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大学・研究所にある論文を検索できる 「唇側歯槽骨に裂開が存在する審美領域のインプラント治療において抜歯後即時および早期埋入が術後軟組織退縮に及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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唇側歯槽骨に裂開が存在する審美領域のインプラント治療において抜歯後即時および早期埋入が術後軟組織退縮に及ぼす影響

藤井, 三紗 大阪大学

2022.03.24

概要

I. 目的
 審美領域のインプラント治療は,生存率が高いことに加え,審美的にも質の高い治療結果が必要とされる.そのため,抜歯後にインプラント体を埋入する時期は慎重に選択する必要がある.インプラント体埋入時期は,抜歯後即時埋入,早期埋入および遅延埋入の3つに分類され,それぞれ95%以上の高い生存率を示している.
 抜歯後即時埋入は,抜歯と同日にインプラント体を埋入することで手術回数を減少でき,また,抜歯窩の治癒を待つ必要がないため,治療期間を短縮できることから患者にとってのメリットが多く,選択される機会が増えている.一方,術後に軟組織退縮を引き起こし審美障害が生じる危険性があるため,適用される症例は限られると報告されている.そのため,術後に良好な審美性を得ることが難しいと予測される場合,抜歯後即時埋入に結合組織移植術(Connective tissue graft: 以下CTG)を併用,あるいは早期埋入への埋入時期の変更が推奨されている.いくつかの文献報告によると,抜歯後即時埋入において審美的な治療結果を左右する要素の一つとして術前の唇側歯槽骨の裂開が挙げられる.インプラント治療予定である天然歯の唇側歯槽骨には裂開が生じていることが多いが,裂開の有無や形態に着目した過去の文献は少ない.裂開が存在する抜歯前唇側歯槽骨に対して,抜歯後即時埋入にCTGを併用,あるいは早期埋入を適用した症例における,抜歯前唇側歯槽骨裂開の形態と術後のインプラント体唇側組織形態について評価した報告は存在せず,抜歯前唇側歯槽骨に裂開が存在する症例において術後良好な審美性を得るために,いずれの術式が適しているかは明らかとなっていない.この理由としては,報告ごとに裂開の計測方法,計測の基準点が異なることや,治療結果の評価が不十分であることが挙げられる.そこで本研究では,抜歯前および術後のCone-beam computed tomography(CBCT)を重ね合わせ計測する手法を用いた.本手法を用いることで,抜歯前のCBCT画像データ上に,実際に埋入されたインプラント体と同一形態のインプラントモデル(IM)を同一位置に設置することが可能となり,インプラントモデルを基準として抜歯前の裂開の計測を行うことで唇側歯槽骨の裂開の基準化および定量化が可能になると考えた.
 本研究の目的は,CBCT画像データを重ね合わせる手法を用いて,抜歯前唇側歯槽骨に裂開が存在する審美領域のインプラント治療において,抜歯後即時および早期埋入の抜歯前歯槽骨形態,そして術後のインプラント体唇側組織形態を後ろ向きにて評価し,術後の軟組織退縮量に影響する因子の検討を行うことである.
 本研究は,大阪大学大学院歯学研究科・歯学部及び歯学部附属病院倫理委員会の承認を受けた上で行った(承認番号R2-E20).

Ⅱ. 被験者および方法
 大阪大学歯学部附属病院口腔補綴科にて2011年8月から2019年6月までに上顎前歯部あるいは小臼歯部にインプラント治療を受けた患者505名を対象とした.包含基準は,1)抜歯当日,または抜歯後4週から16週までに,骨造成と同時にインプラント体埋入が行われていること,2)抜歯前唇側歯槽骨に裂開が存在していること,3)テーパージョイント,プラットフォームシフティングを有するインプラント体が埋入されていること,4)固定性の上部構造が装着されていること,5)当該歯の抜歯前(T0),上部構造装着時(T1),上部構造装着後約1年経過後の定期検診時(T2)にCBCT撮影が行われていることとした.除外基準は,1)喫煙者であること,2)糖尿病で加療中の患者であること,3)急性の感染所見が認められることとした.
 すべての基準を満たした49名(男性:19名,女性:30名,平均年齢:60.0士14.0歳)を本解析の被験者とした.これらを抜歯後即時埋入群(I群)20名,抜歯後即時埋入とCTGを併用した群(IC群)14名,早期埋入群(E群)15名の3群に分け,群間の解析を行った.
 解析1では,各群における抜歯前唇側歯槽骨形態を比較した.T0のCBCTから,プラットフォームレベル(PL)を基準とし,唇側歯槽骨の裂開の近遠心的な幅(DW),唇側歯槽骨の裂開の深さ(DH),IMの最も唇側を基点とする歯根の頰舌的な幅(GAP),およびインプラント体露出量(EH)を計測した.
 解析2では各群における術後インプラント体唇側組織形態の経時的変化量を比較した.T1,T2OCBCTから,PLにおける唇側硬組織および軟組織の唇舌的厚み(BWおよびGW),PLから硬組織頂および軟組織頂までの高さ(BHおよびGH)を計測し,これらのT1からT2にかけての経時的変化量(△BW,△GW,△ΒΗ,△GH)を算出した.解析1および2では,Kruskal-Wallis検定にて3群間の比較を行い,差が認められた項目についてBonferroni補正のMann-WhitneyのU検定による多重比較を行った.(有意水準1.7%)
 解析3では抜歯前唇側歯槽骨形態(DW,DH,GAP,EH)とΤΙ,T2におけるGW,GH,△GW,△GHとの相関関係についての評価を行った.統計解析にはSpearmanの順位相関係数を用いた.(有意水準5%)
 解析4では術後軟組織退縮に,裂開の幅および深さ,埋入時期の違い,およびCTGの有無が及ぼす影響について,目的変数を術後軟組織退縮量(AGH),説明変数をDW,DH,埋入時期(抜歯後即時埋入,早期埋入),およびCTGの有無,とした重回帰分析を用いて検討した.(有意水準5%)

Ⅲ. 結果および考察
 解析1では,E群がI群およびIC群と比較してDWが有意に大きかった(P<0.05).その他の計測項目には群間の有意差を認めなかった.インプラント体埋入予定位置の唇側歯槽骨に大きな裂開が存在している場合,術後軟組織退縮が生じる可能性が高くなると報告されている.そのため術前のCBCT画像データより3-4mmを超える裂開が存在していると,術後に軟組織退縮を認める可能性が高くなると予測され,早期埋入を選択する傾向を認めた.
 解析2では,IC群およびE群は,I群と比較して,T1,T2におけるGWが有意に大きく(Ρ<0.05),△ΒΗおよび△GHが有意に小さかった(P<0.05).軟組織退縮や骨吸収を起こさないためには厚い唇側軟組織量が必要であると報告されている.IC群およびE群で術後軟組織退縮量や骨吸収量が少なかったことは,術後に厚い軟組織量を獲得できたことが要因であると考えられた.
 解析3では,I群において,DWおよびDHとT2GHの間に負の相関係数を認め(DW: r=-0.50, P=0.03, DH: r=-0.46,P=0.04),DW,DHが大きいほどT2GHが小さかった.また,DWと△GHの間に正の相関を認め(r=0.48, P=0.03),DWが大きいほど△GHが大きかった.抜歯前唇側歯槽骨に大きな裂開が存在している場合,抜歯後に生じる垂直的骨吸収量は大きくなり,抜歯後即時埋入を適用しても抜歯後の骨吸収を防ぐことはできない,と報告されている.そのため,DWやDHが大きい場合には抜歯後即時埋入後に生じる骨吸収量の予測は困難となるため,術後インプラント体唇側組織形態に影響すると考えられた.IC群およびE群では,抜歯前唇側歯槽骨形態と術後軟組織退縮の間に相関を認めなかった.これは抜歯後即時埋入にCTGを併用することで術後唇側軟組織の厚みが増えること,また早期埋入においては早期埋入時に唇側歯槽骨形態が変化し抜歯窩は軟組織で満たされるため唇側軟組織量が増加することが理由であると考えられ,抜歯前唇側歯槽骨形態に左右されず,術後軟組織退縮量を低減できる可能性があると示唆された.
 解析4では,術後軟組織退縮には,埋入時期(β=-0.739),CTGの有無(β=-0.520),DW(3=0.378)の順で有意に影響しており,DHは有意な影響を示さなかった.過去の報Wより,裂開の幅が狭ければ裂開を修復するために十分な骨治癒が生じるため,インプラント治療後にも良好な審美的結果を得ることができるとされている.そのため裂開が深くても幅が狭ければ術後軟組織退縮のリスクが低いことが示唆された.また以下の重回帰式が得られ,裂開の幅が広い場合に抜歯後即時埋入を適用する際には結合組織移植術を適用すること,あるいは埋入時期を早期埋入へ変更することで軟組織退縮量は低減すると予測された.
△GH=0.361-0.644 × 埋入時期-0.444 × CTGの有無+0.147 × DW

IV. 結論
 抜歯前唇側歯槽骨に裂開が存在する審美領域への抜歯後即時および早期埋入の術後インプラント体唇側組織形態の変化量を評価した結果,軟組織退縮量を低減するための埋入時期の判断基準について以下の結論を得た.
1. 抜歯後即時埋入では結合組織移植術を併用することで,また早期埋入では抜歯後軟組織の治癒を待つことで,それぞれ厚い唇側軟組織が得られることが示唆された.
2. 裂開の幅が狭い場合には,裂開が深くとも抜歯後即時埋入による術後軟組織退縮のリスクが低いことが示された.
3. 裂開の幅がより広い場合,抜歯後即時埋入を適用する場合には結合組織移植術を併用することで,あるいは埋入時期を早期埋入へ変更することで,術後軟組織退縮のリスクは低減されることが示唆された.

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