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開水路流における乱流・スカラー輸送の数理モデルに関する研究

杉本, 尚子 SUGIMOTO, Shoko スギモト, ショウコ 九州大学

2021.09.24

概要

大気-海洋間におけるガス交換は気相-液相間の気液界面輸送現象と捉えることができる.環境気体として重要なCO2やO2の液側濃度境界層は極めて薄く,気液界面の気体輸送を支配するのはミクロな乱流の動力学である.開水路乱流は,気液界面をもつ最も基本的な乱流場の一つであり,界面スカラー輸送の基本的なメカニズムを理解するための重要な研究対象に位置づけられている.開水路乱流は,バースティング現象などの重要な要素を備えており,そのような乱流場に関する検討は界面スカラー輸送の理解の深化やモデルの精緻化において極めて有用である.代表的な界面スカラー輸送モデルである表面更新モデルや界面発散モデルには,表面更新率や界面発散などの乱流特性量が含まれており,これらの物理量を定量化するためには水表面における乱流動力学に関する知見の集積が必要不可欠である.また,海洋や河川に目を向けると,水表面上には風によるせん断応力(風応力)が作用している.水表面に作用するせん断応力が,表面更新率や界面発散などの物理量に及ぼす効果を調べることは,スカラー輸送モデルを実水域の評価・予測に実装する上で重要である.しかし,水表面に作用する風応力の効果が,表面更新率や界面発散などの乱流特性量に及ぼす影響についてはこれまで十分に明らかにされていない.

理論研究と実験研究をつなぐもう一つの方法論として,Navier-Stokes 方程式の直接数値シミュレーション(DNS)や乱流クロージャーモデルに基づくレイノルズ平均方程式によるシミュレーション(RANS)を解析 ツールとする手法が考えられる.DNSは時々刻々の非定常乱流場の時空間数値データを生成できることから,極めて有用な乱流動力学の再現ツールである.DNSは物理モデルを一切用いずに計算を行う手法であるが,厳密な計算ができる一方で計算負荷が大きく,高レイノルズ数条件での計算を実行することが困難である.一方, RANSはDNSのような乱流動力学を内包する時空間数値データを生成することはできないが,DNSが苦手とする高レイノルズ数条件での乱流場のマクロな特性の記述に優れている.従って,両手法を用いることによって得られる知見は,表面更新モデルや界面発散モデルを実際の気液界面へ適用する上で有用であると考えられる.

このような背景から,本研究では,DNSおよび代表的なレイノルズ平均乱流モデルである標準k-モデルに基づいて水表面上に一様せん断応力が作用する開水路乱流場を表現し,それらを開水路乱流場の動力学的特性を 記述する数理モデルと位置づけて,これらの数理モデルを基盤として水表面近傍の乱流の動力学と界面スカラ ー輸送の関係について詳細な検討を行った.特に本研究では,水表面に作用するせん断応力(以下,界面せん 断応力)が付加された場合に,開水路乱流場がどのように応答し,界面スカラー輸送にどのような影響を及ぼ すかに着目した.まず,関連研究の動向と乱流・スカラー輸送研究における課題について考察を行った.次に, 主流方向に対して正負の界面せん断応力が作用する開水路乱流場のDNSを実行し,得られた数値解析結果に基 づいて,界面せん断応力が界面発散と界面スカラーフラックスに及ぼす影響について検討した.ただし,本研 究では,計算負荷の観点からシュミット数Sc=1の条件において解析を行った.さらに,代表的なレイノルズ平 均乱流モデルである標準k-モデルを用いて,界面せん断応力が付加された場合における開水路乱流場のマクロ な分布特性の応答について検討を行った.本論文はこれらの研究成果をまとめたもので5章より構成されている.

第1章では,本研究の背景とスカラー輸送の基礎理論ならびに研究の目的と論文構成について述べた.

第2章では,本研究に関わる研究の現状を理解するために,開水路乱流場,水表面にせん断応力が作用する乱流場,水表面におけるスカラー輸送に関する先行研究の動向について記述し,乱流・スカラー輸送研究における課題について考察した.

第3章では,直接数値シミュレーションによって得られた数値解析の結果について検討を行った.本研究では,主流に対して順方向と逆方向に作用する正負の界面せん断応力が付加された開水路乱流場を対象としており,界面せん断応力およびレイノルズ数を種々変化させた条件での解析を行った.平均主流速,乱れ強度,レイノルズ応力,平均スカラー濃度の鉛直分布の数値解を先行研究の結果と比較・検討し,本研究のDNSが十分な精度で開水路乱流場を再現していることを検証した.界面せん断応力が作用しない場合,正の界面発散を誘起する乱流運動が界面スカラー輸送を支配することを確認した.このことは,界面発散を用いて界面スカラーフラックスを記述する界面発散モデルの妥当性を強く示唆する.界面せん断応力の作用は,界面発散と界面スカラーフラックスの水表面における空間分布を顕著に変化させることを見出した.第二不変量および主流方向渦度に基づいて縦渦構造の可視化を行った結果,縦渦の分布特性が界面せん断応力の符号によって変化することがわかった.また,界面発散と界面スカラーフラックスの相互相関係数は,両者が強い相関性を持つことを示した.主流方向渦度の相関係数の横断方向分布は,原点を中心として正負の両側に極大点と極小点を有しており,これらの極値間距離がおおよそテイラーマクロスケールに一致した.さらに,界面発散のrms値に関するスケーリング関係について検討した結果,水表面上のテイラーマイクロスケールと乱流速度を用いた場合,界面せん断応力の符号や大きさに関わらず,界面発散のrms値が普遍的にスケーリングできることがわかった.これらの結果は,テイラーマイクロスケールが界面スカラー輸送を駆動する表面更新乱流を特徴づける乱流長さスケールであるとする従来の知見を支持する.平均スカラー輸送速度と界面発散のrms値の平方根の関係に基づいて界面発散モデルの有効性について検討した結果,界面せん断応力作用下においても両者の間には概ね線形関係が成立しており,その比例係数は界面せん断応力に依存することを示した.水表面における平均スカラー濃度境界層厚さは界面せん断応力に依存して変化することを見出し,境界層厚さと界面せん断応力との関係を経験的に普遍表示した.得られた経験式を境膜モデルに適用することで,平均スカラー輸送速度を定量的に評価することが可能となった.

第4章では,レイノルズ平均乱流モデルである標準k-モデルを用いて開水路乱流場の解析を行った.先行研究の解析手法に倣って,界面せん断応力が作用しない等流状態の開水路乱流場(基本場)における平均主流速,乱れエネルギー,エネルギー散逸率,渦動粘性係数を多項式近似で表現する解析を行った.ただし,本研究の解析では,渦動粘性係数の水表面減衰関数として簡便なモデルを導入した.得られた多項式近似の結果は,基本場の開水路乱流の鉛直分布を概ね再現できることを確認した.また,基本場の解析結果に基づいて,平均スカラー濃度の鉛直分布を求めた.DNS の結果と比較・検討した結果,両者の分布特性は概ね一致した.次に,水表面減衰関数を適用せずに,レイノルズ方程式にのみ分子粘性項を考慮した基礎式を用いて,界面せん断応力が作用する開水路乱流場における多項式近似による解析を行った.解析結果における界面せん断応力に対する応答特性は,標準k-モデルによる数値解と定性的に一致することを確認した.ただし,乱流特性量の鉛直分布の挙動については,多項式の次数に関係すると思われる定量的差異が見られた.さらに,より厳密な水表面境界条件と水表面減衰関数を導入して標準k-モデルによる数値解析を行い,界面せん断応力に対する開水路乱流場の応答性について検討した.DNS の数値解析結果と比較し,両者の特徴について考察した結果,乱れの等方性を前提とした標準k-モデルでは,DNSによってシミュレートされる水表面極近傍における乱れの複雑な変形を再現することはできないが,界面せん断応力作用下における乱流特性量のマクロな分布特性を記述する上で有効であることを示した.これらの結果は,乱流クロージャーモデルによる水表面乱流のモデル化や水表面減衰関数のような簡易的修正を導入する際において重要な指針を与える知見であると考えられる.

第 5 章では,以上の結果を総括し,本論文の結論とした.

参考文献

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