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大学・研究所にある論文を検索できる 「ウマHistidine-rich glycoproteinの遺伝子解析と好中球の制御機能に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ウマHistidine-rich glycoproteinの遺伝子解析と好中球の制御機能に関する研究

向, 亮 ムコウ, リョウ 東京農工大学

2022.07.18

概要

ウマは過去から現在にかけて、様々な形で人間社会に貢献しており、福祉向上と健康維持はウマに携わる者 にとっての責務である。致死率の高いウマの炎症性疾患として全身性炎症反応症候群 (systemic inflammatory response syndrome: SIRS) や敗血症が挙げられる。ウマにおけるこれらの疾患は、ヒトの診 断基準を元に作成されており、SIRS や敗血症と診断されたウマの致死率は極めて高い。この現状にも関わ らず、ヒト・ウマ共に具体的な根治療法は確立されていない。近年、ヒトの炎症性疾患に対する有望なバイ オマーカーとして histidine-rich glycoprotein (HRG) が注目されている。HRG は血漿中に豊富に存在する 糖タンパク質で 6 つのドメイン (N-terminal domain 1・2, Proline-rich region (PRR) 1・2, Histidine-rich region (HRR), C-terminal domain) から構成されており、相互作用分子から免疫応答や血液凝固、血管新生 に関わると考えられている。SIRS および敗血症患者では血漿中 HRG 濃度が健常者と比較して著しく低下 し、濃度の低下は患者の致死率と相関すること、さらに、敗血症モデルマウスに HRG を投与することで生 存率が回復することから、HRG が有望なバイオマーカーとなる知見が集積されている。以上の背景から HRG に着目し、ウマ SIRS や敗血症などの重症炎症性疾患に対する新規診断法の確立を目指した。

GenBank データベース上にウマ HRG の遺伝子情報が予想配列しか存在しなかったため、まず、ウマ HRG cDNA の配列解析を行なった。HRG はヒトやマウスでは肝臓の実質細胞で発現することが報告され ているため、ウマでも同様に肝臓で発現しているかを確認したところ、前述の情報と同様に肝臓でのみ mRNA 発現が確認された。発現が確認できた肝臓由来の cDNA の配列解析を行なったところ、予想配列に 追加で 135 bp の新規配列が同定された。以上の結果から、ウマ HRG は 1,530 bp、509 aa によって構成 されることが明らかとなった。次に、ウマ HRG の精製・検出を行なった。HRG は名前の示す通りヒスチ ジン残基を多く含み、ヒスチジン残基は Ni2+ と強く結合するため、ニッケルセファロースカラムを使用し た精製が可能である。この手法に従ってウマ HRG の精製を行なったところ、精製サンプルは Coomassie brilliant blue (CBB) 染色およびウエスタンブロット法で 70 kDa 付近にシングルバンドが確認され、ウマ HRG の精製・検出を行うことに成功した。

ウマ HRG 遺伝子解析の一部サンプルにおいて histidine rich region (HRR) ドメインに欠失が確認され たため、ゲノム DNA を使用して HRR ドメインに対する PCR 解析 を行なったところ、3 種類のサイズ のバンドが確認され、サイズの大きいものから順に野生型 (Insertion: I)、45 bp 欠損を含む Deletion 1 (D1)、 90 bp 欠損を含む Deletion 2 (D2) のウマ HRG が存在することが判明した。HRG の HRR ドメインにお けるアミノ酸配列は、コンセンサス配列のリピートによって構成されることが知られており、野生型ウマ HRG は 11 回のコンセンサス配列のリピートによって構成されている。見つかった欠失はいずれも HRR ドメインに含まれ、Deletion 1 ではコンセンサス配列のリピート回数が 8 回、Deletion 2 では 5 回とな り、HRG タンパク質として重要な役割を果たすと考えられるヒスチジン残基の割合が欠失型 HRG では少 ないことが判明した。HRR は Zn2+ 依存的に様々な分子と相互作用することや、グラム陽性菌・陰性菌・ 真菌に対して殺菌作用を示すこと、血管新生に関与することが報告されていることから、欠失型 HRG が上 記活性に対して何らかの異常を有する可能性が示唆された。また、PCR のバンドパターンから、ウマ HRG の遺伝子多型は II、ID1、ID2、D1D1、D1D2 の 5 種類が存在することが明らかとなった。次に、遺伝子 多型の分布を調べるために 987 頭のウマ血液を使用して多検体解析を行なったところ、II: 24.4%、ID1: 45.2%、ID2: 3.7%、D1D1: 23.0%、D1D2: 3.6% の割合で分布していることが判明した。いずれの遺伝子型 も 1 %以上存在することから、5 種類の遺伝子多型が存在すると規定できる。約 1,000 頭の多検体解析を行 なったにも関わらず D2 ホモキャリアが見つからなかったことから、D2 ホモキャリアには発生や成長過程 に何らかの異常があることや、競走馬としての育成対象にならない可能性が考えられる。

次に、炎症病態形成に対する HRG の作用を調べるために、好中球の接着、遊走、reactive oxygen species (ROS) 産生、貪食能に対してウマ HRG がどのように影響するのかを調べた。ウマ血液から回収した好中 球を使用して、ウマ HRG 存在下でそれぞれの活性に対する作用を調べたところ、接着・遊走・ROS 産生 はウマ HRG によって抑制され、一方で、貪食は促進されることがわかった。HRG はトロンビンによって 分解されることが報告されており、炎症環境下では血中と比較して HRG 濃度が低下していると考えられ る。そのため、血中では HRG は好中球の貪食を促進する反面、接着・遊走・ROS 産生は抑制がかかって おり、炎症組織では HRG 濃度が低下することによって好中球動員が誘導されると考えられる。以上のこと から、HRG は好中球の活性を双方向的に調節することによって、過剰な活性化を防ぎ、恒常性の維持に関 与することが示唆された。

上記研究成果は、好中球性炎症における病態形成の理解の一助となるものであり、ウマの炎症性疾患に対 して HRG を標的とした診断および治療の有効性を提唱するものである。

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