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書き出し

抗がん剤irinotecan投与は低濃度の嗜好性塩味溶液の飲水量を減少させる

大林 奈美 広島大学

2021.08.26

概要

論文の全文要約

抗がん剤 irinotecan 投与は
低濃度の嗜好性塩味溶液の飲水量を減少させる

指導教員:河口 浩之教授
(広島大学病院 歯科医学教育学)

大林

奈美

緒言
抗がん剤治療が多くの副作用を引き起こすことは広く知られており、味覚異常はその主
要な副作用の一つである。味覚異常は抗がん剤治療を受ける患者に高頻度に発症し、食欲
不振や低栄養、QOL の低下につながる深刻な問題であるにも関わらず、その実態や発症機序
には不明な点が多い。味覚という感覚は複雑であり主観的・客観的な評価が難しいこと、
また味覚機構そのものに未だ解明されていない点があることが原因と考えられる。今回、
予備的に横断的質問紙調査を実施した結果から、topoisomeraseⅠ阻害薬である irinotecan
を投与された患者では高頻度に味覚異常が発症することを確認した。また患者の 5 基本味
(甘味、うま味、苦味、塩味、酸味)に関する主観的評価では、
「塩味の感受性が変化した」
と回答した割合が高いという結果を得た。塩味は 100 mM NaCl までの低濃度は嗜好性に、
300 mM 以上の高濃度は忌避性に受容される。味覚の受容には味蕾を構成する味細胞が関与
し、その形態的特徴からⅠ型からⅣ型に分けられる。低濃度の嗜好性塩味は主にⅠ型味細
胞が担当し、味細胞膜上のアミロライド感受性ナトリウムチャネル(ENaC)を介して受容さ
れる。甘味、旨味、苦味物質はⅡ型味細胞膜上の G タンパク質共役型受容体である Taste
receptor type1、type2(Tas1R、Tas2R)ファミリーと結合することで感知され、G タンパク
質 gustducin の活性化を介して伝達される。本研究では、irinotecan の影響で生じる低濃
度嗜好性塩味と甘味に対する行動変化と、塩味・甘味受容に関わる細胞や細胞新生への影
響について、マウスを用いた行動・組織学的解析を行い、味覚異常の発現様式を解明する
ことを目的とした。
材料と方法
1.味嗜好性解析
C57BL/6N 野生型の雄性マウスを用いた。
マウスを irinotecan 投与群とリン酸緩衝液
(PBS)
投与群の 2 群に振り分け、蒸留水と各味溶液を呈示する 2 瓶選択法により塩味・甘味に対
する嗜好性試験を行った。
塩味嗜好性試験では、50 mg/kg frosemide を腹腔内投与後 4 時間絶飲食とし、体内の NaCl
を枯渇させてから、低濃度塩味溶液(30 mM NaCl 溶液)と水の 2 瓶より 2 時間自由に飲水さ
せた。そして塩味溶液の飲水量、水の飲水量、総飲水量および塩味溶液に対する Preference
Index(PI:味溶液飲水量/(味溶液+蒸留水飲水量)✕100)を測定した。測定期間中に薬剤
(100 mg/kg irinotecan、PBS) を 1 回腹腔内投与し、投与前後での経日的変化を観察した。
また比較実験として、2 瓶選択法で呈示する塩味溶液への amiloride の添加により味細胞膜
上の ENaC を阻害し、舌上皮における低濃度塩味感受性を低下させ、上記と同様の測定を行
った。
甘味嗜好性試験では、甘味溶液(20 mM sucrose)と水の 2 瓶より 6 時間自由に飲水させ、
甘味溶液の飲水量、水の飲水量、総飲水量、および甘味溶液に対する PI を測定した。測定
期間中に薬剤(100 mg/kg irinotecan、PBS)を 1 回腹腔内投与し、投与前後での経日的変化

を観察した。
2.免疫組織化学的解析
マウスを irinotecan 投与 0 日目(薬剤投与なし)、2 日目、24 日目の 3 群に分け、100 mg/kg
irinotecan を 1 回腹腔内投与した後各時点で舌を摘出した。舌は固定しパラフィンにて包
埋後、4.5μm 薄切切片を作成し、細胞新生マーカーKi67、α-ENaC、α-gustducin の発現
を免疫組織化学的に解析した。α-ENaC に関しては、味孔における発現を陰性・陽性・強陽
性レベルに分類し、その割合を比較した。
結果と考察
塩味嗜好性試験の結果、irinotecan 投与群において、投与後の塩味溶液飲水量、総飲水
量が PBS 群と比較して減少した。また、amiloride により ENaC を阻害すると、PBS 投与群、
irinotecan 投与群のどちらも塩味溶液に嗜好性を示さず、投与前後において塩味飲水量、
水飲水量、総飲水量、PI いずれも 2 群間で差はなかった。味蕾周囲の細胞における Ki67 陽
性細胞の割合は、irinotecan 投与 0 日目、2 日目、24 日目の 3 群間で有意差はなかった。
また、味蕾を構成する細胞数にも 3 群間で有意な差はみられなかった。次に、味孔におけ
るα-ENaC の発現を観察した結果、irinotecan 投与 24 日目では 0 日目と比較して陰性像を
示す割合が増加した一方、強陽性像を示す味孔はなかった。これらのことから、irinotecan
は低濃度の嗜好性塩味飲水量を減少させることが確認され、またそれは ENaC 発現低下に一
部起因する可能性が考えられた。同時に、irinotecan 投与量 100 mg/kg では細胞新生に対
する影響は少なく、細胞数に変化もなかったことから、味細胞の絶対数が減少した結果生
じた変化ではないことが示唆された。
甘味嗜好性試験では、PBS 投与群、irinotecan 投与群いずれも甘味溶液に嗜好性を示し、
投与前後において甘味溶液飲水量、水飲水量、総飲水量、PI はいずれも 2 群間に差はなか
った。
味細胞におけるα-gustducin 陽性細胞の割合を比較すると、
irinotecan 投与 2 日目、
24 日目の双方で 0 日目より有意に低下した。
以上より、
irinotecan 投与によりα-gustducin
の発現は低下するものの甘味嗜好性行動に影響しないことが明らかとなった。
本研究は、irinotecan は低濃度の嗜好性塩味飲水量を減少させ、この変化は一部 ENaC に
起因することを示した。また、抗がん剤に対して味質ごとに感受性の差があることを示唆
した。抗がん剤によって生じる味覚異常の特徴を把握し、共通もしくは個々の発生機序が
明らかとなれば、効果的な味覚異常改善方法の発見につながると考えられる。

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