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強心ステロイド類の新規合成法の開発

渡邉, 正悟 名古屋大学

2021.07.27

概要

本論文は、強心ステロイドの自在合成を志向したステロイド骨格の新規構築法の開発と、強心ステロイド類の自在合成への展開に向けた合成研究ついて述べたものであり、三章から成る。

第一章「序論」では、強心ステロイドの重要性と既往の合成研究を概観し、本研究の位置づけを行った。強心ステロイドは、ジギタリスなどの物や、ホタルや、ヤマカガシ、カエルなどの動物から広く見出されている天然有機化合物である( Figure 1)。強心ステロイドは、一般に、動物の細胞膜に存在する Na+/K+-ATPase を強力に阻害し細胞収縮を促すことが知られ、例えばジゴキシンは心収縮力増強薬として、うっ血性心 不 全 の 治 療 な ど に 古 く か ら 用 い ら れ て き た 。 近 年 で は 、 悪 性 腫 瘍 ( Figure 1, (+)-cannogenol)や自己免疫疾患( Figure 1, digoxin)などの難治疾患に対する治療薬の開発への貢献が期待されている。さらに強心ステロイドは、特定の動物の行動に影響するものが見つかるなど、 化学生態学分野などでも注目を集めている( Figure 1, bufolipin A) 。以上のことから、強心ステロイド骨格は多様な生物活性を発現し得る privileged structure であるが、その有用性を引き出すためには、天然型・非天然型を含む強心ステロイド類の自在合成法の開発が必要可欠である。しかしながら、これまでに多くの優れた合成研究が成されてきたにも関わらず、強心ステロイド類の自在な合成法は未だ整備されていない。そこで本研究では、多様な強心ステロイド類を、創薬研究や化学生態学研究などでにおける研究用のツールとして利用可能なものにすることを目的とし、天然型・非天然型強心ステロイド類の自在合成法の開発を目した。

Figure 1. Structures of cardiotonic steroids.

第二章「強心ステロイド合成のための鍵中間体の合成」では、ステロイド骨格の新規構築法の開発と、 光学活性な鍵中間体 7 の合成法を確立したことについて述べた( Scheme 1 ) 。 はじめに、 2- ピロンとアルケンを持つ化合物 6 の分子内 Diels-Alder (IMDA) 反応によってステロイド骨格を構築することを計画し、ラセミ体の CD 環セグメント 2 を使った前駆体 6 の合成と IMDA 反応の条件の精査を行った。まず、2- ピロンセグメント 3 と 2 を用いた溝呂木-Heck 反応によって高立体選択的に AC 環の結合を形成した。続いて、求ジエンに相当するアルケンの導入を経て前駆体 6 に変換した。さらに、合成した 6 の IMDA 反応を検討した結果、水溶媒中で反応を行うことによって、期待した 7 を合成に成功した。この反応では、水溶媒中での疎水的な相互作用によるジアステレオ制御の例を示せた。また、前駆体 4-6 の IMDA 反応におけるジアステレオ選択性の解釈は、溶媒を加味した DFT 計算でも支持された。
次に、開発した鍵中間体 7 の合成法を光学活性体の合成に適用した。まず、ソルビン酸を出発原料としていくつかの問題点を解決することにより、光学的に純粋な CD環セグメント 2 を合計で 24 g 合成することに成功した。その後も、必要に応じて反応条件を精査することにより、グラムスケールでの鍵中間体 7 の合成を達成した。

Scheme 1. Synthesis of key intermediate 7 via Mizoroki-Heck and IMDA reactions.

第三章「鍵中間体のサイト選択的な構造修飾と(+)-cannogenol の全合成」では、前述の鍵中間体 7 を起点としたサイト選択的な構造修飾の検討と、そこで得られた結果を基盤とした (+)-cannogenol (1) の全合成について述べた( Scheme 2) 。はじめに、鍵中間体 7 やその誘導体の反応性を知ることを目的として、Route A では AC 環のアルケンの還元や 6 位のデオキシ化を検討した。その結果、次の 4 点が明らかとなった。すなわち、1) 鍵中間体 7 が持つ 6 位と 17 位の水酸基の差別化が可能な点、2) 架橋ラクトンを開いた誘導体 8 を基質としてアルケンの還元を行った際に、3 位がデオキシ化される点、3) B 環のアルケンを還元する際に 5 位がエピメリ化する点、4) C 環のアルケンは AB 環のそれと差別化でき、17 位水酸基の配向性を利用した Crabtree 錯体条件で還元できる点である。この中でも 2) と 3) に示した問題点は、強心ステロイド合成を行う上では致命的であることからそれ以上の検討を断念することとした。

次に、Route A で得られた結果に基づき、Route B では、上記の問題点を克服するために AC 環のアルケンを還元するタイミングや 6 位のデオキシ化の方法を変えて構造修飾を検討した。まず、鍵中間体 7 に対して接触水素添加を行ったところ、上述の 3位のデオキシ化は起こらずに A 環のみが選択的に還元されることを見出した。続いて、 A 環に架橋ラクトンを有する化合物でも、Route A での場合と同様に 6 位と 17 位の水酸基を差別化することができた。さらに、ラジカル還元条件を検討することによって 5 位のエピメリ化を伴うこと無く 6 位のデオキシ化を達成して化合物 10 を得た。その後、17 位水酸基の配向性を利用した Crabtree 錯体条件による C 環の還元、D 環の酸化/ ヨウ素化、および架橋ラクトンの還元的開環を経てアルケニルヨージド 11 に変換することができた。なお、この 11 は、Nagorny らによる(+)-cannogenol (1)の合成中間体として報告されていたものである。そこで、彼らの報告を参考に、立体選択的な 17位のブテノリド部分の導入と脱保護を行うことで (+)- 1 の全合成を完了した。

本研究では、2- ピロンセグメント 3 と CD 環セグメント 2 を使って、溝呂木-Heck 反応と IMDA 反応により強心ステロイド合成のための鍵中間体 7 の合成法を確立することができた。また、合成した 7 を起点として、A-D 環をそれぞれ区別しながらサイト選択的な構造修飾が可能であることも示せた。さらに、強心ステロイド合成の一例として、(+)-cannogenol (1) の全合成に展開することにも成功した。以上のことから、鍵中間体 7 を使った本合成法は、サイト選択的な酸素官能基化を行うことで、今後さまざまな強心ステロイド類の自在合成での利用が期待される。

Scheme 2. Synthetic routes A and B: total synthesis of (+)-cannogenol (1).

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参考文献

[1] (a) Frébault, F.; Teresa Oliveira, M.; Wöstefeld, E.; Maulide, N. A Concise Access to 3-Substituted 2-Pyrones. J. Org. Chem. 2010, 75, 7962-7965. (b) Suzuki, T.; Watanabe, S.; Kobayashi, S.; Tanino, K. Enantioselective Total Synthesis of (+)-Iso-A82775C, a Proposed Biosynthetic Precursor of Chloropupukeananin. Org. Lett. 2017, 19, 922-925.

[2] Nakazaki, A.; Hashimoto, K.; Ikeda, A.; Shibata, T.; Nishikawa, T. De Novo Synthesis of Possible Candidates for the Inagami-Tamura Endogenous Digitalis-like Factor. J. Org. Chem. 2017, 82, 9097-9111.

[3] Martin, S. F.; Tu, C.-Y; Chou, T.-S. J. Am. Chem. Soc. 1980, 102, 5274-5279.

[4] Bhattarai, B.; Nagorny, P. Org. Lett. 2018, 20, 154-157.

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