24時間多チャンネルインピーダンス-pHモニタリングを用いた胸部食道癌手術症例の咽喉頭逆流に関する臨床研究
概要
背景:
食道癌の 5 年生存率は上昇しており,術後の長期生存例の増加に伴い,術後の Quality of lifeへの十分な考慮を行うことの重要性が増している.胸部食道癌術後の諸問題の一つに胃食道逆流症がある.胃食道逆流症のうち,上部食道括約筋 (Upper esophageal sphincter) を越えて逆流が咽頭,喉頭に到達し,種々の咽頭,喉頭症状,および呼吸症状をきたすものは咽喉頭逆流症 (Laryngopharyngeal reflux disease; LPRD) といわれている.胸部食道癌術後は,食道胃接合部の逆流防止機構の消失による易逆流状態となり,UES と再建臓器の間の距離の短縮があるため,UES を越える逆流である咽喉頭逆流 (Laryngopharyngeal reflux; LPR) が増え,喉頭の粘膜の炎症や,逆流内容の誤嚥により,咳嗽や肺炎といった LPRD 症状が増えると想定されているが,実際に術後に LPRが増加していること,また術後の LPR と呼吸症状との関連を示した報告はない.
目的:
胸部食道癌にて手術を受ける患者に対し,術前後で 24 時間多インピーダンス-pH モニタリング (MII/pH) を施行し, 術後の LPR の発生や頻度の増加の有無を明らかとする.LPR の多い患者の臨床学的背景を明らかとし,LPR に考慮した手術方法や対応を検討する.
方法:
胸部食道癌手術の通常診療に加えて,MII/pH,上部消化管内視鏡検査,症状スコアリング (Frequency scale for the symptoms of GERD (FSSG), Reflux symptom index (RSI) を術前および術後に施行し,逆流関連の指標を比較検討する.
結果:
25 名の患者が研究に参加し,24 名が術前のMII/pH を施行され,そのうち20 名が術後のMII/pHまで検査を完遂した.術前は 10 名の患者に LPR を認めた.術後は 19 名の患者で LPR を認め,術前からの LPR 数の有意な増加を認めた(p<0.05).上部消化管内視鏡検査では逆流性食道炎の所見の増加を認めず,術後の FSSG,RSI ともに陽性者数の有意な増加は認めなかった.術後に LPR 関連症状として,慢性咳嗽および肺炎を認めた患者は 7 名で,いずれの患者も術後の LPR 数の増加を認めた.消化管再建は全例胃管を用いて再建され,食道と胃管間の吻合法を検討すると,端側吻合が端端吻合,側側吻合に比べ LPR 数が少ない結果であった(2.0: 7.5: 9.5; p<0.05).
結論:
胸部食道癌術後は LPR 数が増加する傾向がみられた. LPR は術後の咳嗽や肺炎に関与する可能性があり,LPR の抑制に考慮した手術方法を検討するべきである.