リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「多発性硬化症における認知機能障害のスクリーニングツールとしてのGuy’s Neurological Disability Scaleの妥当性評価」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

多発性硬化症における認知機能障害のスクリーニングツールとしてのGuy’s Neurological Disability Scaleの妥当性評価

Akatani, Ritsu 神戸大学

2021.03.25

概要

<序論>
 多発性硬化症(MS)において認知機能障害は頻度の高い徴候であり、経過中の早期より始まっていることが知られ、また MS の全病期を通して常に脳萎縮が進行する。MS では認知機能ドメインの中でも、注意力、情報処理速度、ワーキングメモリー、言語記憶および視空間記憶、遂行能力が優位に障害される。Paced-Auditory-Serial-Addition Test(PASAT)および Symbol-Digit-Modalities Test(SDMT)は MS における神経心理学的機能および認知機能障害の評価において国際的に推奨されている検査である。PASAT と SDMT を両方含む神経心理学的検査バッテリーとして、Minimal Assessment of Cognitive Function in MS(MACFIMS)および Brief Repeatable Battery of Neuropsychological tests(BRB-N)が知られ、また SDMT を含むバッテリーとして Brief International Cognitive Assessment for MS(BICAMS)が知られているが、これらのバッテリーはいずれも煩雑で時間がかかり、外来診療で毎回施行することは容易ではない。MACFIMS は約 90 分、BRB-N は約 25-30 分、BICAMS は約 15 分かかる。
 Expanded Disability Status Scale(EDSS)は MS 患者の日常生活動作に影響を与える障害を評価するために開発された優れた評価ツールであるが、認知機能障害を含むいわゆる非身体障害に関しては多くのバイアスに影響されやすくしばしば評価が難しい。これらの捉えづらい症状を適切に評価するための神経心理学的検査が必要不可欠である。MS における多面的な症状を評価するために、1999 年に Sharrack らによって患者主観による評価尺度である Guy’s Neurological Disability Scale(GNDS)が発表され、以後アジア圏以外において、複数の文献においてその妥当性が評価されてきた。GNDS は様々な言語に翻訳されて用いられ、主に身体障害度スケールである EDSS や Barthel Index(BI)、Functional Independence Measure(FIM)などと良い相関を示すことが明らかとなったが、非身体障害との相関についてはほとんど報告がない。
 今回我々は、日本語版 GNDS が MS の身体障害のみならず、非身体障害を評価する他のパラメーターと相関するかどうかを調べることを研究の目的とした。

<方法・結果>
 McDonald’s 診断基準を満たす 44 名の MS 患者を対象に、寛解期に各種評価を実施した。また、当院への通院を継続した 11 名については 5 年間の経時的変化を解析した。
 我々は、本研究のために GNDS の質問項目を日本語に翻訳し、GNDS-J と名付けた。MS患者を対象に PASAT2, PASAT1, SDMT, やる気スコア、EDSS そして GNDS-J による評価を同日に行った。PASAT は聴覚および言語領域の情報処理速度やワーキングメモリーを評価するテストで、「2」および「1」は数字が聞こえてくる間隔の秒数を表している。SDMTは視覚および書字領域の情報処理、ワーキングメモリーを評価するテストである。やる気スコアは抑うつやアパシーを評価するための質問紙法で、0-99 点で評価し、点数が高いほど重度となる。GNDS は 12 のドメインで構成される質問紙法である。12 のドメインとはすなわち、認知、気分、視覚、会話、嚥下、上肢機能、下肢機能、膀胱機能、腸管機能、性機能、疲労、その他である。各ドメインは 0 点(正常)から 5 点(完全な機能喪失あるいは最大限の支援を要する)で評価され、合計点は 0 点(障害なし)から 60 点(最大)となる。各ドメインにはいくつかの質問が設定されており、患者は「はい」または「いいえ」を選択するようになっている。これらの評価は神戸大学医学部附属病院の脳神経内科医によって行われた。
 データ解析について、GNDS-J の妥当性検証には Spearman の順位相関係数を使用し、5 年間のフォローアップについては Fisher の正確確率検定を採用した。統計解析は GraphPad Prism 7.0 ソフトウェアを使用した。GNDS-J の信頼性検証には R ソフトウェアを用いて Cronbach’ alpha 係数を算出した。
 MS 患者(44 名)の平均年齢は 41.4 歳(標準偏差 8.8)で、女性が 34 名(77.3%)であった。EDSS の平均スコアは 3.03(標準偏差 1.95)であった。データ取得時に投与中の疾患修飾薬はインターフェロンβ17 名(38.6%)、フィンゴリモド 5 名(11.4%)、グラチラマー酢酸塩 2 名(4.6%)、フマル酸ジメチル 1 名(2.3%)、無治療 19 名(43.2%)であった。 MS 患者の高次脳機能検査について、PASAT2 の平均は 38.4 点(標準偏差 18.2)、PASAT1の平均は 26.2 点(標準偏差 15.1)、SDMT の平均は 48.6 点(標準偏差 15.7)であり、いずれも健常者平均(それぞれ 48.1 点, 28.7 点, 64.2 点)より低かった。また、MS 患者のやる気スコアは平均 40.8 点(標準偏差 12.8)で健常者平均 28.6 点より高かった。MS 患者の GNDS-J の平均は 11.2 点(標準偏差 8.38)で健常者平均 2.0 点より高かった。
 GNDS-J スコアは PASAT2/1 および SDMT スコアと負の相関関係を示した(r = -0.56 /-0.49 / -0.68)。また、GNDS-J はEDSS スコアとは正の相関関係を示し(r = 0.61)、MS における身体障害、非身体障害を含む多岐にわたる症状を反映しているものと考えらえた。一方、GNDS-J スコアはやる気スコアとは明らかな相関関係を示さなかった。全 MS 患者の GNDS-J スコアより算出した Cronbach’s alpha 係数は 0.78 であり、1999 年に発表された GNDS の原著における係数 0.79 とほぼ同等であった。
 また本研究では、MS 患者 44 名中 11 名について、診療録に基づいて GNDS-J 等のスコアおよび臨床情報、MRI 所見などの 5 年間の経過における変化を調査した。これら 11 名のうち、1 名は経過中に二次進行型 MS と診断されたため残りの 10 名の再発寛解型 MS の患者について検討した。5 年の経過で 10 名中 8 名は GNDS-J スコアの増悪を示し、これらの 8 名はいずれも臨床的再発を経験していた。一方、GNDS-J スコアが改善または不変であった患者はこの期間には臨床的再発を一度も経験していなかった。Fisher の正確確率検定を行ったところ、5 年間での GNDS-J スコアの変化によって分類したグループ間で、再発の有無によって有意差が認められた(p < 0.05)。しかしながら、EDSS の増悪は必ずしも再発の有無と関連していなかった。これらの結果は、GNDS-J が MS に伴う包括的な症状をカバーしており、EDSS と比較して疾患活動性をより鋭敏に反映できる可能性を示唆している。

<考察>
 認知機能障害は MS 患者の日常的および社会的生活にしばしば影響を与えるが、患者は倦怠感などを訴えることも多く、抑うつあるいはアパシーと区別してこれらの徴候を客観的に評価することは困難なことが多い。本研究では、GNDS-J スコアによって評価された徴候が、高次脳機能評価スケールである PASAT や SDMT スコアと相関し、またやる気スコアとは相関しないことが明らかとなった。このことは、GNDS-J スコアは抑うつやアパシーによる影響を受けることが少なく、主に MS 患者の認知機能を反映していることを示している。なお、GNDS と EDSS の相関については既報の通りであった。
 MS における客観的な治療反応性は、MRI でのガドリニウム造影病変や T2 強調画像での新規病変の数で評価される。本研究では、GNDS-J スコアが増悪した患者では経時的に MRIでの新規病変がみられたのに対して、EDSS スコアは必ずしも MRI 病変の増加を反映していなかった。これは、MRI や GNDS-J で検出できる疾患活動性の変化を、EDSS ではときどき過小評価してしまうことを示唆している。実際、5 年の経過において、多くの症例で GNDS-J が増悪したことは MS の進行を反映していると考えられる。
 我々の研究には患者数が少ないことおよび前向きコホート研究の必要性という観点での限界があるが、統計学的に確認された事項からは、日本人 MS 患者において GNDS-J が身体および認知機能障害を反映し日常生活の変化を評価するための簡便なツールとなりうることを示唆している。
 また、近年では患者が自身の疾患について理解を深め、その多岐にわたる症状について自覚することが生活の質の維持および改善にとって重要であることも認識されるようになっている。日常生活において GNDS-J の質問項目にあるような主観的事項に注意を払うことで、患者は適切に臨床徴候を把握、認識することが可能になると思われる。GNDS-J は認知機能を含んだ MS における障害を評価するためのツールとして、patient-friendly かつ使いやすいツールであり、さらに、近年パーキンソン病などの神経変性疾患において有用性が報告されているスマートフォンを使ったアプリケーションへの応用も期待される。

<結語>
 本研究で、我々は GNDS-J がPASAT, SDMT スコアと負の相関関係を示し、認知機能障害を反映しうることを示した。GNDS-J は患者主観により身体障害と認知機能障害を含めた包括的な神経障害度を評価でき、客観的な指標である EDSS と組み合わせることで、より病勢の変化を正確に評価できる可能性がある。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る