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大学・研究所にある論文を検索できる 「アスコルビン酸欠乏時の肝臓と腸管での炎症様変化の機構解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アスコルビン酸欠乏時の肝臓と腸管での炎症様変化の機構解析

川出, 野絵 名古屋大学

2020.04.02

概要

L-アスコルビン酸( L-ascorbic acid; AsA)はビタミン C の主なる活性化合物である。当研究室では AsA 生合成不能の ODS ラットを用いて、AsA の新たな生理機能の探索を行ってきた。先行研究より、ODS ラットに AsA 無添加飼料を与えて AsA 欠乏状態にすると、C 反応性タンパク質( CRP) などの急性期タンパク質の血中濃度や肝臓での発現レベルが上昇することが明らかとなっている。急性期タンパク質は炎症の代表的なマーカーであり、感染症などによる炎症反応の際に肝臓で産生され血中に放出されることから、AsA 欠乏時には炎症反応と同様の変化が起こっていると考えられた。近年、ヒトでも血中において、AsA 濃度が減少すると CRP 濃度が上昇することが国内外で報告されており、ヒトでも ODS ラットと一致する現象が起こることが明らかとなってきた。AsA の生理作用と血中 CRP 濃度の増減との関連性についての詳細な機構が明らかとなれば、AsA の抗炎症作用を示す新たな知見となる。本研究ではこの AsA 欠乏時の炎症様変化に着目し、AsA 欠乏による肝臓での急性期タンパク質発現の上昇機構を探求することを目的とした。

第 1 章
ODS ラットにおいて、急性期タンパク質の主なる産生臓器である肝臓を用いて網羅的な遺伝子発現解析を行い、AsA 欠乏時の肝臓で発現変動する未同定の炎症関連因子を見出すことによって急性期タンパク質発現が誘導される機構を解析することを試みた。この結果、急性期タンパク質発現の誘導に関与する STAT3 シグナル系に属する STAT3 と SOCS3 の発現が AsA 欠乏時の肝臓で上昇することを見出した。

STAT3 は JAK-STAT 経路に属する転写因子であり、IL-6 ファミリー等のサイトカインによりリン酸化されて活性化し、急性期タンパク質や SOCS3 の発現を誘導する。 AsA 欠乏 12 日目以降には肝臓の STAT3 mRNA レベルと細胞質内の STAT3 タンパク質レベルが上昇していた。また、AsA 欠乏 12 日目以降には肝臓の核内リン酸化 STAT3レベルが上昇しており、STAT3 の活性化が亢進していることが初めて明らかとなった。また、肝臓の急性期タンパク質( HP、AGP、CRP、A2m) や SOCS3 の mRNA レベルも同様に AsA 欠乏 12 日目以降に上昇していた。すなわち、AsA 欠乏時の肝臓では STAT3 の活性化亢進とその制御下遺伝子である急性期タンパク質と SOCS3 の発現上昇が同時期( 12 日目)に起こっていた。よって、AsA 欠乏による肝臓での急性期タンパク質発現の上昇は STAT3 の活性化亢進により誘導されていることが示唆された。

第 2 章
先行研究より AsA 欠乏時には炎症性サイトカインである IL-6 と IL-1β の血中濃度が上昇することが見出されていた。AsA 欠乏時にはいずれかの組織で産生されたサイトカインが肝臓に作用して STAT3 の活性化を誘導していると考え、第 2 章ではそのサイトカインと産生源の特定を試みた。我々が AsA 欠乏時のサイトカイン産生源の候補として着目したのは腸管である。着目した理由は、腸管は門脈を介して肝臓と直接的に繋がっていることや、先行研究により AsA 欠乏時には門脈血のエンドトキシン( グラム陰性菌の細胞壁成分) の濃度が上昇することや回腸の杯細胞数が増加することが見出されていたことである。よって、「AsA 欠乏時の腸管ではサイトカインの産生が上昇し、このサイトカインが門脈血を介して肝臓での STAT3 の活性化を誘導している」という仮説を立てて、腸管における STAT3 を活性化するサイトカインである IL-6、 IL-7、LIF の発現を調査した。

AsA 欠乏時には IL-6 の mRNA レベルが空腸と回腸下部で上昇しており、また門脈血の IL-6 濃度も上昇していた。さらに、門脈血の IL-6 濃度と肝臓の STAT3 制御下遺伝子( CRP、A2m、SOCS3) の mRNA レベルとの間にはそれぞれ有意な正の相関が得られた。以上のことから、AsA 欠乏時には腸管で IL-6 が産生され、この IL-6 が門脈血を介して肝臓に作用することで STAT3 の活性化と急性期タンパク質発現の上昇を誘導していることが示唆された。IL-6 以外のサイトカインについては、IL-7 は結腸、 LIF は空腸で AsA 欠乏により発現上昇していたが、門脈血の IL-7 濃度は AsA 欠乏により変動しなかった。門脈血の LIF 濃度は測定していないが、腸管由来の IL-7 と LIFの肝臓 STAT3 活性化への寄与は小さいと考えている。

また IL-6 は主にマクロファージより産生されるが、IL-6 が AsA 欠乏により発現上昇した腸管部位ではマクロファージのマーカーである CD68 の mRNA レベルも同様に高値であった。AsA 欠乏時には腸管にマクロファージが集積して IL-6 を産生していると推察された。

第 3 章
AsA 欠乏による腸管でのサイトカイン発現の上昇に腸内細菌の存在の有無が寄与するかを明らかにすることを目的として、無菌の ODS ラットにおける AsA 欠乏時の腸管と肝臓での炎症様変化を調べた。腸内細菌および腸内細菌叢が炎症を引き起こす機構の一つが、腸管からの血中への腸内細菌由来のエンドトキシンの流入である。エンドトキシンの本体はリポ多糖類( LPS)であるが、LPS は受容体である TLR4 のシグナルを介してサイトカイン発現の上昇を誘導するなどの炎症応答を引き起こす。我々は先行研究で AsA 欠乏時には門脈血のエンドトキシン濃度が上昇することを見出していた。そのため、AsA 欠乏時には腸管からエンドトキシンが流入しており、これにより腸管で炎症が起こって IL-6 産生が上昇し、この IL-6 が肝臓での急性期タンパク質発現を誘導している可能性を考えた。また、TLR4 は肝臓にも発現しており、TLR4 シグナルは急性期タンパク質発現も誘導する。そのため、AsA 欠乏により腸管から流入したエンドトキシンが門脈血を介して直接的に肝臓に作用して急性期タンパク質発現を上昇させる可能性も考えられた。これらのことから、AsA 欠乏時の腸管でのサイトカイン産生の上昇と肝臓での急性期タンパク質発現の上昇の機構において、腸内細菌の寄与があるかどうかを明らかにする必要がある。本章では無菌の ODS ラットで AsA欠乏を引き起こした場合の腸管と肝臓での炎症様変化を解析することを計画した。

その結果、無菌の ODS ラットでも AsA 欠乏により空腸とパイエル板で IL-6 mRNAレベルが上昇しており、門脈血中の IL-6 濃度も上昇した。無菌の ODS ラットでは肝臓の STAT3 制御下遺伝子である急性期タンパク質( HP、AGP、CRP、A2m、Lcn2)と SOCS3 の mRNA レベルも AsA 欠乏時に上昇しており、SOCS3、CRP、A2m の mRNAレベルと門脈血の IL-6 濃度の間にはそれぞれ有意な正の相関が得られた。第 2 章で AsA 欠乏時には腸管で IL-6 産生が上昇し、門脈血を介してその IL-6 が肝臓に作用して STAT3 活性化と急性期タンパク質発現の上昇を誘導していることが示唆された。これらの現象は腸内細菌の有無に関わらず AsA 欠乏により引き起こされることが示され、AsA 欠乏による直接的な作用が存在すると考えられた。

第 4 章
ヒトでは AsA を全く摂取しないことは稀であり、日々の AsA 摂取量が不足している場合の方が多い。そこで第 4 章では、ODS ラットに AsA 不足飼料( AsA 20 mg/kgおよび 40 mg/kg)を与えて飼育して、AsA 欠乏時の肝臓と腸管での炎症様変化が AsA不足時にも欠乏時と同様に起こるかを検討した。また、ヒトでの子供から成人までを想定して、我々がこれまで実験に用いてきた成長期である 6 週齢の ODS ラットに加えて、性成熟が完了した 12 週齢の ODS ラットも用いて AsA 不足状態の炎症様変化について検討した。

この結果、6 週齢と 12 週齢に関わらず、AsA 無添加飼料摂取時( AsA 欠乏時) と AsA 不足飼料( AsA 20 mg/kg) 摂取時( AsA 不足時) において、肝臓では急性期タンパク質( HP、AGP、CRP、A2m、Lcn2) 発現が上昇し、腸管では IL-6、IL-1β 発現が上昇することが明らかとなった。すなわち、ODS ラットにおいて、AsA 欠乏時の肝臓と腸管での炎症様変化は成長期と性成熟完了時のラットの両方で見られることと、飼料中 AsA 濃度が 20 mg/kg と 40 mg/kg の間で AsA 不足となり AsA 不足時にも炎症様変化が起こることとが示された。

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