シグナル伝達タンパク質の構造解析
概要
令和4年度
京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
シグナル伝達タンパク質の構造解析
Structural study of signaling proteins
京都大学 理学研究科 生物科学専攻
杤尾豪人
研究成果概要
本研究では、京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステムを利用し、細胞の各種シ
グナル伝達経路で働くタンパク質の構造解析を行なった。
自然免疫系は病原体(細菌、ウイルス)の高感度な検知と、その排除を行なうと同時に、抗
体や T 細胞を主とする獲得免疫系の誘導を行なう生体防御にとって極めて重要なシステムで
ある。病原体の検知を行なう主要な受容体としては、Toll 様受容体(TLR: Toll-like receptor)の
ファミリーが知られている。TLR は、細菌の細胞壁成分(糖脂質やペプチドグリカン)や鞭毛、
ウイルス由来の DNA や RNA と結合することで活性化し、免疫や炎症の調節を行なう NF-κB
や、抗ウイルス応答を誘導する IRF (Interferon regulatory factor)といった転写因子を活性化し
て、サイトカインやケモカイン、インターフェロンの発現を促す。筆者らは、TLR による細胞内シ
グナル伝達を介在するタンパク質について、クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析を進めて
いる。これまでに、あるシグナルタンパク質がサブユニット配列や直径が異なる複数の線維を
形成することを見出している。昨年度はそのうちの一つについて解析し、原子分解能での立体
構造の決定に成功した。本年度は他の三つの型の線維についても解析し、構造決定をほぼ
終えることができた。
他にも幾つかのタンパク質の構造解析を進めており、Discovery Studio を利用したほか、
Alphafold2 による構造予測を行った。 ...