十二指腸空腸バイパス術の非アルコール性脂肪肝炎改善効果における胆膵路の役割
概要
【背景と目的】肥満との関連性が高い非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)には,肝硬変や肝細胞癌に進行しうる非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)が含まれる.動物実験・実臨床において,NAFLDでは腸管由来のリポ多糖類(lipopolysaccharide: LPS)がNASHの発症に関与することが示唆されている.治療は,食事・運動療法を中心とした減量であるが効果は不確実な場合がある.一方で,病的肥満に対する減量手術(bariatric surgery)が併存する本疾患を高率に改善させることが報告されている.当教室では,過去の研究において肥満を伴う食餌誘発性の非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)モデルラットを作成し,十二指腸空腸バイパス術duodenal jejunal bypass (DJB)を施行することで,血中胆汁酸濃度の上昇とその抗炎症効果によりNASH所見の改善が得られることを報告した.また,肥満糖尿病モデルラットにおいては,DJB術後の体重増加抑制効果・糖尿病改善効果が胆膵路(bilio-pancreatic limb: BP-limb)を切除することでキャンセルされることを示し,BP-limbの重要性を見出した.本研究の目的は,食餌誘発性肥満NASHモデルラットを用い,DJBのNASH改善効果におけるBP-limbの役割を検討するとともに,その機序を腸・肝臓軸の観点から明らかにすることとした.
【方法】既報に準じ,Sprague-Dawleyラットに高脂肪・高フルクトース食を12週間与え肥満を伴うNASHモデルを作成し,DJBを施行した.DJBはそれぞれBP-limbを30cmとした30-DJB群,0cm群とした0-DJB群の2群を作成し,これに腸管を切離・再吻合するのみのsham群を加え計3群で比較検討した.
【結果】3群間で食餌摂取量に差は認めないものの,30-DJB群では術後体重増加抑制効果を認め,0-DJB群では認めなかった.30-DJB群で認められた血漿ALT,NAFLD activity scoreの軽減は,0-DJB群では認めずsham群と同等であった.すなわち,BP-limbの切除によりNASH改善効果がキャンセルされた.さらに,30-DJB群では,肝臓における炎症性サイトカインおよびLPS受容体の遺伝子発現や,免疫染色でのCD68陽性細胞が占める面積割合やCD3陽性Tリンパ球の個数が低値であったが,これらの所見は0-DJB群では同様にキャンセルされた.また,小腸組織における炎症関連の遺伝子発現や門脈血中のLPS binding protein濃度も同様の傾向を認めた.
【結語】肥満に伴うNASHモデルラットを用いた実験において,DJBにおけるBP-limbはNASH改善効果にも寄与していることが明らかとなった.BP-limbの存在が,腸管炎症を軽減し,肝臓においてはLPSに関連するカスケードを抑制することで肝炎が軽減している可能性が示唆された.