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細胞老化におけるプロテアソーム機能の解明

入木, 朋洋 東京大学 DOI:10.15083/0002005156

2022.06.22

概要

【序論】
細胞老化とは、DNA損傷、テロメア短縮、タンパク質恒常性の破綻などのストレスにさらされた細胞が増殖を不可逆的に停止する現象である。細胞老化を誘導するストレスの多くががん原性のストレスであることから、細胞老化は細胞のがん化を防ぐ機構であると考えられてきた。しかし、近年の研究により細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は炎症性サイトカインなどの分泌(senescence associated secretory phenotype: SASP)を介して周囲の細胞の慢性炎症を引き起こし、疾患や個体の老化を促進することが明らかになっている。そのため、細胞老化は治療の標的としても着目されており、老化細胞の形質の解析が進められている。プロテアソームは、細胞内タンパク質分解によりタンパク質恒常性の維持に中心的な役割を果たしているが、近年、プロテアソームの機能低下により細胞老化が誘導されることが報告された。老化細胞でプロテアソーム活性が低下することや、プロテアソーム機能を人為的に向上させると細胞老化が抑制されることも知られており、プロテアソームと細胞老化の密接な関連が示唆されている。しかし、細胞老化によりプロテアソーム機能が低下する機構や、プロテアソーム機能低下により細胞老化が誘導される機構は不明であった。そこで本研究では、RNAシークエンシング(RNA-seq)や質量分析により、細胞老化時の遺伝子・タンパク質発現変動を網羅的に解析することで、細胞老化によりプロテアソーム機能が低下する機構と、プロテアソーム機能低下による細胞老化誘導機構の解明を目指した。

【結果・考察】
1.プロテアソーム阻害により誘導される細胞老化は既知の細胞老化と類似の表現型を示す
プロテアソーム機能低下により老化した細胞における遺伝子・タンパク質発現解析をするため、ヒト正常二倍体線維芽細胞であるWI-38細胞をプロテアソーム阻害剤ボルテゾミブ(BTZ)で処理したのち、BTZ不含培地で培養することで、不可逆的な増殖停止を引き起こす条件を探索した。その結果、5nMのBTZで7日間処理した際に不可逆的な増殖停止が確認された。またその際に、細胞老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)活性の亢進、SASP因子の発現上昇などの老化細胞の表現型が認められたことから、プロテアソーム阻害により細胞老化が誘導されることが確認された。そこで、プロテアソーム機能低下により誘導される細胞老化が、DNA損傷などの既知の細胞老化誘導刺激により誘導される細胞老化と異なる特徴があるのか調べるため、プロテアソーム阻害、DNA損傷、継代培養によって細胞老化を誘導し、RNA-seqと質量分析によって老化前後の遺伝子・タンパク質の発現変動を網羅的に解析した。発現の上昇・低下した遺伝子・タンパク質のパスウェイ解析や遺伝子オントロジー解析の結果、プロテアソーム機能低下により誘導される細胞老化と既知の老化刺激で誘導される細胞老化の間で、誘導・抑制される遺伝子群に大きな違いはなかった。これらの結果から、プロテアソーム機能低下により老化した細胞は、既知の老化刺激によって老化した細胞と類似の遺伝子・タンパク質発現変動を示すことが明らかとなり、プロテアソーム機能低下により典型的な細胞老化が誘導されることが明確になった。

2.老化細胞ではプロテアソームの形成状態が変化する
老化細胞におけるプロテアソーム機能を解析するために、老化細胞におけるプロテアソーム活性を測定したところ、活性低下が確認された。また老化細胞に対するRNA-seqと質量分析の結果、プロテアソームサブユニットの発現量が減少していることが明らかとなり、老化細胞ではプロテアソームの発現量が減少することでプロテアソーム活性が低下していることが明らかとなった。

さらに、RNA-seqと質量分析の結果から、プロテアソームの形成を担うシャペロンの発現がサブユニットの減少と比べても顕著に減少していることが明らかとなった。細胞内でユビキチン化タンパク質の分解を担うプロテアソームは、活性中心であるCP(core particle)の両端にRP(regulatory particle)が結合した26Sプロテアソームであり、その正常な形成にはプロテアソーム形成シャペロンの機能が不可欠である。そこで、老化細胞においてはプロテアソームの形成に変化があると考え、WI-38細胞の細胞抽出液をグリセロール密度勾配遠心法により分画したところ、老化細胞では26Sプロテアソームの活性が低下する一方、遊離CPの活性は低下していなかった(Fig.1A)。さらにイムノブロットの結果、26Sプロテアソーム画分におけるRPサブユニットの発現量が減少しており、26Sプロテアソームの形成に異常があることが明らかとなった。(Fig.1B)。これらの結果からプロテアソームの発現量が減少することと、26Sプロテアソームの形成機能が低下することが、老化細胞におけるプロテアソーム機能低下の要因であることが明らかとなった。

3.細胞老化に伴いプロテアソームが核で凝集する
プロテアソームの細胞内局在は、様々なストレスにより変化することが知られている。そこで、老化細胞ではプロテアソーム局在が変化することでプロテアソーム機能変化が生じる可能性を考え、免疫染色によりプロテアソームの局在を観察したところ、プロテアソームが核内で凝集していることがわかった(Fig.2)。この凝集はCP・RP双方のサブユニットを含むことから、26Sプロテアソームとして局在していることが示唆された。また、この凝集はPML体、核スペックル、細胞老化特異的ヘテロクロマチン構造(SAHF)などの既知の核内構造体とは一致しないことから、新規の核内構造体であることが示唆された。

4.核内凝集でプロテアソームは基質の分解を行う
プロテアソームの主要な機能はユビキチン化タンパク質の分解である。そこで、プロテアソームの核内凝集がユビキチン化基質の分解に機能しているかを検討した。その結果、主にタンパク質の分解シグナルとして機能する、48番目のリシン残基を介して重合したポリユビキチン(K48ポリユビキチン鎖)とプロテアソームが共局在することがわかった(Fig.3)。さらに、ユビキチン活性化酵素E1の阻害剤によりユビキチン化を阻害するとプロテアソームの凝集が消えることから、プロテアソームはユビキチン化された基質を認識して集合していることが示された。

さらに、プロテアソームの分解共役因子との共局在を検討したところ、ユビキチンリガーゼの一つUBE3A、基質をプロテアソームへと運搬するシャトルファクターRAD23B、ユビキチン選択的シャペロンVCP/p97が共局在していることが明らかとなった。これらの結果から、老化細胞で認められるプロテアソームの凝集は、タンパク質の分解を担っていることが示唆された。

【総括】
私は本研究を通して、プロテアソームの機能低下により誘導される細胞老化が、既知の老化刺激によって誘導された細胞老化と類似した表現型を示すこと、老化細胞におけるプロテアソーム機能の変化がプロテアソーム発現量の低下と形成状態の変化に由来するものであることを解明した。さらに、老化細胞ではプロテアソームが核内で新規構造を形成することを発見し、老化細胞では機能低下以外のプロテアソーム機能変化が生じることを明らかにした。現在、老化細胞の核内凝集においてプロテアソームが分解する基質の同定作業を進めている。その結果をもとに、プロテアソームが老化細胞で果たす機能のさらなる解明を進める。

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