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大学・研究所にある論文を検索できる 「慢性炎症における血清中タンパク質の糖鎖変動機序解明とバイオマーカー探索」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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慢性炎症における血清中タンパク質の糖鎖変動機序解明とバイオマーカー探索

小林, 隆史 名古屋大学

2021.11.15

概要

糖鎖は第3の生命鎖とも呼ばれ、細胞の接着、細胞間認識のみならず、個体の発生、および分化など、種々の生理的機能に関わる重要な分子である。糖鎖はその構造的多様性から分析技術の進歩が遅れてきたが、近年、質量分析(MS)解析技術の向上により、糖鎖構造をより直接的に評価することが可能となった。それに伴って、疾患の有無や重症度を判定するバイオマーカー分子として糖鎖は注目を集めている。本研究の目的は、糖鎖バイオマーカーの探索と有用性、またその産生機構の一端を解明することであり、具体的には、慢性炎症疾患である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、および関節リウマチに着目し、前者においては糖鎖バイオマーカーの探索とマーカー糖鎖変動機序の解明、後者においては既知の糖鎖マーカーであるシアル酸欠損免疫グロブリンG(IgG)の産生機構の解明に向けた研究を行った。

 (1) 非アルコール性脂肪性肝疾患と糖鎖に関する研究:本疾患は、アルコール摂取量が基準値以下にもかかわらず、アルコール性肝疾患に類似の病態を示す疾患群である。非アルコール性脂肪性肝疾患は非アルコール性脂肪肝炎(NAFL)、およびNASHとに分けられるが、NASHは肝硬変、および肝がんへと進展するリスクがあることから、NAFL、およびNASHを鑑別することが重要である。現状ではNAFL、およびNASHの鑑別は肝生検試料の病理評価に依存しているが、侵襲性が高いため、非侵襲的なNASH診断マーカーが渇望されている。本研究では、NASHを非侵襲的に診断可能な糖鎖バイオマーカーの探索を行った。まず、血清中糖タンパク質のN型糖鎖を分析するため、SDS-PAGE後のゲルから糖鎖を抽出し、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)で分析する方法を構築した。この方法でNAFL患者5例、およびNASH患者6例の血清中タンパク質の糖鎖を分析した結果、複数のタンパク質で糖鎖の有意な変動が認められた。このうち、α1-アンチトリプシン上の糖鎖A3F(AAT-A3F)がNASH患者において最も大きく上昇していたことから、AAT-A3Fに着目した。AAT-A3Fをより簡便に測定するため、血清からα1-アンチトリプシン(AAT)を直接精製し糖鎖を解析する方法として、免疫沈降を用いた測定法(IPG法)を構築し、これによってスループットの向上が達成された。NAFL患者57例、およびNASH患者74例のAAT-A3F濃度をIPG法によって測定した結果、AAT-A3FはNASHにおいて有意に上昇していた。AATタンパク質自体の濃度は群間で変化がなかったことから、AATの糖鎖がNASHにおいて変動していると考えられる。AAT-A3Fが肝臓内のどのような変化を反映して上昇するかを調べるため、肝臓の病理学的スコアとの関連を調べた結果、AAT-A3Fは肝臓内の炎症、および線維化を反映して上昇することが示唆された。AAT-A3Fの変動メカニズムを調べるため、肝臓内の遺伝子発現量を調べた結果、A3F糖鎖におけるアウター型フコースの転移を担う酵素であるFUT6遺伝子発現量がNASHで有意に上昇した。FUT6遺伝子発現量を正に調節すると報告され、NASHにおける炎症の進展に寄与するサイトカインであるIL-6の遺伝子発現量もNASHで有意に上昇していた。肝臓中のIL-6発現量とFUT6発現量は相関を示し、FUT6発現量と血清中AAT-A3F濃度は高い相関を示したことから、IL-6の増加を伴う肝臓内の炎症の進展によってFUT6発現が亢進し、これによって血清中AAT-A3Fが増加することが示唆された。AAT-A3FのNASH診断能を受信者動作特性(ROC)解析によって調べた結果、既知のNASHマーカー分子であるcCK18よりも優れた成績であったことから、NASHの診断に有用であると考えられた。

 (2) 関節リウマチと糖鎖に関する研究:タンパク質への糖鎖付加は通常、由来細胞内の小胞体、およびゴルジ装置で行われる。一方で、血清中など、細胞外において糖鎖への糖転移が起こるという可能性も提起されているが、証明されていない。本研究では、血清中のIgGのシアル酸が減少することが知られている疾患である関節リウマチに着目した。血清中でシアル酸の転移が起こると仮定した場合、血清中IgGのシアル酸減少は、シアル酸転移のドナー基質であるCMP-シアル酸の血清中濃度の減少に起因する可能性が考えらえる。本研究では関節リウマチモデルであるSKGマウスを用い、IgGのシアル酸修飾の度合いと、血清中CMP-シアル酸濃度との関連を調べた。まず、血清中のCMP-シアル酸濃度を評価するため、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)カラムを用いた液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)の構築を行った。構築した分析法において、CMP-シアル酸のみならず、シアル酸、およびUDP-GlcNAc等の各種糖ヌクレオチドの一斉分析が可能となった。血清を測定試料とする場合の定量性を添加回収試験によって評価し、5ng/mL程度まで定量が可能であることを確認した。次に、SKGマウス、および対象として同一系統のBALB/cマウスにおける血清中IgGのN型糖鎖をMALDI-TOF-MSによって解析した結果、SKGマウスではシアル酸修飾が減少しており、ヒト関節リウマチ患者と同様の変化が起こっていることを確認した。一方、血清中のCMP-シアル酸、およびシアル酸濃度を測定した結果、予測とは反対に、両者はいずれもSKGマウスで有意に増加していた。したがって、血清中IgGのシアル酸減少は、血清中のCMP-シアル酸量の減少によるものではないと考えられた。血清中のCMP-シアル酸がSKGマウスで増加していたことから、CMP-シアル酸合成酵素(CSS)の血清中存在量を評価した。CSSは通常では核内で機能する酵素であるが、昆虫CSS、および哺乳類CSSが培養細胞から分泌されることが示されている。本研究においてマウス血清中のCSS量を調べた結果、血清中においてもCSSが存在していることが明らかになった。また、血清中CSS量はSKGマウスで増加しており、CMP-シアル酸の増加と対応する結果であった。さらに、血清中のCSS活性についてもSKGマウスで上昇していたことから、血清中のCSSは酵素活性を有していると考えられた。CSS酵素活性と血清中CMP-シアル酸濃度は相関しており、血清中CMP-シアル酸の少なくとも一部は血清中CSSによって供給されている可能性が示された。さらに、血清中CSSは肝臓中CSSとは異なる分子量を有していたことから、N型糖鎖を切断する酵素であるペプチド:N-グリカナーゼF(PNGase F)処理時の分子量変化を調べることで、CSSにおけるN型糖鎖修飾の有無を調べた。その結果、血清中CSSはN型糖鎖修飾を受けていたのに対し、肝臓中CSSではN型糖鎖修飾は認められなかった。したがって、糖鎖を介したCSSの分泌機構、あるいは糖鎖を有するCSSが血中に滞留する機構が存在すると考えられる。CSSが分泌される機構を解明するため、肝培養細胞であるHepG2、およびHepa1c1c7に対するサイトカイン刺激を行った。その結果、関節リウマチで血清中濃度が上昇すると報告されている腫瘍壊死因子(TNF-α)で刺激した場合に、培養上清中へのCSS分泌が促進されることがわかった。一方で、これらの細胞の培養上清中CSSはN結合型糖鎖による修飾を受けていなかったことから、分泌型のCSSが糖鎖修飾を受けるという単純な機構ではないことがわかった。CSSの分泌機構の解明についてはさらなる研究が必要である。

 以上のように本研究では、血清中タンパク質の糖鎖解析法、および糖ヌクレオチド等の測定法を構築し、慢性炎症を伴う疾患におけるバイオマーカーの探索、および糖鎖変動機構の解明を目指した。それにより、炎症性サイトカインを介した糖鎖制御メカニズムを明らかにすることができた。本研究で見出した知見は、炎症を伴う疾患の病態をより詳細に理解し、有用な診断法を見出す上で意義があると考えられる。

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