高速道路における休憩施設の外部空間のありかたに関する研究 : 整備基準たる「設計要領」の記述分析と「高速道路における休憩施設の外部空間」の写真を刺激とした評価実験を通じて
概要
第1章 研究の背景・目的と方法1.-1研究の背景
平成24年の新東名開通を契機に、高速道路の休憩施設(以下、SAという)は多くのメディアで取り上げられ、改めて注目されている。現在までに整備されたSAの中でも、開通して6年を迎えた新東名高速道路(以下、新東名という)のSAは活況を呈し、各SAでは年間500万人前後もの利用者がある。
本研究では、活況なSAの「外部空間」は、好評ではないSAの「外部空間」に対して、普遍的魅力を備えていると考えた。そこで、どのようなSAが好評で、どのようなSAがそうでないかを調べることが今後の魅力ある「SA外部空間」整備のために大事だと考えた。
1.-2研究の目的
本研究では、今後の高速道路における「SA外部空間」や「外部空間」を構成する「外構構成要素」を魅力の高いものとして整備するために、改めてSAの整備基準としての『SAの立地と「外構構成要素」』に関する整備基準である「設計要領の記述」の充実度を明らかにすることとした。このために必要な記述をすべて「要領」から抽出して特徴を把握することとした。
次に、どのようなSAが高評価で、どのようなSAが低評価かを明らかにするために、「SA外部空間」と「外構構成要素」とに関する評価の程度と特徴を明らかにすることとした。
なお、「要領記述」に加えて個々のSAに『「設計思想」や「デザイン思想」』が存在する場合、これらは、個々のSAの評価に影響があると考えられるので、これら『「設計思想」や「デザイン思想」』の有無や内容に関しても確認することとした。
以上のようにして明らかにした『「要領記述」の特徴と個々のSAの「設計思想」や「デザイン思想」』と、『「SA外部空間」と「外構構成要素」の評価』、との関係を整理し、どのような「整備基準」や「設計思想」・「デザイン思想」に基づいて整備を行うと、『「SA外部空間」と「外構構成要素」』との評価に高低が生じ、魅力ある「SA外部空間」整備ができるのかを明らかにすることを、本研究の主たる目的とした。
1.-3研究の方法
研究目的達成のために、まず「要領記述」の特徴については「SA外部空間」と「外構構成要素」とに関する「設計要領」の記述を全て抽出し、「要領の目的」や既往研究との対比を含めて分析し、整備基準としての「要領記述」の特徴を明らかにし、整備基準として充実している点と課題とを明らかにすることとした。
次に、過去に評価されたことのない「SA外部空間」と「外構構成要素」との魅力の評価を客観的かつ論理的に得るために、SAの利用者による計量心理学的手法による評価実験を行うことが最適と考えた。具体的には、新東名(10SA)と他路線(10SA)とから抽出した合計20SAを対象に、「SA外部空間」を写真による刺激で代表させて、『「順位評価(相対評価)【Q1A】」・「行動意志評価(絶対評価)【Q1B】」・「順位・行動意志一体評価(総合評価)」・「行動意志評価の理由【Q2】」・「外構構成要素評価【Q3】」』について評価を実施した。
こうして得た『「要領記述」の特徴』と『「SA外部空間」と「外構構成要素」の評価』とから、どのようなSAの魅力の評価が高く、他方どのようなSAが低評価なのかを明らかにした。研究の全体像を図-1-1に示す。
第2章 研究結果の概要
2.-1-1「設計要領」記述の特徴について
「要領記述」分析の結果、「要領の狙い」のうち「基本的な考え方(一般的技術的基準)」は充実しているが、「計画設計の方向」は十分に示されていない。とりわけ、要領には要領制定前後に「高速道路で有識者によって多数議論された、具体的な整備方針を示す「計画設計の手法と指針」や景観で重視される「視対象の統合性」に相当する「構成要素相互関係」に関する記述が少ない。
まとめると、「要領記述」は外構構成要素の整備基準として、「要領の目的」を必要十分に達成するように網羅されてはいない。この「要領」を充実させるためには、「計画設計の手法と指針」と「構成要素相互関係」との記述について、より具体的な記述を示し、より充実した「記述数」を追補することによる要領改正が課題であるのではないかと結論づけられる。
2.-1-2対象SAの「順位評価」・「行動意志評価」・「順位・行動意志一体評価」・「行動意志評価を支持した理由」について
20SAの「順位評価」、「行動意思評価」、「順位・行動意思一体評価」が明確となり、SAによって評価の順位と程度が大きく異なることがわかった。非常に評価が高いのは4SA(駿河湾沼津㊤➃・清水・浜松㊤)、次に高評価の5SA(遠州森町➃・静岡㊤・藤枝㊤・浜松➃・静岡➃)、中位3SA(談合坂➃・多賀➃・掛川➃)、低評価の3SA(富士川➃・海老名➃・御在所㊤)、非常に低評価の5SA(南条㊤・双葉㊤・南条➃・養老➃・恵那峡➃)に区分することが適切と考えられる。上位9SAは全て新東名であった。
上位評価を得た掛川➃以外の新東名の9SAでは、建築・土木・造園ともに利用者をもてなす明確な「設計思想」と「デザイン思想」が採用されるが、低評価のSAでは要領記述以外の明確な「設計思想」が乏しい。
「SA外部空間」の各刺激の支持数と支持率が高いと「SA外部空間」の「行動意志評価(絶対評価)」が高くなることがわかった。SAごとの「順位評価」・「行動意志評価」・「順位・行動意志一体評価」・「刺激の支持」の順位は例外を除きよく一致する。この結果より、「SA外部空間」内のシーン景観の連続を考慮して、丁寧に作り込んだ「外構構成要素」を配置にすることが必要だと解釈できる。
5.-1-3「SA外部空間」と「外構構成要素」の評価と特徴について
「SA外部空間総合評価」は高評価の10SAと低評価の10SAとに明確に分かれる。この理由は刺激が表現する空間の魅力が大きく高低に分かれることによると考えられる。
「外構構成要素総合評価」も高評価の10SAと低評価の10SAとに明確に分かれる。この理由は刺激が表現する空間の魅力が大きく高低に分かれることによると考えられる。また、上位10SAは新東名のSA、下位10SAはその他路線のSAであった。
構成要素同士の評価の相関係数はいずれも0.6以上と高く、SAごとに全構成要素の評価に大きく高低があることが確認できた。
前項と同様に、上位評価を得た掛川➃以外の新東名の9SAでは、建築・土木・造園ともに、景観で重視されてきた事項を踏襲し、利用者をもてなすための明確な「設計思想」と「デザイン思想」が採用されるが、低評価のSAでは要領記述以外の明確な「設計思想」や「デザイン思想」が乏しい。
これらのことより、評価の高い「SA外部空間」と「外向構成要素」を整備するには、すべての構成要素でともに高評価を得るような整備を実施することと、「ゲシュタルト」によるブロックパターンや「視対象の統合性」・「視点場の操作」を考慮した各構成要素相互の配置上の組合せの創意工夫が重要であることがわかった。ただし、整備上の経済性と効果を考慮すれば、ウッドデッキや利用者の主動線付近の小規模な通路や舗装を整備することの効果が高いと考えられる。
2.-2-2「SA評価の高低」と『「各種評価」・「設計思想」・「デザイン思想」及び「要領記述反映」』との関係
「SA評価の高低」と『「各種評価」・「設計思想」・「デザイン思想」及び「要領記述反映」』との関係を表記する(表-2-1)。SA評価が高い場合は、「設計思想」や「デザイン思想」に「視点場の操作」・「視対象の統合性」・「ゲシュタルト」などの、景観学で重視されてきた事項がよく反映されている。他方、SA評価が低い場合は、特筆すべき「設計思想」や「デザイン思想」がない。
また、高評価の場合は「要領記述」における「一般的技術的基準」のみならず、「計画設計の手法と指針」や「構成要素相互関係」が整備に反映されているが、低評価の場合は「一般的技術的基準」のみである。
これらのことから、魅力の高い「SA外部空間」と「外構構成要素」の整備を行う際には、「要領記述」に加えて、人をもてなすために景観学で重視されてきた事項を反映することの大切さがわかる。
第3章 結論
「要領記述」は「一般的技術的基準」は充実しているが、「計画設計の手法と指針」や「構成要素相互関係」に関する記述が不十分であるため、要領のみに基づいて整備されたSAでは、外構構成要素は網羅的に配置されるが、具体的な計画の意図がなく、構成要素を相互に関係づけて整備された例が少ないため、良好な空間が構成されず、「SA外部空間」や「外構構成要素」の評価が低評価となってしまっているのではないかとかと結論付けられる。
他方、要領記述に加えて、景観学で重視されてきた「視点場の操作」・「視対象の統合性」・「ゲシュタルト」などに配慮し、利用者をもてなすための誘いや行動心理を考慮した細やかな配慮に基づく「設計思想」・「デザイン思想」・「立地との関係における建築のモチーフ」等を配慮して整備された掛川➃以外の新東名の9SAでは、「SA外部空間」と「外構構成要素」との評価は高い。
こうした「設計思想」や「デザイン思想」の違いが、各種順位評価や評価の程度の明確な差の要因として、評価の違いになって現れたのではないかと考えられる.したがって、今後、魅力を評価されるSA外部空間を整備するには、景観学で重視されてきた事項を忠実に踏襲し、「SA外部空間」やそれぞれの「外構構成要素」が高評価を得るような「計画設計の手法と指針」や「設計思想」・「デザイン思想」等をより具体的に網羅し、現地整備に反映できるような「整備基準」の充実を図り、こうした基準と「景観学で重視されてきた事項」に基づく整備が必要である。