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大学・研究所にある論文を検索できる 「皮膚リンパ腫に対するTomotherapy を用いたHelical skin radiation therapy」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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皮膚リンパ腫に対するTomotherapy を用いたHelical skin radiation therapy

山田, 真由香 東京大学 DOI:10.15083/0002004985

2022.06.22

概要

本研究の目的は、Tomotherapyを用いた原発性皮膚悪性リンパ腫に対するヘリカル皮膚放射線治療(Helical skin radiation therapy; HSRT)の現状と問題点、今後の展望について、主に臨床的見地から検証することである。

 第一章では原発性皮膚リンパ腫に関する基礎知識をまとめている。全身皮膚に病変が広がった症例に行われるTotal skin electron beam therapy(TSEBT; 全身皮膚電子線照射療法)は、今研究の対象であるHSRTによって代替出来ないかを検討している従来の治療法であり、入念に記載している。TSEBTは有効で安全な照射方法であるが、その処方線量も照射方法も未だ議論の中である。また、手間と時間がかかり、患者と医療者側双方に負担の大きい照射方法であるため、実際にTSEBTを施行可能な施設は限られているのが現状である。国内外で急速に普及しているTomotherapyを用いた広範囲の皮膚照射が有用であることが判明すれば、その恩恵は大きいと考える。
 さらに第一章の後半では、比較的新しい技術であるTomotherapyの基礎事項を簡単にまとめ、Tomotherapyの広範囲の皮膚照射への適正と期待について述べている。皮膚照射は非常に浅い領域を照射ターゲットとした治療となるが、放射線治療につきもののビルドアップ効果の問題をTomotherapyではほぼ平行の非常に浅い角度で照射可能であることから理論上解決可能である。また、最大照射野が40×40cmのリニアックと比較し、一度に頭尾方向に135cm照射可能という広い照射域を持ち、広範囲の照射を行うのに適している。Tomotherapyでは回転照射とマルチリーフコリメーターにより理論的には皮膚の形状に合わせた照射野を作ることも出来る。またその照射法から固定精度の改善、患者と医療者側双方の負担の軽減も望める。
 このようにTomotherapyは広範囲の皮膚照射に期待できる治療装置となっており、2013年頃から諸外国から症例報告が出始め、現在までに5報告(合計9症例)確認している。当院では2014年10月にTomotherapyが導入され、2015年6月に初めてTomotherapyを用いた菌状息肉症に対する両下肢皮膚へのHSRTが行われた。

 第二章では当院のHSRTの臨床成績および物理的妥当性についてまとめた。東京大学医学部附属病院で2015年6月から2019年7月までに原発性皮膚リンパ腫に対してHSRTを行った全症例をリストアップし、そのうち鼻、踵、頭皮の一部など、ごく限られた凹凸のある小範囲に対してTomotherapyが使われた3症例を除いた24症例について検討した。本研究にエントリーした患者の一部(7人)は、人を対象とした医学系研究に関する倫理指針に沿って、東京大学医学部附属病院での自主臨床試験「皮膚悪性リンパ腫に対するトモセラピーを用いた全身皮膚照射の探索的臨床研究」(整理番号P2016003、UMIN000022142)に登録されている。
 Tomotherapyの頭尾方向の最大照射野が135cmであるため、成人症例の場合は全身の皮膚を頭尾方向に2分割以上にして照射を行う必要がある。これは海外からの諸報告でも同様である。当院では頭頸部皮膚、体幹部+両上肢皮膚、両下肢皮膚の3部位に全身皮膚を分割し、複数か所照射が必要な場合は1部位ずつ逐次的にHSRTを行った。
 全24症例に対し、頭頸部皮膚HSRTが19回、体幹部+両上肢HSRTが18回(頭頸部~体幹部+両上肢皮膚HSRT1回、頭頸部~胸部皮膚HSRT1回を含む)、下肢皮膚HSRTが16回(骨盤~両下肢皮膚HSRT1回含む)の計53回HSRTが施行された。うち8例24照射は逐次的に3部位のHSRTを行い、全身皮膚照射とみなされている。同じ部位にHSRTの再照射を受けた症例は3例あり、いずれも頭頸部皮膚のHSRTであった。
 24症例の患者背景は、初回HSRT時の年齢中央値が66歳(範囲24-77歳)で、19人(79%)は男性であった。各HSRTの照射終了日からの観察期間中央値は13か月(範囲2-50か月)。24症例中20例(83.3%)が菌状息肉症と診断され、残りの4症例はそれぞれ原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫非特異が1例ずつであった。
 線量は初期3例のみ10Gy/10分割で行っているが、HSRT後すぐ再発を認めたため、その後菌状息肉症症例に対しては20Gy/10分割まで線量増加した。3例が照射完遂せずに中止となっている。
 HSRTの治療成績は、菌状息肉症の全奏効率は100%、その内訳は完全奏効(Complete response; CR)が38照射(80.9%)、部分奏功(Partial response; PR)が5照射(10.6%)、good PRが4照射(8.5%)と良好な結果となった。TステージごとのCR率は、T2症例で6照射(66.7%)、T3症例で28照射(90.6%)、T4症例で3照射(50%)であった。全身皮膚照射を行った8症例24照射では、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫の下肢皮膚照射のPRを除いて、菌状息肉症の7症例21照射はすべてCR(100%)であった。
 このように菌状息肉症のHSRTの奏効率は標準線量のTSEBTと比較しても良好であったが、一方でその奏効期間は決して長くはないことも判明した。菌状息肉症に対する各HSRT全47照射の照射終了日から照射野内再発までの期間中央値は5か月(95%信頼区間3.67-6.32か月)と、低線量TSEBTよりも短期であった。HSRT終了日から照射野内再発に対する再照射までの期間中央値は15か月(95%信頼区間9.76-20.24か月)、全生存は22か月(95%信頼区間13.6-30.4か月)であった。
 菌状息肉症以外の病型では、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫の症例では全身皮膚照射を10Gy/10分割で行い頭頸部皮膚と体幹部+両上肢皮膚はCR、下肢皮膚はPRであった。0-5か月で各部位に照射野内再発を認めている。原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫は頭頸部皮膚HSRT20Gy/10分割でCRかつ10か月照射野内再発なし、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫は頭頸部皮膚HSRT30Gy/15分割でCRかつ8か月照射野内再発なし、末梢性T細胞リンパ腫非特異では頭皮膚HSRT頸部~胸部26Gy/13分割でgood PRかつ2か月後に照射野内再発を認めるという経過であった。
 HSRTの有害事象として、体幹部+両上肢皮膚にHSRTを行った場合、線量に寄らず94.1%という高確率でのGrade 3以上の骨髄抑制が判明した。20Gy以上の体幹部+両上肢皮膚HSRTを受けると、70%以上の確率で、Grade 3以上の白血球減少、好中球減少、血小板減少が生じる。初期の体幹部+両上肢皮膚HSRTでGrade 5の発熱性好中球減少症が1例発生した。骨髄抑制はTSEBTでは文献上生じることは稀であり、HSRTに特徴的な有害事象である。HSRT開始時には有害事象として想定されておらず、今研究で重要な意味をもつ。頭頸部皮膚HSRT単独、下肢皮膚HSRT単独ではGrade 3以上の骨髄抑制は認められなかった。他に有害事象として局所的な放射性皮膚炎Grade 3を9.3%に認めた。Grade2以上の放射線肺臓炎、白内障は認められていない。
 放射線治療計画システム上でのリスク臓器およびターゲットの線量についても評価した。骨線量の中央値は7.46Gy(範囲6.63-9.74Gy)、肺V5中央値は29.3%(範囲18.15-48.51%)であった。
 ガラス線量計を用いて体表線量の実測も行い、高精度を要求されるHSRTの物理的な妥当性の検討も行った。肛門周囲の皮膚を除けば体表線量は処方線量の肛門周囲の皮膚を除いた照射範囲の体表線量の結果は、処方1回線量2Gyの処方線量の74-130%(中央値101%)であった。肛門周囲は治療計画システム上でも低値であり、実測も処方線量の47-67%(中央値60%)であった。期待していたほど均質性は高くなかったが、臨床上は許容範囲と判断した。

 以上より、HSRTには奏効率は良好なものの、奏効期間が短く、体幹部+両上肢皮膚を含むと骨髄抑制の有害事象が強いという欠点が判明した。時間と手間のかかるTSEBTに代替しうる方法を模索したが、今研究の検証の結果、全身皮膚を対象とした場合HSRTは従来の治療法よりも劣るという結論に帰着した。
 一方で、物理的に照射精度は許容範囲であると判明したことにより、頭頸部皮膚HSRTや両下肢皮膚HSRTなど、単独では重篤な骨髄抑制を起こさないと予想される、局所電子線でカバーの難しい凹凸のある広範囲の皮膚に用いるには、HSRTは有用な照射方法であることもわかった。体幹部+両上肢皮膚については今後慎重に適応症例を選択していく方針である。症例数を重ね、線量均質性の向上を目指し、有害事象軽減と治療期間短縮のため低線量化も検討し、今後も継続してデータを蓄積して安全で有効なHSRTの一助としたいと考える。

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