Barrett食道腺癌の発生部位に、酸を中心とした食道内逆流と粘膜傷害の程度が関連する
概要
博士論文
Barrett 食道腺癌の発生部位に、酸を中心とした食道内逆
流と粘膜傷害の程度が関連する
東北大学大学院 医学系研究科 医科学専攻
内科病態学講座 消化器病態学分野
大原 祐樹
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Ⅰ 要約
【背景】Barrett 食道腺癌は胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease, GERD)と
の関連性が指摘されており、24 時間 pH・多チャンネルインピーダンスモニタリング(24hr
multichannel intraluminal impedance pH monitoring, 24hr MII-pH)で、腺癌の合
併のない Barrett 食道群よりも酸を中心とする食道内逆流が多いことが報告されている。し
かし、Barrett 食道腺癌の発生部位に関しては、Barrett 食道内での癌の局在と食道内逆
流因子を検討した報告は少なく、特に病変の周在性と食道内逆流因子の関連を詳細に検
討した報告はない。また、Barrett 食道腺癌の発癌の背景として、GERD によって引き起こ
される粘膜傷害の関与が指摘されているが、Barrett 食道腺癌の病変の局在と粘膜傷害の
関連を検討した報告は今までにない。
【目的】Barrett 食道腺癌の病変の局在に関連する病態を、24hr MII-pH にて評価した食
道内逆流因子および粘膜傷害を反映する基線値を用いて明らかにすることを目的とした。
【方法】内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection, ESD)を施行前に
24hr MII-pH を施行した表在型 Barrett 食道腺癌 56 例を対象とした。対象 56 例を、(1)
病変の長軸方向の局在により、食道胃接合部に接している群(EGJ 群)35 例と離れて口側
に存在している群(non-EGJ 群)21 例、(2)病変の周在性の局在により、0-3 時方向に病変
の主座を置く群(0-3 時方向群)42 例と 4-11 時方向に病変の主座を置く群(4-11 時方向群)
14 例に分類し、その患者背景、胃酸分泌能(endoscopic gastrin test, EGT)と、24hr
MII-pH により評価した食道内逆流因子(食道内酸暴露時間(acid exposure time, AET)、
2
Bolus exposure(総逆流・酸・弱酸・アルカリ)、逆流回数(総逆流・酸・弱酸・アルカリ))、下
部食道括約筋(lower esophageal sphincter, LES)上縁から 3, 5, 7 cm 口側部位の基線
値について比較検討した。
【結果】(1)病変の長軸方向の局在における食道内逆流因子に関しては、AET、Bolus
exposure の総逆流・酸逆流が non-EGJ 群で EGJ 群より高値を示した。基線値に関して
は、LES 上縁から 3, 5, 7 cm 口側部位でいずれも non-EGJ 群で EGJ 群より低値を示し
た。(2)病変の周在性の局在における食道内逆流因子に関しては、AET、Bolus exposure
の総逆流・酸逆流が 4-11 時方向群で 0-3 時方向群より高値を示した。基線値に関しては、
LES 上縁から 3, 5, 7 cm 口側部位でいずれも 4-11 時方向群で 0-3 時方向群より低値を
示した。
【結論】Barrett 食道腺癌の局在に、酸を中心とした食道内逆流と粘膜傷害の程度が影響
する可能性が示唆された。
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略語
GERD - gastroesophageal reflux disease
24hr MII-pH -24hr multichannel intraluminal impedance pH monitoring
ESD - endoscopic submucosal dissection
EGJ - esophagogastric junction
EGT - endoscopic gastrin test
AET - acid exposure time
LES - lower esophageal sphincter
SCJ - squamo-columnar junction
BMI - body mass index
LSBE - long segment Barrett’s esophagus
SSBE - short segment Barrett’s esophagus
MAO - maximum acid output test
PPI - proton pump inhibitor
P-CAB - potassium-competitive acid blocker
FD - functional dyspepsia
NO - nitric oxide
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Ⅱ 研究背景
Barrett 食道腺癌は、欧米において過去数十年間増加傾向であり、米国の白人男性に
おいては 1995 年を境に食道癌における扁平上皮癌と腺癌の頻度が逆転し、腺癌が約 7 割
に達している
1,2)。一方、本邦では食道癌の
90 %以上が扁平上皮癌であり、Barrett 食道
腺癌はいまだ頻度の少ない疾患であるが 3-5)、近年徐々に増加傾向であり 6)、注目されつつ
ある。
胃酸を含む胃内容物の食道への逆流によって胃食道逆流症(gastroesophageal reflux
disease, GERD)が引き起こされ、GERD によって食道の粘膜が傷害と修復を繰り返し、元
の扁平上皮が酸環境に適した円柱上皮に置換された状態が Barrett 食道であると考えら
れている
7-9)。さらに、Barrett
食道は Barrett 食道腺癌の発生母地であり、胃食道逆流に
より食道粘膜に慢性の炎症が持続し、発癌のハイリスク状態となると推察されている 10,11)。
Barrett 食道腺癌の発生には胃酸を含む胃内容物の食道内への逆流が関与していると
推察されている。近年、24 時間食道 pH・多チャンネルインピーダンスモニタリング(24hr
multichannel intraluminal impedance pH monitoring, 24hr MII-pH)が開発・導入さ
れ、従来の pH モニタリング検査等と比較して、より詳細に食道内逆流因子を評価し、病態
を検討することが可能となった。24hr MII-pH を用いた、Barrett 食道腺癌と腺癌の合併の
ない Barrett 食道の比較検討では、Barrett 食道腺癌で酸を中心とした食道内逆流が多
いことが報告されている
12)。しかし、Barrett
食道腺癌の発生部位に関して食道内逆流因
子を検討した報告はほとんどない。
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病変の周在性に関して、GERD および Barrett 食道は 2 時方向を中心とした 0-3 時方
向に多く発生するとされる 13,14)。また、Barrett 食道腺癌も Barrett 食道と同様に 0-3 時方
向に多く発生することが報告されているが
13,15-17)、病変の周在性と食道内逆流因子の関連
を詳細に検討した報告はない。
さらに、Barrett 食道腺癌は、胃酸を含む食道内逆流による粘膜傷害が強い状態が継続
することによって発癌に至ると考えられているが 18-21)、病変の局在に関して粘膜傷害の程度
との関連を検討した報告は今までにない。一方、多チャンネルインピーダンスモニタリング
(multichannel intraluminal impedance, MII)では、カテーテル上に配列された複数の
電極間で食道粘膜の電気抵抗値を測定しており、その経時的な数値の平均が基線値として
算出される。MII の基線値は電極間の抵抗値の平均値を表し、粘膜抵抗値と正の相関があ
ることが報告されている
22)。また、粘膜抵抗値は粘膜傷害とは負の相関を持つことも報告さ
れており 22,23)、MII の基線値によって粘膜傷害の程度を評価することが可能である。
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Ⅲ 研究目的
Barrett 食道腺癌の病変の局在に関連する病態を、24hr MII-pH により評価した食道
内逆流因子および粘膜傷害を反映する基線値を用いて明らかにすること。
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Ⅳ 研究方法
1 対象
対象は、2013 年 9 月から 2020 年 6 月までに内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic
submucosal dissection, ESD)を施行前に、24hr MII-pH を施行した表在型 Barrett 食
道腺癌連続 56 例とした。本検討では、上部消化管の手術歴を既往に有する症例、活動性
の消化性潰瘍合併例は除外した。
本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て行われ (2020-11058)、後方視的に検討を行った。
2 定義
(1) 食道胃接合部(esophagogastric junction, EGJ)
EGJ は、内視鏡的に確認できる食道下部柵状血管の遠位側端とした
24)。柵状血管が判
定できない場合は、胃の縦走ひだの口側終末部とした 24)。
(2) Barrett 粘膜
Barrett 粘膜は、食道癌取扱い規約(第 11 版)に従い、腸上皮化生の有無を問わず胃か
ら連続性に伸びる円柱上皮とし、内視鏡的に確認された EGJ と squamo-columnar
junction(SCJ)に挟まれた部分とした 24)。
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(3) Barrett 食道
Barrett 食道は、Barrett 粘膜の存在する食道とした 24)。
(4) Barrett 食道腺癌
Barrett 食道腺癌は、Barrett 粘膜に生じた腺癌とし、内視鏡所見および病理組織学
的所見に基づき診断した 24,25)。
(5) EGJ 群と non-EGJ 群
病変が EGJ に接しているものを EGJ 群、EGJ と離れて口側に存在するものを nonEGJ 群とした 12)(図 1)。
(6) 0-3 時方向群と 4-11 時方向群
内視鏡で EGJ を見下ろし観察した際の周在性で、0-3 時方向に病変の主座を置くものを
0-3 時方向群、4-11 時方向に病変の主座を置くものを 4-11 時方向群とした(図 2)。
(7) EGJ+0-3 時方向群、EGJ+4-11 時方向群、non-EGJ+0-3 時方向群、non-EGJ+411 時方向群
EGJ 群で 0-3 時方向の病変を EGJ+0-3 時方向群、EGJ 群で 4-11 時方向の病変を
EGJ+4-11 時方向群、non-EGJ 群で 0-3 時方向の病変を non-EGJ+0-3 時方向群、non9
EGJ 群で 4-11 時方向の病変を non-EGJ+4-11 時方向群とした。
3 臨床学的特徴
Barrett 食道腺癌の局在に関する病態に影響を与える可能性のある性別、年齢、body
mass index(BMI)などの臨床学的特徴を EGJ 群と non-EGJ 群、および 0-3 時方向群と
4-11 時方向群でそれぞれ比較検討した。
4 上部消化管内視鏡検査所見
対象となる全ての患者に上部消化管内視鏡検査を施行し、画像所見は日本消化器内視
鏡学会認定の消化器内視鏡専門医によって診断・判定された。
(1) Barrett 食道の分類(SSBE / LSBE)
各症例を Barrett 粘膜の長さに基づき、Barrett 粘膜長が EGJ より全周性に 3 cm も
しくはそれ以上の長さであるものを long segment Barrett’s esophagus(LSBE)、それ以
外のものを short segment Barrett’s esophagus(SSBE)と分類した 24)。
(2) 食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアは、内視鏡の見下ろし像により深吸気下に食道裂孔から上方に全周
性に 2 cm 以上の胃粘膜脱出が観察されるものと定義した 26)。
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(3) 内視鏡的胃粘膜萎縮
胃粘膜萎縮は木村・竹本分類に基づいて内視鏡的に診断した。萎縮境界が胃体部小弯
で噴門を越えない Closed type と噴門を越え大彎側に進展する Open type に分類し、本
検討においては、Open type を胃粘膜萎縮ありと判定した 27)。
5 H.pylori 感染の評価
H.pylori(HP)感染診断には、血清 IgG 抗体価および、胃前庭部大弯と胃体部大弯か
らの生検組織による鏡検法を用いた。血清 IgG 抗体価は、E プレート’栄研’ H.ピロリ抗体キ
ット(栄研化学、東京)を用い、酵素免疫測定法(Enzyme Immunoassay, EIA 法)に基づ
いて測定し、9.90 U/ml 以上を陽性と判定した。全ての検査で陰性の場合のみ HP 陰性と
判定し、いずれか一種類でも陽性の場合は、HP 陽性と判定した。なお、HP 除菌後の症例
は、HP 陽性例として扱った。
6 内視鏡的ガストリン刺激試験(Endoscopic gastrin test, EGT)
EGT は 、 従 来 の ガ ス ト リ ン 刺 激 に よ り 酸 分 泌 能 評 価 を す る 最 大 刺 激 酸 分 泌 量
(maximum acid output test, MAO)試験を改変した迅速で簡便な酸分泌能試験である
28-30)。対象者は前日夜から絶食とし、当日の内視鏡検査前にペンタガストリン(Sigma,
St.
Louis, MO, USA)6 μg/kg を筋肉注射し、筋肉注射後に通常内視鏡検査を施行した。筋
11
肉注射後 20-30 分の間に新たに分泌される胃液を、内視鏡を用いて吸引して回収した。採
取した胃液について pH 7.0 を滴定終末点とし、滴定に必要とした NaOH 溶液の量を測定
して、EGT により得られた 10 分間の胃酸分泌量(EGT 値、mEq/10 min) を算出し、EGT
値とした
29)。プロトンポンプ阻害薬(proton
pump inhibitor, PPI)、カリウムイオン競合型
アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker, P-CAB)を内服していた例にお
いては少なくとも 14 日間以上、ヒスタミン H2 受容体拮抗薬を内服していた例においては少
なくとも 3 日間以上休薬した条件で検査を施行した。
7 24 時間食道 pH・多チャンネルインピーダンスモニタリング検査(24hr MII-pH)
24hr MII-pH は、ZepHr® (Sandhill Scientific Inc. Highland Ranch, CO, USA) の
携帯可能なレコーダーを用いて、外径 2.13 mm のポリビニル製の pH・インピーダンスカテ
ーテル(ComforTec® Z/pH (ZAN-BG-44), Sandhill Scientific Inc.)を接続して使用した。
カテーテルには食道内と胃内の pH 値の測定が可能な 2 つの pH 電極と、下部食道括約
筋(lower esophageal sphincter, LES)上縁から 3, 5, 7, 9, 15, 17 cm 口側に食道内イン
ピーダンス値を測定可能な 8 つの電極が付属している。インピーダンスは、食道内のインピ
ーダンスセンサーの隣接した 2 チャンネル間で測定した(図 3)。
本検査の施行手順を示す。まず、256 MB メモリーカード(Compact flash® , San Disk,
Milpitas, CA, USA)を専用のアプリケーションソフトウエア(ZepHrTM SLEUTH, Sandhill
Scientific Inc.)にて初期設定した。同メモリーカードを前述のレコーダーに挿入し、上記の
12
インピーダンス測定用カテーテルを本体に接続し、pH 4.0 および pH 7.0 の緩衝液(Buffer
solution, Sandhill Scientific Inc.)を用いて、カテーテルの 2 カ所の pH 電極(食道内 pH
測定用および胃内 pH 測定用)を校正した。続いて、食道内圧測定用プローブ(Edwards
Lifesciences, Irvine, CA, USA)を経鼻的に挿入し、Infused catheter 法で LES 上縁の
位置を同定し、鼻孔から LES 上縁までの距離を測定した。LES 上縁までの距離を測定後、
pH・インピーダンスカテーテルを経鼻的に挿入し、LES 上縁の位置より 5 cm 口側に食道
内 pH 測定用電極が、また LES 上縁より 10cm 肛門側に胃内 pH 測定用電極が位置する
ようにカテーテルを調整しポジショニングした(図 4)。正しく挿入留置されたことを確認後、本
体の測定を開始・記録した。測定開始より終了まで、24 時間を通しての pH・インピーダンス
値の測定・記録が可能であり、データは本体に挿入したメモリーカードに記録された。24 時
間経過後、本体を停止させたうえで、カテーテルを抜去し、検査を終了した。
具体的な検査条件は以下の通りである。対象症例は、全例入院した状態で検査を施行し
た。検査当日は朝食を摂取後飲水のみ許可し、昼食は摂取しない状態で午後 2 時頃にカ
テーテルを挿入し測定を開始した。検査開始後、夕食から翌日の昼食までの計 3 回の食事
は東北大学病院の普通食(身長・体重に応じて 1800-2100 kcal/日)に統一した。検査中の
24 時間を通じて 3 回の食事以外の間食は禁止した。水分の摂取については水・お茶のみ
とし、アルコールや炭酸飲料は禁止した。検査中の姿勢の変化(立位・臥位)や食事時間に
ついては、患者さんにレコーダーのボタンを操作してもらい、計測データとともに記録した。
また、検査中は通常の日常生活により近い過ごし方をするように説明し、夜間の就寝時以外
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はできるだけ立位もしくは座位の姿勢を維持してもらうように要請した。
全ての症例で、病変に対する内視鏡的治療施行前に検査を行った。いずれの検査施行
時も、PPI、P-CAB を内服していた例においては少なくとも 14 日間以上、ヒスタミン H2 受容
体拮抗薬を内服していた例においては少なくとも 3 日間以上休薬した条件で検査を施行し
た。
24 時間の検査終了後、メモリーカードを本体より抜去し、専用の解析用アプリケーション
ソフトウエア(Bioview analysis version 5.4.3, Sandhill Scientific Inc.)によるデータを用
いて解析を行った
31)。24
時間の検査データを解析対象とし、食事時間は解析対象から除
外した。食道内 pH、逆流回数および Bolus exposure については LES 上縁から 5 cm 部
で測定した 31)。
8 24hr MII-pH で測定される食道内逆流因子の各種項目
(1) 食道内酸暴露時間(AET)(pH < 4)
食道内 pH センサーにて測定される pH 4.0 未満の時間の、総記録時間(24 時間)に対
する時間比率(%)とした 31)。
(2) Bolus exposure time
インピーダンスセンサーにて測定される液体逆流時間の、総記録時間(24 時間)に対す
る時間比率(総逆流・酸・弱酸・アルカリ)(%)とした。Bolus exposure として測定された液
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体逆流は、インピーダンス値が逆流イベント発生前の基線値よりも 50 %以上低下し、さらに
カテーテルの最も遠位側のインピーダンスセンサー(LES 上縁より 3 cm 口側部を測定して
いるもの)から、口側に逆行性に連続した 2 か所以上でのインピーダンスセンサーで基線値
の低下を認めるものの時間を測定した。pH については、逆流時の食道内 pH が 4.0 未満
のものを酸逆流、4.0 ≦pH<7.0 を弱酸逆流、pH 7.0 以上をアルカリ逆流とした
31)(図
5,
6)。
(3) 逆流回数
インピーダンスセンサーにて測定される液体逆流回数で、総記録時間(24 時間)中の回
数(総逆流・酸・弱酸・アルカリ)とした 31)。
(4) MII の基線値
インピーダンスセンサーによって測定された基線をアプリケーションソフトウエア(Bioview
analysis version 5.4.3, Sandhill Scientific Inc.)を用いて算出し、解析を行った。測定方
法に関しては、GERD で MII の基線値を測定した報告に準じて、本検討では基線の安定
している仰臥位の全期間の LES 上縁から 3, 5, 7 cm 口側部位での基線値(Ω)を評価した
32)(図
7)。
9 検査結果の解析
15
本検討における解析の評価項目は、EGT 値、24hr MII-pH で測定される食道内逆流因
子の各種項目(AET(%)、Bolus exposure(%)(総逆流、酸、弱酸、アルカリ)、逆流回数
(総逆流、酸、弱酸、アルカリ))、基線値とした 31-35)。各種評価項目について EGJ 群と nonEGJ 群、および 0-3 時方向群と 4-11 時方向群でそれぞれ比較検討を行った。さらに、
Bolus exposure の総逆流について、EGJ+0-3 時方向群、EGJ+4-11 時方向群、nonEGJ+0-3 時方向群、non-EGJ+4-11 時方向群の 4 群において比較検討を行った。
10 統計学的解析手法
2 群間のカテゴリ変数の比較には Person のカイ 2 乗検定を使用した。2 群間の連続変
数の比較には Mann-Whitney の U 検定を使用し、数値は中央値(第 1 四分位数-第 3
四分位数)で記載した。EGJ+0-3 時方向群、EGJ+4-11 時方向群、non-EGJ+0-3 時方向
群、non-EGJ+4-11 時方向群の 4 群間の検定は Kruskal-Wallis 検定を使用した。有意水
準は 0.05 に設定した。統計処理は JMP ver.16(SAS Institute, Cary, NC, USA)を用い
た。
16
Ⅴ 研究結果
1 長軸方向の局在に関する EGJ 群と non-EGJ 群の比較検討
(1) 患者背景
56 例中、EGJ 群が 35 例(62.5 %)、non-EGJ 群が 21 例(37.5 %)であった。性別、年
齢、HP 感染率、胃粘膜萎縮合併率、食道裂孔ヘルニア合併率では両群間で有意差は認
めなかったが、BMI の中央値は non-EGJ 群では 24.2(22.9-25.8)kg/m2 と EGJ 群の
22.3(21.5-24.8)kg/m2 と比較して高値を示した(p < 0.05)。また、LSBE の合併率につい
ては、EGJ 群では 35 例中 2 例(5.7 %)であったのに対し、non-EGJ 群では 21 例中 7 例
(33.3 %)で、non-EGJ 群で高値を示した(p < 0.05)(表 1)。
(2) EGT
EGT 値の中央値は、EGJ 群で 5.54(3.64-7.83)mEq/10min、non-EGJ 群で 4.83
(1.38-6.62)mEq/10min であり、有意差は認めなかった(p = 0.22)(図 8)。 ...