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大学・研究所にある論文を検索できる 「プラナリアにおける多能性幹細胞の移動・自己複製・分化の関連性の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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プラナリアにおける多能性幹細胞の移動・自己複製・分化の関連性の解析

佐藤, 勇輝 京都大学 DOI:10.14989/doctor.k23745

2022.03.23

概要

一般に、ES 細胞や iPS 細胞といった成体を構成する全ての種類の分化細胞に分化することのできる多能性幹細胞は発生の初期のみに存在し、成体内には存在しない。さらに、マウスなどの成体に多能性幹細胞を移植すると奇形腫と呼ばれる腫瘍を形成してしまうことが報告されており、多くの多細胞生物では多能性幹細胞を成体内で維持・利用することができないとされている。しかし、プラナリアは成体内に多能性幹細胞である neoblasts を維持しており、この neoblasts を利用することで組織恒常性の維持・再生を可能にしている。佐藤勇輝氏の博士論文は、プラナリア Dugesia japonicaがどのようにしてプラナリアが成体になっても多能性幹細胞を維持・利用しているのかという問いに対して、幹細胞の移動・自己複製・分化の関連性を示しながら考察したものである。

各章の概要は、次の通りである。
第一章「MTA ホモログ遺伝子による neoblasts の移動制御と幹細胞ニッチ」では、 neoblasts の移動と分化の関連性に焦点を当て解析を行っている。Neoblasts がプラナリアの間充織組織内を移動していることは 1940 年代から報告されてきたが、その移動制御機構に関しては明らかになってこなかった。申請者は、neoblasts の移動制御機構を明らかにするために、がん細胞の移動能獲得に関与する Metastatic Tumor Antigen (MTA)に着目し、プラナリアにおける 2 つのホモログ遺伝子である MTA-A と MTA-B に関して RNAi による機能解析を行った。興味深いことに、通常はプラナリアの間充織全体に均一に分布している neoblasts がMTA-A、MTA-B 機能阻害個体では樹状のクラスターを形成して密集して存在するようになっており、この樹状領域内で neoblasts の自己複製が行われ、分化が抑制されていることが示された。さらに部分的 X 線照射の実験によって、MTA-A は樹状領域外への移動に重要であり、MTA-B は neoblasts が移動すること自体に必要であることが明らかにされた。以上の結果から、neoblasts が分化を抑制されながら自己複製している幹細胞ニッチと考えられる樹状領域の存在を示唆し、MTA の働きによって幹細胞ニッチ外へ移動することで neoblasts が分化していくことを提唱している。

第二章「多能性幹細胞ニッチと幹細胞ニッチと関連した neoblasts の分子学的特徴の探索」では、第一章で示唆された幹細胞ニッチに関連した解析が進められている。 MTA-A、MTA-B 機能阻害個体での遺伝子発現解析から、樹状の幹細胞ニッチ内に存在する neoblasts ではギャップ結合を形成する innexin-B が発現しており、幹細胞ニッチ外に存在する neoblasts では P2X-A が発現していることが明らかにされた。また、このような分子学的特徴を持った neoblasts の樹状クラスターは、MTA 機能阻害によって移動が阻害された場合にのみ観察される訳ではなく、低線量 X 線を照射した際に生き残った neoblasts が自己複製を繰り返して集団を回復する過程でも観察された。よって、neoblasts の樹状クラスターは MTA を機能阻害した際にのみ観察されるアーティファクトではなく、未分化状態を維持している neoblasts が接着し自己複製している幹細胞ニッチを反映している可能性を強く示唆している。また、このような幹細胞ニッチが胚発生過程のどの時期から現れるのか検討するために Dugesia ryukyuensis を用いた発生観察にも着手している。この観察から、胚の直径が 500 µmを超える発生後期から幹細胞ニッチが形成され始め、プラナリアの外部形態を持つが卵から孵化していない幼若個体では樹状の幹細胞ニッチ内で neoblasts がクラスターを形成しており、卵から孵化した成体では neoblasts が移動して間充織全体に分布していることが示唆された。本章の結果から、プラナリアには樹状の多能性幹細胞ニッチが発生後期から存在していることが強く示唆されている。

第三章「cdh1 による細胞周期制御と neoblasts の分化応答能」では、neoblasts の自己複製と分化の関連性に着目した解析が行われた。幹細胞の自己複製と分化に関連性があることは 1980 年代から提唱されているが、未だに明確に関連性が証明されていない発生生物学にとっても大きな問題の 1 つである。自己複製は細胞周期が G1 期→S 期→G2 期→M 期と進行することで起きており、G1 期に細胞周期が停止して G0 期に入ると自己複製も停止する。一般的な多細胞生物では、p16 や p21 といった CDK inhibitors(CKIs)やCdh1 といった複数の分子が、さらにその分子の活性を調節する多数の分子と相互作用し複雑な制御ネットワークを形成して細胞周期停止を誘導している。しかし、プラナリアのドラフトゲノムには CKIs が存在せず、プラナリアでは Cdh1 の発現のみに依存して細胞周期停止が導かれる非常にシンプルな制御機構が存在している可能性が示された。プラナリアでcdh1 を機能阻害すると、細胞周期を停止できなくなり自己複製が促されて neoblasts が劇的に増加するが、neoblasts が分化できていなかった。さらに詳しい解析の結果、cdh1 機能阻害によって自己複製を続けている neoblasts では、分化を誘導する ERK シグナルが活性化されても、そのシグナルに応答できず分化しないことが明らかにされた。よって、細胞周期が進行している状態では neoblasts が分化応答能を持たず未分化状態を維持し、細胞周期が停止することで初めて分化応答能を獲得して分化していくことが示された。

以上の結果から、neoblasts の移動が幹細胞ニッチと関連することで分化にも影響を与えており、neoblasts の自己複製は分化応答能を決定することで分化を制御していることが明らかにされた。よって本論文は、プラナリアがどのように多能性幹細胞を成体内で維持・利用しているのかという問いへの答えに大きく貢献したと評価できる。

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