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大学・研究所にある論文を検索できる 「サッカード適応からみた神経変性疾患における小脳脳幹の神経回路の病態について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

サッカード適応からみた神経変性疾患における小脳脳幹の神経回路の病態について

杉山, 雄亮 東京大学 DOI:10.15083/0002005008

2022.06.22

概要

ある運動課題を繰り返し行わせるとその運動に習熟し運動内容が最適化される。この習熟過程は適応(adaptation)と呼ばれる。適応過程の研究では,被験者が動作をしている際に外乱(誤差)を加える。人工的に加えられた外乱にもかかわらず,被験者に同じ運動課題を正確に行うよう繰り返させることにより,この適応の過程を調べることができる。認識された誤差は信号となって小脳へ届けられ適応の際の重要な情報となることから教師信号と呼ばれる。教師信号に基づき目的の運動を生成するいわば関数のようなものが各種の運動に対して生成されていくとされ,この関数は内部モデル(internal model)と呼ばれる。適応により正確な運動を実現するにあたって内部モデルが形成されていく過程においては,小脳が重要な役割を果たしているとされる。しかし,より詳細な,小脳に入力する系(入力系)と出力する系(出力系)が果たす役割,さらに失調症を呈する小脳疾患患者の病態において適応が果たす役割については知られていなかった。これまで用いられている四肢の運動による適応課題では,適応過程において重要な内部モデルの形成について,特に動作中に運動が修正(ときに意識的に)されてしまうという問題点があり,入力系・出力系の関与を分けて検討することが難しかった。そこで本研究では,運動中に修正が行われないと考えられる衝動性眼球運動(サッカード)を用いた適応課題を通して内部モデルの形成過程を検討した。また対象として健常者に加え入力系が主に障害される多系統萎縮症,出力系が主に障害される脊髄小脳失調症で適応の過程に違いがあるかを調べた。さらに外乱を徐々に変化させてそれに持続的に適応をおこさせる課題(小さい誤差,GRADUAL課題),外乱を最初に一度に突然変化させる課題(大きい誤差,ABRUPT課題)の2つを対比させて検討し,誤差の大きさによって適応の獲得・形成の神経基盤がどのように異なるのか,小脳入力系・出力系の2つの機能がどのように異なるのかについて検討することとした。

本研究での課題について概略を説明する。サッカード適応課題は古典的に用いられてきた視覚誘導サッカード課題(visually guided saccade, VGS)を改変したもの(McLaughlin1967)を用いた。課題は外乱暴露期前,外乱暴露期,外乱暴露期後の3ブロックよりなる。被検者は,外乱暴露期前ではまず中心点を注視し,その後右ないし左水平方向に移動した視標(T, target)に合わせて素早く視線を動かすように指示された(視覚誘導サッカード)。外乱暴露期ではさらに,提示されたターゲット(T)に対しサッカードが起きるやいなや視標を中心点に近い位置(TS, shifted target)へ移動させた。被験者は試行を繰り返すにしたがって,当初Tに向かって動いていた眼球運動が,直接TSの位置に目を動かすようになる(眼球運動の適応)。外乱暴露期後においてはターゲットがTの位置に提示された後は移動しない暴露期前と同様の試行が繰り返される。試行を繰り返すと,適応が徐々に消失して元にもどっていく適応の持続の程度をみることができる。ABRUPT課題では暴露期のTSの位置は外乱暴露期を通して一定の位置に固定した。GRADUAL課題では試行ごとに徐々にTSをTから遠ざけ,中心点に近づけるように変化させた。これらの課題において,各試行における最初のサッカード(primary saccade)の振幅を評価した。各試行の振幅と外乱暴露期前の振幅の平均とを比較することで適応の程度をみた。

第1章では,健常者において,外乱を徐々に変化させる課題(GRADUAL課題,小さい誤差)のほうが,外乱を突然変化させる課題(ABRUPT課題,大きい誤差)と比べて,課題後の適応の効果の持続が長いことを示した。これは2つの課題における誤差の大きさとばらつきの違いにより,内部モデルの探索と選択のしかたが異なることによると考えた。第2章では,小脳の入力系が障害される多系統萎縮症と出力系が障害される脊髄小脳失調症を対象に同様の課題を行い,その対比により小脳の入力系・出力系の障害により両課題に影響が出るかを検討した。結果,小脳入力系の障害では小さな誤差に対する修正を必要とする適応課題(GRADUAL課題),出力系の障害では大きな誤差に対する修正を必要とする適応課題(ABRUPT課題)の障害がより目立った。以上より,小脳入力系・出力系それぞれの障害により,これらの課題(誤差の大きさの違い)で結果が異なっており,誤差の大きさが内部モデル形成過程に影響するとともに小脳への入力・出力の障害が大きく影響することを示した。

これまで小脳失調の臨床的評価は,運動のばらつき,スムーズな動きの障害などの定性的・定量的評価にとどまり,小脳症状といっても出力系の障害による症状の現象的な記載にとどまってきた。またリハビリテーションも四肢に重量負荷をすることで失調症状を改善させるなど,出力系への介入試みが中心となっているのが現状である。しかしこのような機能的介入を行う上でも,小脳症状は入力系・出力系の双方が関与しているだけでなく,運動の適応という形で運動そのものが繰り返し行われる過程で調整されていくものであるということを認識が重要である。その意味で,今回注目したサッカード適応課題はこのような動的な小脳障害の病態を評価する新しい評価法となりうる可能性がある。またサッカード適応でみられた異常は,単に小脳障害に関連した眼球運動の制御の異常のみならず,様々な運動適応の異常のモデルとなると考えられる。脊髄小脳失調症や多系統萎縮症における小脳機能の異常の病態,とりわけ小脳入力系・出力系の病態を明らかにすることは,今度患者のケアやリハビリテーションにもつなげていくことができると思われる。

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