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大学・研究所にある論文を検索できる 「脳脊髄液及び胆汁中の誘導結合プラズマ原子発光分光法による微量元素濃度測定と、多変量解析による病態診断への応用」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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脳脊髄液及び胆汁中の誘導結合プラズマ原子発光分光法による微量元素濃度測定と、多変量解析による病態診断への応用

村松, 尚範 筑波大学

2022.11.22

概要

目的:
 法医学で行う解剖検査は、主として内臓の肉眼的、顕微鏡的観察と、血液や尿の生化学的解析によって死因判断がなされているが、いずれの検査所見にも異常がなく、結果として死因が不明と判断される事例も少なくない。この限界を越えるための新たな検査手法が求められている。そこで本研究では、測定が困難であるのみならず、病態的な意味づけがなされていないため、法医学領域ではほとんど研究されてこなかった、無機物として人体内に広く分布している微量元素の解析を行った。試料としては剖検試料から血液のみならず、これまでほとんど分析対象となっていなかった胆汁や脳脊髄液について分析し、その正常域と分布を明らかにするとともに、微量元素間に関連性があるか解析する。また、肝臓の病理組織検査では比較的多く診られ、患者も増加傾向である脂肪肝に着目し、肝疾患において胆汁中微量元素に変化があるか明らかにする。さらに、解剖では死因の根拠となる指標に欠ける窒息死について、脳脊髄液中微量元素に変動があるか明らかにし、死因判断のマーカーとして脳脊髄液中微量元素が活用できるか検討する。

対象と方法:
 2017年から2019年に本学にて司法解剖となった解剖遺体より、血液、胆汁、脳脊髄液を採取した。胆汁は67症例、脳脊髄液は64症例から採取した。それぞれの症例は病理組織学的検査、各種薬化学検査を行い、病変の検索、死因判断を行った。
 採取した体液はそれぞれ遠心分離を行い、上清を脳脊髄液は10倍,血液、胆汁は100倍に希釈し、ICP-AES(ICP6500, Thermo Fischer)にてカドミウム(Cd)、クロム(Cr)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)の各種微量元素濃度測定を行った。測定したデータについて、記述統計、t-検定を行うとともに、単独では比較に有意差が出ない場合でも、相関関係の強い元素群ごとの比較であれば何らかの傾向が見いだせる可能性も考え、多変量解析(因子分析)にて分析を行った。また死因分類や病態分類を行い、胆汁では脂肪肝群(14例)と正常肝群(42例)、脳脊髄液では窒息群(39例)と非窒息群(25例)にて比較し、統計解析を行った。

結果:
 記述統計:血漿では測定したいずれの元素も含有していた。胆汁ではPbが含まれていなかったが、Cd、Cr、Cu、Mnは血漿よりも平均濃度が高かった。脳脊髄液ではPb以外の測定元素が全て含まれており、いずれの元素も血漿の1/5から1/10程度の低濃度であった。
 相関係数の解析:血漿ではCd-Zn、Cr-Mn、Fe-Zn、Cr-Pbに正の相関関係が認められた。胆汁ではCd-Zn、Cr-Mn、Fe-Znに正の相関関係があった。脳脊髄液ではいずれの元素間も相関係数が大きかった。Cd-Zn、Cd-Mn、Cr-Mn、Cu-Zn、Cu-Mn、Fe-Mn、Fe-Znに正の相関関係があり、Cd-Feには負の相関関係があった。いずれの体液でもCd-Zn、Cr-Mn、Fe-Znの相関が高いという傾向があった。
 t-検定:胆汁ではCu、Mnは血漿より有意に高濃度であった。Feは血漿より低濃度であった。脳脊髄液と血漿ではCu以外の元素で血漿より有意に低濃度であった。
 因子分析:血漿では4つ、胆汁、脳脊髄液では3つの因子が抽出された。Cd-Znに関連した因子はいずれの体液からも認められた。また、いずれの体液からも異なった因子が抽出され、相関する元素が異なる傾向がみられた。Cuは他の元素との相関が比較的少ない傾向にあった。
 脂肪肝群と正常肝群での胆汁中微量元素比較:脂肪肝群の方が胆汁中の微量元素濃度が高くなる傾向がみられた。また、因子分析では脂肪肝群と正常肝群では異なる因子が抽出され、胆汁中の元素間の関連性に違いがみられた。特に第2因子では脂肪肝群はMn、Fe、Crと関連性が強く、正常肝群では胆汁総数と同様にZn、Cdと関連性が強かった。
 窒息死群と非窒息死群での脳脊髄液中微量元素比較:窒息死群ではCd、Cr、Cu、Znの濃度が低い傾向がみられた。また、因子分析では窒息死群と非窒息死群で異なる因子が抽出され、脳脊髄液中の元素間の関連性に変化が生じており、窒息死群では特にCd、Cu、Fe、Mn、Znの関連性が強まっていた。

考察:
 胆汁、脳脊髄液からはいずれも測定した元素のほとんどが含まれており、胆汁では血漿中より高濃度な元素もあった。いずれの体液でも各微量元素の組成が特異的であることがわかった。また必須元素ではなく、有害性に注目されることの多いCdがいずれの体液からも検出されたことも興味深い結果であった。相関係数をみると、いずれの体液でもCdとZn、CrとMn、FeとZnに強い相関がみられ、生体内では微量元素は単独で機能しているだけではなく、複数の元素が群として機能している可能性が考えられた。因子分析では血漿、胆汁、脳脊髄液で異なるパターンを示しており、微量元素がそれぞれの体液で異なる相関関係を持つことがわかった。また、脂肪肝群では胆汁中微量元素組成や相関に変化を認め、脂肪肝による肝機能障害に伴い、胆汁中微量元素のバランスが変化している可能性が示唆された。また、窒息死における脳脊髄液中の微量元素組成や相関にも変化が認められ、脳が低酸素状態となった際に、脳脊髄液中の微量元素にも瞬時に変動が生じることが示唆された。

結論:
 これまでその生理機能に未知の部分を含んでいる、脳脊髄液と胆汁から微量元素測定を行った。いずれも血漿と同一成分であったが、濃度バランスには明らかに変動がみられた。また、多変量解析の結果、それぞれの元素間の動きには相関がみられ、生体内では各種微量元素は互いに独立しているのではなく、相互に関連性を持ち機能していることが示唆された。また、胆汁や脳脊髄液中の微量元素は、それぞれ特異的な相関が認められ、病態や死因により組成や相関に変化がみられた。
 これらのことは、法医解剖において肉眼的・組織学的に異常所見を認めない若年者の突然死や乳幼児の急死例と窒息死との鑑別や、肝障害を伴う代謝性疾患の病態評価に、これら微量元素の測定が重要な指標を与えてくれる可能性があることが明らかになった。

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