Real-Time Direct Evidence of the Superficial Lymphatic Drainage Effect of Intermittent Pneumatic Compression Treatment for Lower Limb Lymphedema
概要
【序論】
続発性リンパ浮腫は婦人科がん・乳がん治療後の代表的な後遺障害の1つで,浮腫・おもだるさ・皮膚硬化・関節可動域制限・繰り返す蜂窩織炎などから患者のADL・QOLを大きく低下させる(Internal Society of Lymphedema. 2016). リンパ浮腫に対しては圧迫療法とリンパドレナージ療法・運動療法・スキンケアなどを組み合わせた複合的理学療法(CPT:Complex Physical Therapy)が治療の中心となるが,一度失われたリンパ輸送機能が回復することはないため多くの患者では生涯に渡るCPTの継続が必要となる. 圧迫療法は強圧ゆえに着脱の煩雑さ,夏季の蒸れなどの問題があり,リンパドレナージ療法は医療施設や治療院などに通院が必要で,治療施設の数は限られ,また時間的・身体的・経済的理由などから通院が困難な場合がある.
間欠的空気圧マッサージ(IPC:Intermittent Pneumatic Compression)療法はエアーポンプを用いてチャンバーを膨らませ,空気圧で患肢を加圧・減圧することにより組織液のドレナージをもたらす治療法である. IPCは自宅で施行可能であるため,CPTに加えて,または置き換えて利用することができれば患者への恩恵が大きいだけでなく,社会的な意義も大きいと考えられるが,IPCに関するエビデンスは少ない. 本研究の目的はIPC中のリンパ流速の変化を調べ,どのような治療様式や圧が下肢リンパ浮腫の治療により良いのかを検討することである.
【対象と方法】
8名の健常ボランティア(男性1名女性7名,平均38歳)の左下肢で先行研究を行ったのち,がん治療後の続発性下肢リンパ浮腫患者15名(全員女性,平均63歳,)の下肢17肢(右10肢,左7肢)を対象として後続研究を行った. リンパ浮腫の診断と重症度評価はリンパシンチグラフィを用いて行い,17肢を軽症群(9肢)と中等症群(8肢)の2つの群に分けた. ICG蛍光リンパ管造影法を用いてリンパ流を可視化した後に6室のチャンバーを持つ透明スリーブを観測肢に着用し,様々な加減圧様式と圧迫力でIPCを行い,それぞれのIPC中のリンパ流の変化を動画で記録した.
撮影部位は2室(下腿遠位部)とし,加圧様式は下肢全体が同時に徐々に加圧されるハイパーモード(HPモード),および1室から6室まで逐次的に尾側から頭側へ1室ずつ加圧されるスクイーズモード(SQモード)の2通り,減圧様式は6室から1室まで順番に頭側から尾側へ減圧されるAモード,および6室から1室飛ばしで,6→4→2→5→3→1室の順番で減圧されるBモードの2通りを設定した. 圧迫力は先行研究では90mmHg,後続研究では45mmHgと90mmHgの2通りとした.
動画の解析には蛍光輝度解析ソフト(ROIs Ver. 2.0)を用い,蛍光輝度変化をグラフ化して加圧時の傾き(SLOPE)を算出した. SLOPEがリンパ流速を反映するとして,各治療様式における全被検者のSLOPEの平均値(average SLOPE)を求めることで様式毎のリンパ流速を推定できるため,それらを治療様式間で比較検討した. また,治療様式を同一にしたときの軽症群と中等症群の平均リンパ流速の違いも検討した.
【結果】
健常肢では,治療様式によってaverage SLOPEに差はなく,どのモードでもほぼ一定のリンパ流速が生じていた. 一方,リンパ浮腫患肢ではHPモードよりもSQモードにおいて,また45mmHgよりも90mmHgにおいて有意にaverage SLOPEが大きく,逐次的な圧迫および高い圧力下でより早いリンパ流が生じていた. 重症度による比較では,統計学的に有意ではないものの,すべての治療様式において軽症群の方が中等症群よりもaverage SLOPEが大きく,軽症群でより速いリンパ流が生じていることが示唆された.
【考察】
健常肢においてはリンパ管の律動的な収縮による良好なリンパ輸送能があるため圧を加えなくとも十分なリンパ流が生じており,治療様式による影響が小さかったのに対し,リンパ浮腫患肢はリンパ輸送能に障害があり自発的な流れが少ないため,治療様式による差が生じた可能性が考えられる. HPモードでは末梢・中枢両方向への流れが生じるが,SQモードは末梢方向への逆流を防ぎ,中枢方向へより強い輝度変化が起こったと考えられる. SQモードのような逐次圧迫が全体圧迫よりも臨床的な有効性が高いとする報告があり(Fife et al. 2012),本研究の結果もそれに合致するものと考えられる.
リンパ浮腫患肢ではリンパ管の変性・硬化が起こることやリンパ管内圧が上昇すること,また皮膚や皮下組織の肥厚・線維化も起こり外圧が内部に伝わりにくいことなどが示されており(Zaleska et al. 2013),それらが高圧下でより早い流速を生じた要因の可能性がある.
重症例ほどリンパのうっ滞が強くなるためリンパ流速は軽症例で大きくなると予想され,その傾向は認めたものの有意差はなかった. 画像解析の必要性から本研究の対象患者は全体に軽症寄りとなっており,それが影響した可能性が考えられた.
ICG蛍光リンパ管造影法はUnno et al. (2007)がリンパ浮腫に対する新しい画像診断法として発案・報告し,その有用性からさまざまなリンパ浮腫の病態解明に応用されてきた(Adams et al.,2010: Unno et al., 2010: Tan et al., 2011). 本研究においてもICGとIPCを組み合わせることにより世界で初めてIPC中のリアルタイムなリンパ流を直接観察・評価することができ,その有用性が確認された. 本研究の方法論や結果を応用したさらなる研究の展開が望まれる.