生物教育におけるコンピテンシーの育成に関する基礎的研究:特に「生命観」に着目して
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生物教育におけるコンピテンシーの育成に関する基礎的研究:特に「生命観」に着目して
金本, 吉泰
北海道大学. 博士(理学) 甲第15561号
2023-06-30
10.14943/doctoral.k15561
http://hdl.handle.net/2115/90561
theses (doctoral)
Yoshihiro_Kanamoto.pdf
Instructions for use
Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP
博士学位論文
生物教育におけるコンピテンシーの育成に関する基礎的研究 : 特に「生命観」に着目して
金本 吉泰
北海道大学大学院理学院
自然史科学専攻
令和5年 6 月
1
目次
第1章 問題の所在
4
第1節 学習指導要領における資質・能力の3つの柱と生物教育のコンピテンス
5
第2節 生物教育における「学びに向かう力、人間性等」の育成
6
第3節 これまでの日本の理科教育における生命観育成
7
第 4 節 生物教育による生命観育成の可能性
9
第2章 本論文の目的と構成
11
第1節 本研究の目的
12
第2節 本論文の構成
14
第3章【研究1】生物教育において育成するコンピテンスの検討
16
第1節 問題と目的
17
第2節 方法
18
第3節 結果
21
第4節 考察
28
第4章【研究2】高校生の生命観の現状に関する研究
32
第1節 問題と目的
33
第2節 方法
34
第3節 結果
37
第4節 考察
42
第5章【研究3】学校、性別などによる高校生の生命観の違い
51
第1節 問題と目的
52
第2節 方法
52
第3節 結果
56
第4節 考察
62
2
第6章【研究4】生物教育における生命観の育成方法についての検討
69
第1節 問題と目的
70
第2節 方法
71
第3節 結果
73
第4節 考察
75
第5節 本研究のまとめ
78
第7章 総合考察
80
第1節 本研究の総括
81
第2節 生物教育におけるコンピテンスの育成と生命観
82
第3節 生命を尊重する態度の育成に向けた生物教育への示唆
84
第4節 本研究の成果と今後の課題
85
引用文献
88
謝辞
92
附録
93
3
第1章 問題の所在
4
第1節 学習指導要領における資質・能力の3つの柱と生物教育のコンピテンス
2007 年に改正された学校教育法の第 30 条第 2 項には「生涯にわたり学習する基盤が培
われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決
するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り
組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と記載され、
「基礎的な知識及
び技能」
「思考力、判断力、表現力等」
「主体的に学習に取り組む態度」という「学力の3
要素」が示されている。これを受け、学習指導要領においても「生きる力」
「確かな学力」
など様々な表現で、知識のみに偏らない「学力」を表現してきた。2017 年、2018 年に行
われた学習指導要領の改訂においては、生徒に育成すべき「資質・能力」として「知識及
び技能」
「思考力、判断力、表現力等」
「学びに向かう力、人間性等」の 3 つの柱が提示さ
れた(文部科学省,2017,2018)。しかしながら,資質・能力の育成にあたっては,より
ブレーク・ダウンした具体的な議論が必要であり(鈴木,2019)
,教育現場においても評
価可能で具体的な資質・能力についての検討が求められているが,現段階では資質・能力
の3つの柱をブレーク・ダウンした,評価可能で具体的な資質・能力の検討についての報
告は見られていない。
特にこれまで観点別評価に対してもあまり馴染みのなかった高等学校の教育現場にお
いては,教育活動の中で様々な資質・能力をどのように育成,評価すべきかについて混乱
が見られているような状況であり,資質・能力を育むための「主体的・対話的で深い学び」
の実践においても十分に取り組まれているとは言えない状況である。
一方,以前よりコンピテンス基盤型への教育改革を進めてきたフィンランドなどの諸
外国においては,生徒に育成すべきコンピテンスを整理し,その効果的な育成方法につい
ての実践が進められている(鈴木,2019)
。さらに,OECD Education 2030 においても,
学習者に身に付けさせる「Knowledge」
「Skills」
「Attitudes and Values」を「Competencies」
として整理しており(白井,2020)
,これからの教育において,児童生徒にどのようなコ
ンピテンシーを具体的に育成すべきか検討することが重要である。
このような背景を踏まえると,生物教育において生徒に育成すべき資質・能力をコン
ピテンシーと捉え,これを評価可能なレベルにブレーク・ダウンして整理する必要性があ
り,これらの具体的な育成方法及び評価方法の検討が喫緊の課題であると考えられる。
なお.「コンピテンシー」や「コンピテンス」という語については,現状では様々な捉
え方が存在している。本研究においては,立田(2007)によるコンピテンシー,コンピ
5
テンスの捉え方に基づき,コンピテンシーを測定可能なコンピテンスの集合概念と捉える。
その上で,生徒に育成すべき資質・能力をコンピテンシーと捉え,これを評価可能なレベ
ルであるコンピテンスまでブレーク・ダウンすることとする。
第2節 生物教育における「学びに向かう力、人間性等」の育成
国立教育政策研究所が発行した「学習評価のあり方ハンドブック(高等学校)」(2019)
によると,第1節で述べた資質・能力の3つの柱のうち,「知識及び技能」の評価につい
ては「各教科等における学習の過程を過した知識及び技能の習得状況について評価を行う
とともに,それらを既有の知識及び技能と関連付けたり活用したりする中で,他の学習や
生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり,技能を習得したりしているかを評
価」するとされ,
「思考力,判断力,表現力等」については「各教科等の知識及び技能を
活用して課題を解決する等のために必要な思考力,判断力,表現力等を身に付けているか
どうかを評価」するとされている。これらに対して「学びに向かう力,人間性等」につい
ては評価の観点が「主体的に学習に取り組む態度」と「感性,思いやりなど」の2つに分
けられており,前者は「知識及び技能を獲得したり,思考力,判断力,表現力等を身に付
けたりするために,自らの学習状況を把握し,学習の進め方について試行錯誤するなど自
らの学習を調整しながら,学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価」すると
されて観点別評価の観点となっている。これに対して後者の「感性,思いやりなど」につ
いては個人内評価を行うこととされ,生徒への適切なフィードバックを行うとともに,
「生徒一人一人のよい点や可能性,進歩の状況などを積極的に評価し生徒に伝えることが
重要」とされている。
生物教育に関して考えると,平成 30 年告示の学習指導要領では,生物基礎及び生物に
おける「学びに向かう力,人間性等」に関わる目標として,「生命を尊重し,自然環境の
保全に寄与する態度を養う」が示されている。これはまさに「感性,思いやりなど」に該
当する項目であると考えられる。
鳩貝ら(2004)によると,生命を尊重する心は,命に慈しみや畏敬の念を抱く,つま
り生命に価値を抱くことから始まるとし,生命尊重は生物・生命に真,善,美などの正の
価値を付与している状態としている。このことから,生徒が「生命の尊重」に対して主体
的に関わろうとするためには,その基盤として生徒が生物や生命をどのように捉えている
かという,生命に対する見方,考え方が深く関わっている。本研究では,山谷ら(2008)
6
による定義に基づき,
「生命とは何かについての根本にある見方,考え方」を「生命観」
として定義する。前述したように,この「生命観」は「生命を尊重する態度」という行動
特性に関与するものである。そのため,本研究においては「生命観」を高校生に育成すべ
きコンピテンシーの 1 つと捉える。そのうえで,高等学校の生物教育において「学びに向
かう力,人間性等」に該当する目標である「生命を尊重し,自然環境の保全に寄与する態
度」の涵養に関わり,
「生命観」というコンピテンシーをどのように育成すべきかについ
て議論する。
「生命観」については,これまでも主に理科教育と道徳教育において議論されてきた
(例えば理科教育については,岩間ら,2011,2017,牧野,2010,江上ら,2016,河村,
2011,道徳教育については,河内,2013,濱野,2012)
。高校生の「生命観」について調
査した先行研究(小林ら,2016)においては,文献調査から抽出された概念構造を基に
して作成された生命観測定尺度が用いられている。しかし近年,理科教育における「生命
観」については,急速な分子生物学の発展や,再生医療の発展などにより,以前の生命観
とは異なるものに変容しているという議論も聞かれるようになった(例えば牧野,2010)
。
先行研究で用いられているような,文献調査から抽出された概念構造に基づく尺度での分
析では,このような変容を十分に捉えきれない可能性がある。また,高校生に内在する生
命に対する見方,考え方には,文献調査では表れてこない概念が含まれている可能性も否
定できない。このような状況から,現在の高校生の生命観を明らかにするためには,測定
尺度のみでの調査ではなく,より多面的な調査・分析を行うことが必要である。そこで本
研究では,実際に高校生がどのように生命を捉えているかを明らかにするために,高校生
の生命に関する捉え方を調査し,文献調査から得られた結果と併せて分析することで、高
校生がどのような生命観をもっているのかを明らかにする。
第3節 これまでの日本の理科教育における生命観育成
現在の学習指導要領で求められている生命を尊重する態度の育成について,その背景を
探るために,これまでの日本の理科教育における「生命観」に関する扱いはどのようなも
のであったかを確認することが必要である。そこで,過去の学習指導要領における理科の
目標にある,生命の尊重に関する記述を確認した。昭和 22 年版の学習指導要領理科編
(試案)
「第一章 理科の指導目標」には,
「生き物をかわいがり育てる態度」が記載され
ている。昭和 27 年改訂の「小学校学習指導要領理科編(試案)
」では,理科の目標の1つ
7
として「生命を尊重し,健康で安全な生活を行う」が挙げられていた。
(試案)がとれて
法的拘束力をもつ「学習指導要領」になった昭和 33 年以降の状況については,小学校及
び中学校の理科では,いずれにおいても教科の目標,あるいは学年,分野の目標において,
「生命観」の育成に関わる目標が設定されてきた。しかし,高等学校においては「内容の
取り扱い」などには一部記載が見られたものの,
「生命観」に直接関わる記述については,
理科や生物などの科目の目標にはこれまで見られていない。ところが,平成 30 年告示の
高等学校学習指導要領(文部科学省,2018a)においては,生徒に育成すべきものとして
「生命を尊重し,自然環境の保全に寄与する態度」が生物基礎及び生物の目標として記載
されている(過去の学習指導要領における記載内容の詳細については附録に示す)。また,
高等学校学習指導要領解説理科編理数編(文部科学省,2018b)には,「生命の尊重につ
いては,生物のつくりと働きの精妙さや生物は生物からしか生み出されないことなどを,
科学的な知識に基づいて理解させ,生命を尊重する態度の育成を図る。」と説明されてい
る。しかし,学習指導要領や学習指導要領解説には,どのような態度が「生命を尊重する
態度」なのかについては明確に示されておらず,このため具体的な育成方法について,教
育現場での検討が十分に行えない状況である。山谷ら(2008)は生命観を,
「生命とは何
かについての根本にある見方,考え方を指し,生物概念(生物の客観的属性を一つひとつ
正確に捉える知識面としての概念)と生命概念(生命の本質的属性を体験などから得られ
る情意面としての概念)を基盤として形成されるものである。
」と定義している。ここか
ら考えると,生命を尊重する態度を育成するためには,知識面と情意面の両面を育成する
ことが必要であり,これを教育現場で実践することが可能な指導方法として,具体的に提
案する必要がある。
一方,以前より理科の目標として生命を尊重する態度の育成が求められてきた小学校,
中学校においても,理科教育の中での育成が十分であったかというと,決してそうではな
い。学校教育での生命を尊重する態度の育成についての論文を検索すると,道徳及び保健
体育での実践報告は多くの実践者からの報告が見られるものの,理科教育での実践報告に
ついては報告者数が非常に少ない。このことからも,理科教育における生命を尊重する態
度の育成が十分に行われていない状況がうかがえる。前述したように,現行の高等学校学
習指導要領においては,高等学校生物基礎及び生物においても「生命を尊重する態度」の
育成を目標としなければならない。その変容を見取って評価していくためにも,まずは高
校生がどのような生命観を抱いているのか,多面的な方法での分析が必要である。
8
第4節 生物教育による生命観育成の可能性
筆者は 1999 年に高等学校教員として採用されて以降、20 年間中等教育に関わってきた。
そのうち中学校理科教員としての 7 年間及び高等学校理科教員としての 10 年間は、学校
現場で生徒たちと直接関わる立場にあった。一方で筆者は獣医師という立場でもあるため、
自分自身が獣医師となるまでの体験・経験から、子どもたちには「生命の尊重」をしっか
り考えてほしいということを、自分自身のこだわりとして伝えてきたつもりである。
実践を繰り返す中で、
「生命の尊重」を子どもたちに伝えて考えさせていく上では、自
分自身が生命に対してどのような考えをもっているか、なぜ生命を尊重しなければならな
いのかについて,自分の考えを生徒に伝えるだけでなく,その考えを1つの材料として,
生徒たちが自分自身の生命に対する考え方を深めていくことが重要であると実感してきた。
また,そのためには生物との直接体験を通して生徒の感性を刺激することによって,生徒
に「生命」について深く考えるきっかけを作ることが必要であることも経験してきた。
このような経験を通して感じたことは,鳩貝ら(2004)が述べているように,
「生命を
尊重する態度」の育成には,生命にどのような「価値」を見いだしているかということが
大きく影響しており,生命の価値に対する考えを,学校教育全体を通して生徒がどのよう
に構築しているかが重要であるということであった。では,生徒が生命・生物に真,善,
美といった正の価値を見いだすために,具体的にどのような学習活動を行うべきなのかと
考えると,高等学校での実践報告などは,ほとんど見られていない。
理科教育における生命観の育成に関する先行研究については,初等教育教員等を志望す
る学生に対して「魚の解剖」を実践した岩間ら(2011)による報告や,中学校理科にお
いて蛙の飼育と解剖を取り入れた実践を行った高木ら(2012)の報告,生物の飼育栽培
活動を通した生命を尊重する態度の育成に関する鳩貝らの報告(2011)などが見られる。
しかし,これらの報告における「生命観」の定義は様々であり,中には明確な定義がなさ
れないままのものも含まれている。これまでの様々な報告を概観すると,「飼育栽培」と
「解剖」の実践を通した生命観の育成に関する報告が多い。岩間ら(2014b)の報告では,
アンケート調査の結果,大学生の多くは「生物の誕生や成長」
「死」に触れたときに生命
を実感するということが明らかになっている。このことから,飼育栽培と解剖は生徒や学
生が生命を実感するためには効果的であると考えられる。このように,実践によって生命
の捉え方に対する何らかの変容が確認されているものもあり,生物教育によって生徒の生
命観を育成できる可能性は示唆されている。
9
このような背景から,高等学校の生物教育において,生命を尊重する態度の育成につな
がる生命観,特に生命の「価値」に関する考え方を育成するには,どのような取り組みが
有効なのかを検討する必要がある。このような問題意識から,本研究では前述の生命観に
関わるコンピテンシーの整理や生命観に関わる分析を踏まえて,高校生の生命を尊重する
態度の育成につながる生命観の具体的な指導法を提案し、その効果について教育実践を通
して実証的に分析する。
10
第2章 本論文の目的と構成
11
第1節 本研究の目的
第1章でも述べたように,
「高等学校の生物教育において,生命を尊重する態度の育成
につながる生命観を育成するには,どのような取り組みが有効なのだろうか」という疑問
に対する答えを得ることを目指す。この疑問を解決するために,まず学習指導要領に示さ
れている「生命を尊重する態度」とはどのような概念であるのかを,コンピテンシーの観
点から整理する必要がある。そのため,「生命観」をコンピテンシーの1つととらえ,生
物教育において育成を図る様々なコンピテンスと生命観との関係性を明らかにする。さら
に,コンピテンスの育成を図る授業実践は可能なのか,またその評価をどのように行うの
かについて,実践を通して検証する。その後,高等学校における「生命を尊重する態度の
育成」についての改善を図るために,高校生がもっている生命観を明らかにすること及び
その方法を検討する。コンピテンスの評価に関しては多面的な評価が必要であるため,こ
れまでに実施されてきた測定尺度による生命観の分析とは異なる方法を検討する必要があ
る。さらに,高校生の生命観は,家庭環境や小学校と中学校での学びを通して培われたも
のであることを考え,生命観に影響を与える要素についての検討を行う。
これらについて議論したうえで,現在の高校生のもつ生命観の状況及びそこに影響を
及ぼす要素を踏まえながら,高等学校の生物教育において「生命を尊重する態度の育成」
につながる「生命観」を育成する具体的な方法について検討する。
以上のようなことから,本研究の目的として以下の4点を設定する.
目的1
生物教育において育成するコンピテンスを検討し,その具体的な育成方法について実践的
な検証を行うこと.
幼児教育から中等教育までを通して生物教育(生命領域の理科教育)において育成すべ
きコンピテンスについて,海外の事例や学習指導要領等を参考にしながら,複数の理科教
育関係者によるブレインストーミングや KJ 法を行うことを通して検討する。加えて,こ
こで整理されたコンピテンスを育成するための授業を計画,実践するとともに,コンピテ
ンスの具体的な評価方法についても検討する。これにより,幼児教育から中等教育にわた
って生物教育において育成するコンピテンスを整理し,コンピテンス基盤型の生物教育を
実践,評価する可能性を実証的に示すことが可能となる。
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目的2
生物教育において育成するコンピテンシーの「生命観」に着目し,高校生がもつ生命観の現
状について明らかにすること.
生物教育において,学習指導要領の科目等の目標にも掲げられている「生命を尊重する
態度の育成」について,
「生命観」は重要な要素となるコンピテンシーであると考えられ
る。そのため,この「生命観」に注目し,これまでに行われてきた生命観の測定方法とは
異なるアプローチとして,生命及び生物に関する自由記述の内容から生徒の生命観を分析
する。これにより,この方法による分析結果とこれまでの先行研究による下位概念を比較、
検討し,現在の高校生がもつ生命観の状況をより詳細に把握することが可能となる。
目的3
高校生がもつ,生命を尊重する態度の育成につながる生命観が,周囲のどのような要素の
影響を受けているかを検討し,生命観の育成方法についての示唆を得ること.
小学生と中学生を対象とした先行研究では,児童生徒のもつ生命観には地域差及び性差
があることが報告されている(山谷ら,2012b)。これに対し,自由記述による回答に基
づいた高校生の生命観において,地域差及び学校差,性差が見られるかどうかを検討する。
これにより,生命を尊重する態度の育成につながる生命観の下位概念,つまり「価値」に
関するコンピテンスを育成する方法を検討するうえで,考慮すべき事柄についての情報を
得ることが可能となる。
目的4
生物教育における生命観育成の具体的な方法を検討すること.
目的1から目的3の検討結果を踏まえて,生命を尊重する態度の育成につながる生命観
を育成する授業実践とその成果の分析を行い,高等学校の生物教育において生命観を育成
するための具体的な方法について検討する。これにより,生命観の育成,中でも「価値」
を育成するための具体的な手法を提案し,その効果と課題を実証的に評価し,高校教育に
おいて効果的に生命観を育成する教育の手法と留意点を教育現場に提供することで,生命
観育成を通した生命を尊重する態度の育成に貢献することが可能となる。
13
第2節 本論文の構成
第1節で述べた本研究の目的を達成するため,本論文では以下のように研究を展開する.
生物教育において育成するコンピテンスの検討
目的1を達成するため,第3章で研究1を行う。
研究1では,幼児教育や生活科を含む高等学校までの生命領域の理科教育において育成
すべきと考えられるコンピテンシーを検討し,これらを評価可能なコンピテンスまでブレ
ーク・ダウンする。このようにして育成するコンピテンシーの全体像を把握した上で,具
体的なコンピテンスの育成に向けた授業を計画、実践し,コンピテンスの評価についての
実践検証を行う。
高校生の生命観の現状に関する研究
目的2を達成するため,第4章で研究2を行う。
研究2では,研究1で検討したコンピテンシーに基づく「生命観」に注目し,高校生が
生物及び生命をどのように捉えているかを自由に記述させた回答に基づいて分析するとい
う手法で生命観の下位概念を検討する。この結果を,これまで行われてきた文献調査に基
づいた生命観の下位概念と併せて検討し,現状の高校生の生命観について,その下位概念
の状況を分析する。
学校,性別などによる高校生の生命観の違い
目的3を達成するため,第5章で研究3を行う。
研究3では,研究2で用いた自由記述のデータを異なる視点で分析し,生命を尊重する
態度の育成につながる高校生の生命観と,高校生が通う学校及び性別との間にどのような
関係性があるのかについて検討する。また,生命観の下位概念の関係性についても分析を
行い,生命を尊重する態度の育成につながる生命観の育成方法を検討するための実践研究
において,考慮すべき条件を明らかにする。 ...