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大学・研究所にある論文を検索できる 「The effects of educational backgrounds on the relationship between perceived object stability and aesthetic judgments」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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The effects of educational backgrounds on the relationship between perceived object stability and aesthetic judgments

奥村, 恵美佳 筑波大学

2021.11.17

概要

建築、建築的構造物は、安定性や均衡、緊張感などの物理的挙動に関する印象を受けると同時に、視覚的な刺激として美的印象も受ける。これまで、工学的機能性と美的評価の研究では、構造的合理性をもつ設計に対して美しいという印象を抱くという関係性が主に議論されてきた(Barelli et al., 2006)。しかし、一見不安定そうにみえていても力強さや躍動感といった「良さ」の感覚につながることもあるため、不安定に見えるものに対して美しいと感じる条件の検討を行う必要がある。安定と感じる形を美しいと感じるのか、不安定と感じる形を美しいと感じるのかは、その感覚的評価である知覚される物体安定性と美的判断が評価者によって異なる可能性が考えられる。したがって、美的判断も評価者によって異なる場合、そこに教育背景あるいは専門性が関与している可能性がある。本論文では、教育背景または専門性が与える知覚される物体安定性と美的判断の関係への影響を検討した。本論文は全 7 章で構成され、その内の第 6 章の研究2の心理実験による検討、および第 7 章の総合考察、結論の一部は学術ジャーナルへの投稿を予定しているため、公開可能な概要を記す。

教育背景または専門性の違いによる知覚される物体安定性の捉え方の違いと、その違いがもたらす美的判断の違いを明らかにすることを本論文の目的とした。知覚される物体安定性は、重心位置や材料性質などの工学的機能に関与する構造力学要因と、工学的機能に関係ないが見かけ上の安定性に関与する視覚的力学要因によって形成されると言われている(岡本ら, 1998)。構造力学要因と視覚的力学要因を分けて検討することで、知覚される物体安定性と美的判断の関係を解明することを試みた。目的を達成するために、(1)構造力学要因と視覚的力学要因それぞれの知覚される物体安定性と美的判断との関連性、(2)関連性の違いと教育背景の関係の 2 つを検討した。建造物などを刺激対象とした場合、多くの要因が知覚される物体安定性と美的判断に影響を与えると考えられるため、心理実験において要因を統制すべく、岡本ら(1998)の先行研究を基に自立三角図形を刺激として用いた。構造力学要因による物体安定性は、転倒閾値を決める重心位置を指標とした。視覚的力学要因による見かけ上の安定性は、自立三角図形の高さ/底辺比の効果によって推定することとした。重心位置の違いによる知覚される物体安定性の評価および美的判断において教育背景の違いがあるか、また、高さ/底辺比の違いによる知覚される物体安定性の評価および美的判断において教育背景の違いがあるのか、両者の評価傾向を検討した。研究 1 における工学とデザイン教育の枠組みは、大学入学時によって決定するものであり、教育背景では分からないことがあるため、教育背景によって獲得される専門性という観点からの検討も必要であると考えた。そこで、研究 2 では、専門性が、知覚される物体安定性と美的判断に与える影響を明らかにすることを試みた。

まず、知覚される物体安定性や美的判断に影響を与えると考えられる教育背景の適切な要因を選択するために予備調査を行った。設計の専門家は多様であるが、特に建築は設計と美的表現がともに重要視される。そこで建築を評価する際に美学を重視する専門性を確認した。建築雑誌に掲載された論評をテキストマイニング法によって構造化して分析した。その結果、構造力学や材料力学の専門性と美学が関連性が高いということが分かった。設計と美学は論評上、関連性が低かったため、構造力学や材料力学の専門性と設計では美学の捉え方が異なることが示唆された。構造力学や材料力学が重要である工学を一つの教育背景とした。設計的な分野でありつつも美を目的とする設計行為はデザインと言われるため、デザインを工学と対照とする教育背景として選択した。研究 1 では、⑴構造力学要因として重心位置、視覚的力学要因として高さ/底辺比の効果の検討、⑵工学、デザイン、その他の専攻に属する3群の比較、検討を行った。実験には、3群の教育背景に属する 91 名が参加し、設計に関する専攻に限定すべく工学、デザイン学生の括りを整理し 85 名を分析対象とした。重心位置と高さ/底辺比の 2 つのパラメータで自立する三角形状の刺激を構成した。実験参加者は、刺激の安定性と美しさをリッカート尺度で評価した。

研究1の結果として、構造力学要因(重心位置)と視覚的力学要因(高さ/底辺比)は、どちらも知覚される物体安定性と美的判断に影響しており、安定と感じる形を美しい形であると感じていることが分かった。加えて、構造力学要因、視覚的力学要因の違いによる知覚される物体安定性の評価および美的判断において、工学およびデザイン教育背景の違いが認められた。具体的には、工学は、他の2群に比べ、多少なりとも不安定さを感じる場合には不安定であると判断する傾向があり、安定さを感じる形を美しいと感じることが分かった。一方で、デザインは、他の2群に比べ、知覚される物体安定性において視覚的力学の要因の影響を受けやすく、安定さを感じる形を美しいとしながらも、不安定さを感じる形の美しさを重視する傾向があった。構造力学要因と視覚的力学要因それぞれと教育背景の交互作用が見受けられた理由として、教育背景の違いの影響が原因として考えられるが、本実験は筑波大学の専攻の枠組みで行われたものであり、他大学でのデータ取得などさらなる検討が必要である。構造力学要因、もしくは、視覚的力学要因の違いによる知覚される物体安定性の評価および美的判断において、両者の教育背景の違いによる評価傾向を検討したところ、微細な違いが見受けられたが、全体的な傾向は似ていた。

研究 2 では、専門性が、知覚される物体安定性と美的判断に与える影響を明らかにすることを試みた。専門性として、力学の概念的理解度と美術専門性を定量的に測定した。転倒を理解した上で知覚される物体安定性、美的判断が行われているのか否かを明らかにするために、教育背景が物体の転倒推定に与える影響を検討した。したがって、知覚される物体安定性と美しさの評価に加えて、転倒推定の課題を全て二項選択で実施し、知覚される物体安定性と転倒推定が異なるかどうか検討した。研究2の結果は、学術ジャーナルへの投稿を予定しているため省略する。

研究 1 と研究 2 の結果から、教育背景あるいは専門性によって構造力学要因、視覚 的力学要因による判断が異なることが、知覚される物体安定性の違い、美的判断の違 いに結び付いているのではないかと考えられた。これまでは、構造的に合理的なもの に対して美しいという印象を抱くという関係性について主に議論されてきたが、安定 していると感じる形を美しいと感じるのか、不安定と感じる形を美しいと感じるかは、評価者によって異なる可能性が示唆された。今度、異なる刺激の検討、他大学や多国 籍でのデータの取得などを行い、他の要因の影響を考慮した検討が必要である。近年 では、建設業での構造設計業務を支援する人工知能システムの開発が実務化されるな ど、機械学習を用いた構造最適化の研究も推進されている(Tamura et al., 2018)。 構造力学要因だけでなく、視覚的力学要因も知覚される物体安定性と美的判断の両者 に影響を与えることが明らかになった本論文の知見、および今後の検討を通して、構 造最適化では担保出来ない心理・感性的価値の高い構造物を設計する方法論に寄与で きることが期待できる。本論文では、研究1と研究2では異なる評価軸を用いた検討 を行った。大学の専攻の違いと専門性の関係は明らかではないため、今後両者の関係 の検討を行う必要がある。評価者によって知覚される物体安定性の捉え方と美的判断が異なることが示唆された本論文での知見は、今後の研究の検討において、設計者が有する獲得された能力と両者の判断との関係、学習効果などを明らかにすることで、デザイン学の基礎研究やデザイン教育において役立てることが出来るかもしれないと考える。

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