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大学・研究所にある論文を検索できる 「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の肝線維化におけるCD44の関与の解明と食品成分によるその病態制御」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の肝線維化におけるCD44の関与の解明と食品成分によるその病態制御

宇野 絹子 東京農業大学

2022.09.01

概要

【背景・目的】
 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,世界的な肥満人口の増大に伴い,患者数が増加している。NAFLDは,脂肪肝を呈する生活習慣病の肝臓表現型であり,単純性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に分類される。この内,NASHは,脂肪肝に加え,肝における慢性炎症及び線維化を呈する病態であり,肝硬変や肝がんへ進行するリスクを有しており,重度の肝線維症に進行した患者数も増加している。肝線維化は進行に伴って肝疾患関連死が増加する事が明らかとなっているが,その根治的な治療法は確立されておらず,肝硬変に至った場合の現在有効な治療法は肝移植しかない。従って,NASHにより生じる肝線維化はこの疾患を制御するためのターゲット病変であり,それに関与する因子の探索は創薬研究において重要な役割を果たす。
 NASHの制御には病態メカニズムの解明と,その結果に基づいた科学的根拠のある方策の発見・開発が必要であり,そのための基礎研究において,動物モデルは有用である。コリン欠乏メチオニン低減アミノ酸食(CDAA食)を給餌したラットモデルは,そうした動物モデルのひとつとして開発されたもので,遺伝子操作されていない正常ラットに,化学物質を投与することなく食餌の栄養成分を改変することによって,肝線維化を含むNAFLD/NASHの肝表現型を再現でき,酸化ストレスと関連シグナル異常の関与の様相を詳細に解析できるものである。
 心血管疾患を中心とした生活習慣病に対して増悪因子として挙げられるトランス脂肪酸(TFA)のNASHにおける肝線維化への影響は明らかではなかった。申請者は,CDAA食誘発性NASH病態において,TFAが肝障害を増強する可能性があるものの,肝線維化に影響しないことを確認した。
 CD44は,ヒアルロン酸受容体の1つであり,リンパ球やマクロファージなどの炎症性細胞における発現するほか,がん幹細胞ないし小型肝細胞のマーカーでもあり,慢性炎症・免疫・細胞再生など多岐に渡る生物現象に関与するとされている。さらに,2017年には,肝の慢性炎症を中心としたNASH病態の制御因子としても機能していることが報告された。ラカンカ(Siraitia grosvenorii)は,中国の山岳地帯で栽培されているウリ科植物の果実であり,気管支炎や急性胃炎,咽頭炎,便秘等に対する民間薬として古くから用いられている。ラカンカ果実の抽出物は,食品添加物(甘味料)として使われているが,比較的毒性が低い一方で,抗酸化作用を有するなど健康増進機能を持つことが知られており,糖尿病やがんを含む多様な疾患への有効性が報告されている。
 以上の背景に鑑み,申請者は,以下の2点を目的として,本研究を計画し実施した。
(1)NASHの病態進行に密接に関与するCD44に着目し,CDAA食誘発性NASH病態ラットモデルにおける肝線維化を中心とした病態の進行過程におけるCD44の寄与について評価した。
(2)ラカンカ果実の抽出物の健康増進機能に着目し,当該抽出物がTFA含有CDAA食誘発性NASH病態ラットモデルにおける肝病態に及ぼす影響を評価した。

【材料及び方法】
(1)CDAA食誘発性ラットNASH病態におけるCD44発現解析
 実験は,6週齢Fischer344系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社)にCDAA食(A16032904, Research Diets, Inc.)または通常食(CE-2,日本クレア株式会社)を3日間,2週間,4週間,13週間または26週間自由摂食させた。給餌期間中には一般状態観察,体重及び摂餌量の測定を行い,給餌期間後にはイソフルラン麻酔下において腹大動脈より採血し,放血殺による安楽死後に肝臓を摘出し,10%中性緩衝ホルマリン液において固定,または-80℃で凍結保存した。血液サンプルは血液生化学解析に用い,肝臓は病理組織学的解析または遺伝子発現解析によって炎症,肝線維化及びCD44発現を評価した。
(2)ラカンカ果実抽出物飲水投与によるCDAA食誘発性ラットNASH病態軽減作用解析
 実験は,6週Hsd: Sprague Dawley系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社)にTFA含有CDAA食(A16032903,Research Diets, Inc.)または通常食を給餌し,ラカンカ果実抽出物(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社提供)を0,0.06%,0.2%,0.6%添加した飲水を自由摂取により投与した。試験期間は13週間とし,給餌期間中には一般状態観察,体重,摂餌量,及び摂水量を測定し,給餌期間後には(1)と同様の解析を行った。全ての動物実験は,東京農業大学動物実験委員会の承認を受けて実施し,温度22±3℃,湿度55±20%,照明12時間明暗サイクルに制御された飼育施設内で,プラスチックケージに3匹毎に収容して飼育した。

【結果】
(1)CDAA食誘発性ラットNASH病態におけるCD44発現解析
 CDAA食投与群では,血中肝障害パラメータであるAST及びALT活性が上昇し,肝障害を示唆した。肝における炎症関連遺伝子及び線維化関連遺伝子発現は,早期から変動を示し,肝の炎症と線維化の発生・進展を示唆した。肝の病理組織学的解析において,肝細胞の脂肪化は給餌3日から観察され,炎症性細胞浸潤は給餌2週間以降散見され,線維化は給餌4週間から微弱に観察され,給餌13週間及び26週間で顕著となった。肝におけるCD44遺伝子発現は,給餌2週間から顕著な発現増強を呈し,その後経時的に増強した。また,CD44のリガンドであるヒアルロン酸を合成する酵素(HAS2)遺伝子の発現もCDAA食給餌によって増強したが,ヒアルロン酸を分解する酵素(Hyal2)遺伝子の発現は明らかな変動を示さず,肝におけるヒアルロン酸蓄積を示唆した。CD44タンパク質は,早期から肝に浸潤した炎症性細胞に検出され,病態の進行に伴って一部の胆管上皮細胞にも発現した。このCD44陽性胆管周囲には,ヒアルロン酸の沈着が見られた。これらの胆管病変は,肝線維化領域と一致しており,CD44陽性胆管上皮細胞の肝線維化への寄与が示唆された。
(2)ラカンカ果実抽出物飲水投与によるCDAA食誘発性ラットNASH病態軽減作用解析
 ラカンカ果実抽出物の飲水投与は,0.2%以上の用量で,CDAA食によって誘導された血中肝障害マーカーの活性上昇を有意に抑制または抑制傾向を示し,肝における炎症及び線維化関連遺伝子およびCD44遺伝子の発現上昇を有意に抑制し,病理組織学的に検出された肝線維化面積の増加も有意に減弱させた。以上の結果から,ラカンカ果実抽出物は,0.2%以上の用量で飲水投与することにより,CDAA食誘発性ラットNASH病態を軽減させる効果を発揮することが明らかとなった。

【考察】
 CDAA食の給餌は,ラットの肝臓において脂肪肝,慢性炎症及び線維化を誘導し,明らかなNASH病態を発現させた。当該病態は経時的に悪化し,給餌4週間では微弱な,給餌13週間及び26週間では顕著な肝線維化を呈した。以上より,CDAA食誘発性NASHラットモデルは,肝線維化を対象としたNASH病態のメカニズムの解明と当該病態に対して化学物質等が及ぼす影響の評価に有用であることが示された。このモデルにおいて,CD44は早期から顕著に増加し,既報と同様に肝の慢性炎症の発生と進展に関与することが示されたが,本研究はそれに加えて肝の慢性炎症のみならず線維化においても重要な役割を果たすことを明らかとした。
 CD44の主要なリガンドの一つであるヒアルロン酸は,ヒトの重篤な肝線維化又は肝硬変患者の血中に検出されることが知られており,重度肝線維化マーカーとしても使用されている,肝線維化において注目すべき指標である。本研究は,胆管上皮細胞において発現するCD44が,当該上皮から構成される胆管の周囲にヒアルロン酸沈着を誘引し,細胞外マトリックスの肝組織への蓄積による肝線維化進行に寄与することを示唆する結果を得た。本研究は,さらに,ラカンカ果実抽出物の飲水投与がCDAA食誘発性ラットNASH病態における肝の慢性炎症及び線維化を軽減することを明らかとし,この効果の背景メカニズムに,酸化ストレス抑制による抗酸化作用に加えて,CD44発現抑制が関与していることを示唆する結果を得た。

【総括】
 本研究は,CD44がNASHにおける肝の慢性炎症及び肝線維化の治療標的となりえる可能性と共に,ラカンカ果実抽出物がCD44の抑制的制御を介してNASHの制御に有用である可能性を示した。

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