Comparison of the Dietary Intake Loss Between Total and Distal Gastrectomy for Gastric Cancer
概要
1. 序論
2020 年の世界における胃癌の罹患数は約 100 万人で,その死亡数は 76.9 万人であった.
罹患数については全悪性腫瘍のうち第 5 位, 死亡数については第 4 位と頻度の多い疾患である(GLOBOCAN 2020). 胃癌の基本的治療は根治的胃切除術であるが, 胃切除後には体重減少が起こることが知られており, 特に胃全摘後には 10%以上の体重減少が起こると報告されている(Fein et al., 2008; Lee et al., 2017). その胃切除後の体重減少については, 術後補助化学療法の継続性に影響を与えることが報告されており(Aoyama et al., 2013), 長期予後にも影響を与えることがわかっている(Aoyama et al., 2017). 胃切除後の体重減少 の原因としては様々な要因が想定されており, その中でも術後の食事摂取量の減少は主要な原因の一つと考えられている(Liedman et al., 1996; Bae et al., 1998). しかし, 胃切除後の食事摂取量の変化についての客観性と再現性を伴った報告は少ない. そこで本研究では,第一に食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire with 82 food items: FFQW82)(Watanabe et al., 2011) を用いて胃切除後の食事摂取量の変化を定量化すること, 第二に胃全術後と幽門側胃切除術後の食事摂取量の変化を比較し術式による食事摂取量の変化を明らかにすることを目的に研究を行った.
2. 実験材料と方法
2011 年から 2014 年に神奈川県立がんセンターにて胃癌に対して胃全摘術, 幽門側胃 切除術が施行された患者の内, 病理診断 Stage IA-IB を対象として, 周術期の化学療法が施行された患者は除外した. 術前, 術後 1 か月, 術後 3 か月の栄養指導の際に FFQW82 を用いて食事摂取量を定量化し, 術前の摂取量からの変化率を算出し比較した. χ2 乗検定と Mann-Whitney U 検定を用いて胃全摘群 (TG 群)と幽門側胃切除群 (DG 群)の患者背景および食事摂取量減少率と体重減少率を術後 1 か月,術後 3 か月について比較した.また, 食事摂取量の減少率と体重減少率の相関を検討するために, Spearman の順位相関係数を用いて検討した. 本研究は神奈川県立がんセンターの倫理委員会で承認を得た(IRB 番号: 2018 疫学-20).
3. 結果
対象は 150 例であり, TG 群: 33 例, DG 群: 117 例について比較検討した. 全 150 例の 検討では, 術後 1 か月は-9.3%, 術後 3 か月は-3.6%の食事摂取量の減少を認めた. TG 群と DG 群の食事摂取量の減少率の比較においては, 術後 1 か月がTG 群: -15.6%, DG 群: -
8.9%(p=0.10), 術後 3 か月がTG 群: -5.3%, DG 群: -3.3% (p=0.49)であった. 体重減少率の比較においては, 術後 1 か月がTG 群: -8.1%, DG 群: -4.7% (p<0.001), 術後 3 か月が TG 群: -11.7%, DG 群: -5.3% (p<0.001)であった. 胃全摘群における, 術後 1 か月の食事摂取量の減少率と術後 1 か月の体重減少率の相関係数は 0.407 (p=0.019) であった.
4. 考察
胃切除術後の患者は術後 1 か月には-9.3%, 術後 3 か月には-3.9%の食事摂取量の減少を経験していた. 統計学的有意差は示さなかったものの, 術後 1 か月では TG 群で食事摂取量の減少率がより大きい傾向を認めた (TG -15.6% vs. DG -8.9%, p=0.10). そのTG 群における術後 1 か月の食事摂取量の減少率は, 術後 1 か月の体重減少率と相関を示した. また胃全摘術後の体重減少は食事摂取量の減少だけでは説明できないほど顕著であり, 食事摂取量の減少以外の要因についても今後検討していく必要があるものと考える. 胃全摘後の体重減少の抑制には, 術後 1 か月の食事摂取量の低下の是正をターゲットとしたより集中的な栄養介入が必要であると考えられた.