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大学・研究所にある論文を検索できる 「フルマラソンにおけるセルフリーDNAとエクソソーム内包miRNAの網羅的発現解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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フルマラソンにおけるセルフリーDNAとエクソソーム内包miRNAの網羅的発現解析

久慈, 知明 筑波大学

2022.11.25

概要

本博士学位論文は、フルマラソン前後における血漿と尿に含まれるセルフリーDNAとエクソソーム内包miRNA(miRNA)のプロファイルを次世代シークエンサー(NGS)とRT-PCR法を用いて検討したものである。その要旨を以下に述べる。

 第1章では研究背景として、東京オリンピック・パラリンピックなど世界的なスポーツイベントの開催でスポーツへの関心が高まっており、これらに出場するアスリートたちは、日々のトレーニングにおいて、サインエンティフィックなパフォーマンス分析や数値化された運動量分析が主流になりつつある状況である。また、様々あるパフォーマンス分析の中でも一般的な手法として血液や尿など検体を用いた分析手法がある。理由としては、アスリートの検体を用いれば、より正確な生理学的・分子レベルの体内状態を分析することができるためである。このような手法は、アスリートの体液を用いた検査はリキッドバイオプシーと呼ばれており、従来の筋肉や体内の臓器から組織を取り出す生検と比較して、侵襲性が低く、継時的な検査がしやすいというメリットが有る。従来の手法として血液中のクレアチニンキナーゼ(CK)やミオグロビン(MG)を用いた生化学分析の手法がある。そのような血液を用いたものでは、例えばCKは時間応答性が遅く、2〜3日程度しなければ上昇しない傾向にあるため、リアルタイムに近い運動量の分析が難しい。これらの課題を解決するためには、時間応答性が高く、侵襲性の低い新規の運動ストレスを反映するマーカーが必要になる。近年リキットバイオプシーの分野で注目されているバイオマーカーとして、セルフリーDNA(cfDNA)とエクソソーム内包miRNA(miRNA)に着目し本研究を行った。

 血漿中の無細胞DNA(cfDNA)の存在は、1948年にMandelとMetaisによって発見された(Mandel and Metais, 1948)。1966年、Tanらは、全身性エリテマトーデスの患者の血液中にcfDNAが含まれていることを報告した(Tan, no date)。

 cfDNAの発現機構としては、複数あると言われている。1つ目は、好中球由来のものであり、その新たな幹線防御機構としてNETsがある(Brinkmann et al., 2004)。NETsとは、好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps: NETs)というものであり、蛋白などが網目状になったものであり、病原体を捕獲し、駆除するものである。NETsは、運動でも増加することが示されている(Beiter et al., 2014)。

 2021年には、cfDNAは死細胞由来であるアポトーシス(プログラムされた細胞死)由来のものと、ネクローシス(壊死)由来のものも、両方存在することが報告されている(Watanabe, Takada and Mizuta, 2019)。また、cfDNAの生成に大きく関わるDNA切断酵素は、ネクローシスの場合はDNase1L3、アポトーシスの場合はCADとDNase1L3であることが明らかになっている(Watanabe, Takada and Mizuta, 2019)。スポーツ分野では各運動後においてcfDNAの絶対量が増加することが示されている(Breitbach et al., 2014)。

 これらの先行研究から、運動によって増加する好中球によるNETsや、2種類の細胞死によるセルフリーDNAの放出から、外的刺激や細胞破壊によってセルフリーDNAが放出されることがわかる。これらより、運動による外的ストレスによるcfDNAの放出及び増加が見込まれるため、本研究では運動ストレスによるcfDNA網羅的解析を行うこととした。エクソソーム内包miRNAを今回の研究対象としたが、その前にエクソソームについて説明する。エクソソームとは細胞から分泌される直径100ナノメートルほどの小さな丸い物質であり脂質二重構造を有するものである。1987年Johnstoneらがエクソソーム発見した。その後2007年にエクソームの内部に核酸の存在が示された(Pan and Johnstone,1983)。また、2010年には、マイクロRNAが細胞間を移動し移動先の細胞で機能することも報告された(Pegtel et al., 2010; Zhang et al., 2010)。

 また、エクソソームには、mRNAとmiRNAの両方が内包されており、エクソソームを受け取った細胞は、エクソソーム内のmRNAを翻訳することが注目された(Valadi et al., 2007)。エクソソームに内包されるmRNAやmiRNAは細胞の生理的状態やストレス状態によって変動し、ホメオスタシスに影響することが判明している。

 例えば、酸化ストレス下で培養されたマウス細胞から放出されるエクソソームと通常の環境下で培養したマウス細胞から放出されるエクソソームを取り出し、マウス細胞に投与すると、酸化ストレス下で培養されたマウス細胞から放出されるエクソソームを投与したマウス細胞のほうが酸化ストレスに対する細胞生存率が上昇する報告がある(Eldh et al., 2010)。また、マウス細胞において低酸素環境下で培養されることにより、miR-210というマイクロRNAが増加するが、それが多く内包されているエクソソームを取り出し血管内皮細胞に投与すると、血管新生能力が向上することが報告されている(Kosaka et al., 2013; Tadokoro et al., 2013)。これらのことから、エクソソームに内包しているRNAは、生理学的な変動をもたらすものであると考えられる。

 エクソソームが生成される起源としては、細胞膜上の受容体を巻き込みながらエンドサイトーシスにより形成されるものであると考えられている(Raposo and Stoorvogel, 2013)。また、その形成過程においては、1つ目はタンパク質複合体が集まってできるESCRT依存的経路というものがある(Liu et al., 2009; Nabhan et al., 2012; Zhu et al., 2013)。もう一つには、セラミドを中心として形成されるESCRT非依存的経路の2種類が存在する(Batista et al., 2011)。これらエクソソーム自体が形成された後、RABファミリーという細胞膜融合などに重要な遺伝子とシグナル分子によるものの2つの経路がある(Ikeda and Longnecker, 2007; Bolukbasi et al., 2012)。このような複数の経路を持っていることで、多様性のあるエクソソームを形成している。

 その他の機能としてエクソソームには取り込み機構が存在し、エクソソームが細胞に取り込まれると内部のmRNAが翻訳され、タンパク質が生成される(Kosaka et al., 2013)。エクソソームの表面上のタンパク質にあるテトラスパニンやICAM-Iをリガンドとして細胞膜上のタンパク質を変化させることにより、細胞と結合し、取り込まれるようになっている(Valadi et al., 2007; Waldenström et al., 2012)。

 血液中のエクソソームは、2005年に最初に報告されている(Caby et al., 2005)。落合らの研究によりがんのバイオマーカーとしての応用が研究されている。尿中のエクソソームは、2004年に存在が報告され、尿中全タンパク質の内約3%がエクソソーム由来と言われている(Pisitkun, Shen and Knepper, 2004)。これら先行研究から、運動ストレスにより分子レベル・生理的な変動が発生し、それら変動の一つとしてmiRNAも同様に運動により変動し、マーカーとして利用できるのではないかと考え、本研究の対象とした。

 今回、運動負荷の対象としたのは、フルマラソンである。フルマラソンの運動ストレスの可視化は、アスリートのコンディショニングや怪我の防止などに不可欠であり、精密なコンディショニングのためにも、リアルタイムにモニタリングできる運動ストレスマーカーの探索が求められている。

 第2章として、研究対象の1つであるcfDNAに着目し、フルマラソン前後の血漿で、NGSを用いたプロファイル解析を行った検討を行った内容を示している。定常状態での血漿中で比較的量が多い血漿中に存在する同定した配列(spcfDNA)があり、その配列は、通常のゲノム領域の配列と比べて約1.7万倍高いレベルであることを明らかにした。また、そのspcfDNA配列をベースにし、TaqMan-qPCR法で個々のフルマラソン後の血漿でも短いサイクルで核酸増幅し、感度が高いことも明らかにした。更に、そのspcfDNAの発現量レベルは、白血球(WBC)およびMGの増加量と強い相関関係があった。そのため、同定した配列であるspcfDNAは既存の運動マーカーとの相関性が高いという傾向があるため、運動ストレスを反映するものと考えられる。

 第3章では、フルマラソン前後におけるmiRNAにおいて、血漿と尿中のプロファイル解析の検討内容を示した。その際に、既存のmiRNAのマーカー以外に、尿と血漿両方でフルマラソン後に発現量が上昇するmiRNAを発見した。先行研究では、がんマーカーとして示されていたものが、運動ストレスにも反映することを初めて明らかにした。

 第4章では、総合討論として、フルマラソン前後における血漿と尿に含まれるcfDNAとmiRNAの両方の考察を示した。また、cfDNAとmiRNAの今後の産業応用性などについて今後の発展に関する見通しを示した。

 今回の研究のリミテーションとして、個人情報匿名化のためにプールした検体を用いて次世代シーケンサーで配列を解析した点である。そのため、個別に解析・評価することでより詳細なプロファイル解析をすることが重要であると考えられる。また、フルマラソンという激しいスポーツを対象としたため、男性のみのサンプル収集であったため、ジェンダーバイアスが発生している可能性がある。今回はつくばマラソンを対象としたが、より大きな大会でジェンダー割合を同じ割合にした比較も必要であると考えられる。その他に、スポーツの対象をフルマラソンとした背景から、個人のランニングペースに依存するため、運動強度とcfDNAとmiRNAのプロファイル変化を、本研究のみでは同定することは難しい。そのため、運動強度別でのcfDNAとmiRNAのプロファイル変化を分析するために、心拍数やMETs(代謝当:Metabolic equivalents)を用いた運動強度運動強度別でのcfDNAとmiRNAの変動を分析することで、より詳細な分析が可能となると見込まれる。

 本研究により、フルマラソンにおけるcfDNAとmiRNAの変動を解析し、新規に運動ストレスを鋭敏に反映するcfDNAとmiRNAを同定した。それら同定したcfDNAとmiRNAは既存の運動マーカーであるCKなどよりも鋭敏に反応し、miRNAにおいては尿でも分析可能であるため、非侵襲でリアルタイムかつ解像度が高いコンディショニングマーカー候補として活用できる可能性を示した。

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