リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「重症心身障害児の痛みの評価に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

重症心身障害児の痛みの評価に関する研究

大北 真弓 三重大学

2022.01.04

概要

1. 導入
我が国では FLACC日本語版 (Matsuishiet al., 2018) が開発されたばかりであり、日常的な痛みを評価するツールはない。重症心身障害児の日常的な痛みを記録し、異常の早期発見や効果的な緩和ケア ・治療につなげるためには、より正確で実践的有用性の高い痛み評価ツールの開発が必要である。

2. 背景
重症心身障害児は、障害や合併症、医療的ケアによって日常的に痛みを感じやすいが、痛みを言語で他者に伝えることが難しい。重度の神経障害や認知障害をもつ子どもの痛みは、非典型的で個人差があり、長い間理解されず、疼痛管理も不十分であった (Oberlanderet al., 2006; Siden et al., 2015)。彼らの痛みの体験を理解するために、行動反応指標が活用されている。術後などの急性疼痛には r・FLACC、日常的な痛みには PaediatricPain Profile (PPP) (Hunt et al., 2004) 、NCCPC-R (Breau et al., 2002a)が推奨されているが、 NCCPC-Rよりも PPPの実用性が高いことが報告されている (Kingsnorthet al., 2015)。

3. 目的
本研究では、痛み評価尺度PaediatricPain Profile (PPP) 日本語版の信頼性と妥当性を検証し、有用性と重症心身障害児への適用を明らかにして尺度の活用方法を提案するために、以下の4点を目的として取り組んだ。
1) Paediatric Pain Profile (PPP)日本語版を作成し、重症心身障害児の痛みを評価することで、尺度の信頼性と妥当性を明らかにする。
2) 看護師の特性が痛み評価に与える影審を明らかにする。
3) Paediatric Pain Profile (PPP) 日本語版の有用性を明らかにする。
4) 重症心身障害児の特性が痛み評価に与える影響を明らかにする。

4. 方法
1)第 1研究痛み評価尺度 PaediatricPain Profile日本語版の信頼性と妥当性の検証
対象者は 2019年 2月から 5月に A県内 3施設(X・Y・Z病院)に入院中の重症心身障害児 30名であった。調査方法は、まず PPPを和訳し、日本語版を作成した。対象者の安静場面と痛み場面をビデオ撮影し、重症心身障害児看護を専門とする施設看護師 3名が録画を見ながら PPP日本語版を用いて痛みを評価した。信頼性と妥当性の検証には、 内的一貫性、測定者間信頼性、測定者内信頼性、再テスト信頼性、併存妥当性(PPPスコアとFLACCスコアの相関関係)、構成概念妥当性(痛みによって心拍数、PPPスコアが上昇するか)を検証した。内的一貫性はCronbach'alpha係数を箕出、測定者間信頼性と測定者内信頼性は級内相関係数(ICC)、再テスト信頼性と併存妥当性は相関係数、構成概念妥当性はWilcoxon符号付順位検定およびt検定を用いた。

2)第 2研究看護師の特性が痛み評価に与える影態の検証
(1)調査①:看護経験および学歴による痛み評価への影響
対象者は X病院重症心身障害者病棟に勤務する看護師 28名で、調査期間は 2019年 7月から 9月であった。調査方法は、経験年数が様々な看護師 28名が、重症心身障害児 1名の痛み場面(気管力ニューレホルダーの交換)の録画を個別に見て、 PPP日本語版を用いて評価した。経験年数と PPPスコアの関係は Spearmanの順位相関係数を箕出した後、経験年数を中央値で 2群に分け、Mann・Whitney U検定を用いて有意差を求めた。
(2)調査②:看護経験および学歴による痛み評価への影響
対象は A県内 3施設の看護師 30名で、調査期間は 2019年 7月から 9月であった。3施設に入院中の重症心身障害児 30名の担当看護師とそうでない看護師 1名ずつが、安静場面と痛み場面の録画(第 1研究で撮影したもの)を見て、 PPP日本語版を用いて評価した。担当看護師とそうでない看護師の2群間における PPPスコアの差を、 Mann-WhitneyU検定を用いて箕出した。

3)第 3研究 PaediatricPain Profile日本語版の有用性の検証:看護師の事後評価から
対象は A県内 3施設の看護師 31名で、調査期間は 2020年 8月から 9月であった。調査方法は、看護師 31名に PPP日本語版を用いた痛み評価を継続的に実践してもらった後、尺度項目の明瞭さと、尺度の実用性に関する質問紙調査を実施した。また、尺度使用前後での痛みの捉え方の変化に関する質問紙調査も実施した。PPP日本語版の観察項目の明瞭さは、まず中央値を求めた後、経験年数との関係は Spearmanの順位相関係数を算出した。尺度の実用性として、経験年数および痛みの捉え方との関係性は Spearmanの順位相関係数を求めた。PPP日本語版の使用前後で、看護師の痛みの捉え方に変化が生じたかをWilcoxon符号付順位検定を用いて検証した。

4)第 4研究重症心身障害児の特性が痛み評価に与える影響の検証
第1~第3研究で得られたデータを使用した。疾患や重症児スコア、内服薬や医療的ケアの種類とPPPスコア(高・低)との関係はカイニ乗検定を用いて検証した。重症心身障害児の痛みの要因や痛みの頻度に影響する要因はロジスティック回帰分析を行い、痛みの原因ごとの PPPスコアの差はKruskal・Wallis検定を用いて検証した。分析には、統計解析ソフト IBMSPSS Statistics 25および 27を使用し、有意水準は 5%未満とした。

本研究は、三重大学医学部附属病院医学系研究倫理審査員会の承認(U2019-003)取得後、 A県内 3施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した。

5. 結 果
1)第1研究
PPP日本語版の内的一貫性は高く(安静時: a=0.735, 痛み時: a =0.928)、再テスト信頼性も良好であった (r=0.846)。測定者内信頼性は高く (r=0.748)、測定者間信頼性は中等度であった(r=0.529)。類似尺度である FLACCスケールとの併存妥当性 (r=0.629)、安静時から痛み場面における PPPscoreの上昇を確認した構成概念妥当性も認められた (p<0.001)。

2)第2研究
子どものことをよく知る看護師は、そうでない看護師よりも痛みを高く評価した (p<0.01)。看護経験年数とPPPscoreとの相関関係は認められなかった。

3)第3研究
重症心身障害児看護経験年数が長いほど個々の子どもの痛みのサインを理解しており (r=0.530)、「落ち込んでいる」といった心理社会面を評価する尺度項目の明瞭さを経験年数の短い看護師よりも高く評価していた (r=0.490)。尺度の継続的な使用意思と看護経験年数との相関関係は認められなかった。しかし、尺度を継続的に使用したいと感じていた看護師ほど、重症心身障害児の痛み行動反応を捉えることができておらず(r=-0.583)、痛みの原因についても回答個数が少なかった(r=-0.535)。

4)第4研究
本研究対象者の重症心身障害児の痛みの特性は、年齢が低い子どもは医療依存度の高い超重症児が多く (p<0.001)、年齢が高くなると側彎が主な痛みの原因となった (p<0.001)。年齢が低い子どもの方がPPPscoreが高く (p<0.01)、医療依存度が高い子どもほど痛みの頻度は多かった (p<0.01)。

6. 考 察
PPP日本語版 (Okitaet al., 2020)は、重症心身障害児の痛みの評価ツールとして信頼性と妥当性が得られた。特に、同じ視察者による継続的な評価の妥当性が高かったため、可能な限り同じ視察者が経時的に記録することが重要である。また、その子どもの担当看護師はそうでない看護師よりもPPPスコアを高くつけた。病棟など勤務者が交替する場で使用するには、看護師は痛みの評価を個々の患者に一致させることに熟練する必要があると言われている (Barneyet al., 2018)。したがって、担当看護師の痛み評価を基準として、すべての観察者が個々の患者の痛み行動反応を理解して評価を一致させるためのトレーニングが必要となる。

重症心身障害児には、痛み行動反応が非常に乏しい子どももいる。障害が重度な子どもほど痛み行動反応が現れにくく、スコアが高くないから痛みを感じていないと誤解される可能性がある。痛み場面において、その子どものPPPscoreが、 安静時よりも上昇したのであれば、その子どもは痛みを感じていると判断して対応しなければならない。彼らには、行動指標だけでは適切な判断は難しく、心拍数や血圧、皮膚の紅潮や発汗などの生理学的指標と併せて観察することを推奨する。

7. 結論
PPP日本語版の信頼性と妥当性が実証された。特に、在宅療養児の保護者など同口視察者による継続的な痛みの評価が有効であるが、入院やレスパイトなど他の観察者と痛み評価を共有する必要がある場合は、いつも子どもを看ている観察者のスコアを基準にすることが軍要である。また、重症心身障害児の痛みは個人差が大きいため、成長に伴う障害の変化や必要な医療的ケアの種類など痛みの原因を考慮して関わる必要がある。

今後、より正確に痛みを評価し管理するためのプロファイルの作成や、痛み評価のトレーニング法の開発が求められる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る