体であることを示す証拠であり、PD の疾患修飾療法開発に重要な知見をもたらすものである。 ...