地上部と根の概日時計間におけるシグナル伝達とその機能
概要
⽣物は 1 ⽇単位で繰り返される周期的な外部環境の変動を予測し、それに対
して適切な⽣理応答を引き起こすことで適応度を上げており、固着⽣活を営む
植物では、より正確で安定した予測が求められている。そのための仕組みとして
概⽇時計が知られており、植物を含めたほとんどの⽣物が何らかの形の概⽇時
計を有していることが明らかとなっている。植物の概⽇時計は転写・翻訳を介し
たフィードバックループ制御によって形成されているが、遺伝⼦間のフィード
バック制御だけでなく、オルガネラ間や組織間といったより⼤きなスケールで
のフィードバックループの存在も報告されている。しかし、器官間のフィードバ
ックループの存在は明らかになっていない。唯⼀、植物個体全体を⽤いた解析か
らショ糖が概⽇リズムの維持に関わっていることが⽰されており、このことか
ら地上部から根への時間情報の伝達にショ糖シグナルが関与するのではないか
と予想されているのみであった。
そこで本研究では、地上部と根の間で輸送される栄養素(ショ糖とイオン)に
着⽬することで、これらが相互に時間情報を伝達していることを明らかにし、植
物の新たな概⽇リズムの制御様式を明らかにし、その意義についての洞察を得
ることを⽬的とした。
まず、根のみを対象とした解析を⾏うことで、ショ糖輸送が根の概⽇時計に与
える影響を詳細に解析した。根に輸送されるショ糖量は概⽇時計による制御を
受け、さらに、ショ糖量に応じて PSEUDO-RESPONSE REGULATOR 7 (PRR7)
を含む複数の時計遺伝⼦の発現量が変動することを明らかにし、地上部の概⽇
時計によって制御されているショ糖の産⽣・輸送が、根の時計遺伝⼦の発現を制
御することを明らかにした。
時計遺伝⼦のなかでも PRR7 はとくに鋭敏にショ糖に応答したことから、つ
ぎに、根の PRR7 の機能を解析した。根の概⽇時計は陽イオンの吸収や輸送を
制御することが知られており、また、これらの陽イオンの⽋乏は概⽇リズムの周
期や位相を制御することも知られていたことから、根の PRR7 が栄養の取り込
み・輸送を介して地上部に時間情報伝達している可能性を考えた。 ...