揮発性麻酔薬の標的分子の同定
概要
背景と目的
揮発性麻酔薬は現在臨床で広く使用されているが、その麻酔作用の分子メカニズムについてはまだ詳細には明らかになっていない。様々なイオンチャネルへの関与が報告されているが、個体レベルではいまだ麻酔作用を明確に説明できていないのが現状である。本研究では麻酔作用に関与する新規の分子として受容体Xに着目し、哺乳類において受容体Xが麻酔薬の直接作用する標的分子であることを示すことを目的とした。
方法と結果
哺乳類においては受容体Xには複数のアイソフォームが存在する。受容体Xが活性化されるとイオンAと透過させるため、イオンA濃度を評価することで受容体Xの活性を検証することとした。まず麻酔薬の受容体Xに対する特性を詳細に解析するため、培養細胞を用いたin vitroアッセイを導入した。384ウェルプレートとそれに対応した蛍光プレートリーダーFDSS7000を用いたアッセイ系を用いた。その結果、受容体Xのアイソフォーム間で麻酔薬への感受性が大きく異なること、あるアイソフォームが高い感受性を有することが示された。次に、受容体X内の麻酔薬による活性化領域の絞り込みを行うため、アイソフォーム間でキメラ受容体を作製し、麻酔薬反応性を評価した。その結果、麻酔薬による活性化に必要かつ十分な領域を同定した。また、アミノ酸変異体の麻酔薬反応性の検証を通じて麻酔薬反応性が大きく減弱する受容体Xの1アミノ酸変異体を同定した。さらに、ドッキングシミュレーションを用いることで、麻酔薬結合部位の推定を行った。
次に、麻酔薬結合部位に特異的に結合し受容体X機能を修飾する化合物を探索した結果、麻酔薬と同様に受容体Xを活性化させるアゴニスト化合物を同定した。これらの結果から、揮発性吸入麻酔薬が受容体Xの特定の結合部位に直接作用することが示唆され、受容体Xが揮発性麻酔薬の標的分子の一つであると考えられた。
結論
受容体Xのアイソフォーム間で揮発性吸入麻酔薬の感受性が異なること、特にあるアイソフォームは麻酔薬に対して高い感受性を有することが示された。受容体Xのアイソフォーム間でのキメラ受容体および1アミノ酸変異体でのイオンA応答性を評価した結果、麻酔薬反応性が大きく減弱する受容体Xの1アミノ酸変異体を同定した。また、ドッキングシミュレーションを用いてその残基の近傍に麻酔薬結合部位の候補が存在することを示した。さらに麻酔薬結合部位に特異的に結合し受容体X機能を修飾する化合物を探索した結果、麻酔薬と同様に受容体Xを活性化させるアゴニスト化合物を同定した。これらの結果から、揮発性吸入麻酔薬が受容体Xの特定の結合部位に直接作用することが示唆され、受容体Xが揮発性麻酔薬の標的分子の一つであると考えられた。