Peroxisomal Membrane Protein PMP34 Is Involved in the Human Papillomavirus Infection Pathway
概要
〔目的(Purpose)]
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染は、子宮頸癌のほとんど、中咽頭癌の半数以上の原因になっていることが明らかになっている。HPVはエンベロープを持たない二本鎖環状DNAウイルスで、100種類以上の型が存在しそのうち高リスク型の16型と18型が様々な癌種の主な原因となっている。しかしHPVの細胞侵入機構は未だ明らかにされていない。HPV研究を行う上で、まずは細胞に効率よく感染し、感染状態をGFPで評価でき、なおかつ非感染細胞を選別できる新たなpseudovirion(PsV)を作製する。そしてPsVとCRISPR~Cas9システムを用いてゲノムワイドなスクリーニング法を確立し、HPV感染に関わる遺伝子を同定する。
〔方法ならびに成績(Methods/Resuits)]
カプシドを構成するHPV16のL1とL2を含むプラスミドと、感染を確認するためのGFPや感染細胞をガンシクロビルで死滅させるためにdelta TK(herpes simplex virus thymidine kinase)を入れたレポータープラスミドを作製した。TKを発現した細胞はガンシクロビルが作用すると細胞のDNA合成を阻害しアポトーシスによる細胞死へ導くことを利用した。これらのプラスミドを用いてPsVを作製し、できたPsVが実際に細胞へ感染することをGFPで確認、FACSで定量的に評価した。また感染細胞にガンシクロビルを投与すると細胞が死滅することを確認した。
PsVに感染性の高かった293FT細胞でCas9発現細胞株を作製し、それに約18000遺伝子を対象とした約9万種類のgRNAを含んだゲノムワイドCRISPRライブラリーを感染させた。これにPsVを暴露させ、PsVに感染した細胞をガンシクロビルで死滅させPsVに感染しなかった細胞を選別した。生存細胞に挿入されたgRNAをRNAシーケンスで解読した。PsVで感染させガンシクロビルで非感染細胞を選別するという行程を5サイクル行うことで得られた生存細胞のgRNAから、SLC25A17とSAMHD1の2つの候補遺伝子が同定できた。SLC25A17はペルオキシソーム膜蛋白PMP34をコードしており、SAMHD1はデオキシヌクレオチド三リン酸をデオキシリボヌクレオチドと三リン酸に加水分解する酵素をコードしている。ヌクレオチド代謝がHPVの感染経路に関与している可能性は低いため、今回のスクリーニングの結果からは膜蛋白と関連するSLC25A17がHPV感染に関与している可能性があると示唆された。
SLC25A17に対するgRNAを2種類用意した。293FT細胞と子宮頸癌の細胞株であるHeLa細胞にそれぞれCas9を発現させた細胞を作製し、2種類のgRNAをそれぞれトランスフヱクションするとSLC25A17のmRNA発現レベルは相対的に低下した。そこへPsVを感染させ感染率が低下するかどうかを確認した。293FT細胞ではSLC25A17に対する2種類のgRNAともにコントロールgRNAと比較し感染率が低下した(p<0.0001)。HeLa細胞においてもコントロールgRNAに対し、2つのgRNAとも感染率が低下した(p<0.01, p<0.001)。これらの結果から、SLC25A17はHPVの感染経路に関与していることが示唆された。
〔総括(Conclusion)]
今回我々が新たに開発したPsVとCRSPR-Cas9システムを用いたゲノムワイドなスクリーニング法は有用であり、PMP34がHPV感染に関与していることが示唆された。