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大学・研究所にある論文を検索できる 「統合失調症および精神病におけるバイオマーカーの探索:キャピラリー電気泳動法と液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析法を用いた症例対照研究、および類似研究のシステマティックレビュー」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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統合失調症および精神病におけるバイオマーカーの探索:キャピラリー電気泳動法と液体クロマトグラフィー飛行時間型質量分析法を用いた症例対照研究、および類似研究のシステマティックレビュー

金, 世賢 神戸大学

2022.03.25

概要

[概要]
統合失調症は、一般人口の約 1%が罹患する、慢性的で身体障害を伴う精神疾患である。これまでの研究では、ドーパミン神経系やグルタミン神経系の神経細胞の機能障害、解糖や酸化ストレス応答などの代謝異常、免疫系の亢進などが統合失調症の病態に関与している可能性が示唆されている。統合失調症の病理学的研究において、磁気共鳴スペクトロスコピー、PET、磁気共鳴画像などの神経化学イメージングツールや、唾液コルチゾールや血液ベースのバイオマーカー(炎症、酸化ストレス、免疫分析物)などが研究されてきたが、近年、代謝系バイオマーカーが注目されている。体液(血液、尿、脳脊髄液)、死後脳、磁気共鳴スペクトロスコピーを用いた代謝物の解析を通して、統合失調症やその他の精神疾患のバイオマーカーを同定しようとする研究が近年急速に増えている。

今回我々は、統合失調症患者と健常対照者の、血清中の脂肪酸、アミノ酸、その他の有機酸を含む 378 種類の代謝物を、2つの分析装置(CE-TOFMS と LC-TOFMS)を組み合わせて分析した。これらのデータを多変量解析にかけ、統合失調症患者と健常対照者の間で有意差のある代謝物を特定し、患者の疾患特性を評価できるバイオマーカーの構築を試みた。また、同じ統合失調症患者の急性期と寛解期の状態を比較し、その違いに対応するバイオマーカーの同定も試みた。

バイオマーカーの研究では単変量解析が一般的であり、多変量解析を用いた研究報告はあまり多くない。メタボロームは多数の要因が交錯した結果であり、多変量解析では、得られた結果について多因子を同時に解析することで、単変量解析よりも包括的な視点を持つことが可能になる。

これに加えて我々は、過去 20 年間に行われた、統合失調症または精神病性障害の患 者における代謝物の違いを調べた研究について、システマティックレビューを行った。

[対象および方法]
(対象)
対象は全て日本人として。被験者として慢性統合失調症患者(SCZc)20 名と,健常対照者(CTL)20 名、さらに、急性精神病のために入院した患者 20 名から、入院時(SCZa-Acute)と退院直前(SCZa-Remission)にそれぞれ 1 回ずつ血液を採取した。

(代謝物の測定)
メタボロームの測定は、Human Metabolome Technologies Inc.のサービスを利用した。血清中の脂肪酸、アミノ酸、その他の有機酸を含む 378 種類の代謝物を、CE-飛行時間型質量分析装置(TOFMS)と LC-TOFMS を組み合わせて分析した。

(統計)
収集したデータを SIMCA software v.16.0.2 (Sartorius Stedim Data Analytics AB, Sweden)にインポートし、多変量解析を行った。まず、主成分分析(PCA)を行い、4つの対象グループ(CTL、SCZa-Acute、SCZa-Remission、SCZc)間で、すべての代謝物がどのように異なるかを調べた。

次に,直交部分最小二乗法による判別分析(OPLS-DA)を行い,CTL と SCZc の 2つのグループで、どの代謝産物がこれらの 2 グループを強く区別するのに役立つかを確認した。この結果の妥当性について、Mann-Whitney U-test を用いて、全ての代謝物で有意差を確認した。

最後に OPLS 回帰モデル(OPLS-EP)を用いて、SCZa-Acute と SCZa-Remission のペアサンプルの代謝物を比較し、同じ患者の急性期と寛解期を区別するのにどの代謝物が最も貢献しているかを検証した。この結果の妥当性について、Wilcoxon signed rank test を用いて、全ての代謝物で有意差を確認した。

(システマティックレビュー)
過去の類似文献について、PubMed と Web of Science の 2 つのデータベースで検索した。ヒットして 12,805 の論文から、重複を削除して 9,653 が残り、これらを 2 人の独立した査読者(S Kim と Y Shinko)が審査した。スクリーニングの結果、32 件の論文をレビューの対象とした。

[結果]
PCA の結果、CTL 群と SCZc 群は明確に分離しており、SCZa-Acute 群と SCZa- Remission 群はこの 2 つの群の間に分布していた。OPLS-DA の結果、SCZc と CTL の 2 群が明確に分離され、6 つの代謝産物(アラニン、グルタミン酸、乳酸、オルニチン、セリン、尿素)がクラス分離に大きく関与していた。これらについて Mann-Whitney U 検定を行ったところ、すべての代謝産物に有意な差が認められた(p < 0.000132)。 SCZa-Acute と SCZa-Remission の 2 群での OPLS モデルでは、2 群が適度に分離さ れ、5 つの代謝産物(奇数鎖脂肪酸 3 種(脂肪酸(15:0)、(17:0)、(19:1))、一価不飽和 脂肪酸 1 種(cis-11-eicosenoic acid)、サイロキシン)がクラス分けに最も関与してい ると考えられた。これら 5 つの代謝物のレベルは、Wilcoxon signed rank test(p< 0.05)によると、SCZa-Acute の方がSCZa-Remission よりも有意に高かった。

この我々のデータに加えて、過去の文献 32 報告をレビューし、4 つ以上の報告において有意性が報告された代謝物をまとめた。グルタミン酸、クエン酸を初めとするいくつかの代謝物では、複数の文献で統一した結果が得られた。

[考察]
我々の研究では、CTL 群と SCZc 群の間で、数種類のアミノ酸、乳酸、尿素の濃度に有意な差が認められた。さらに、急性期と寛解期の同一患者( SCZa-Acute 群と SCZa-Remission 群)では、数種類の脂肪酸とサイロキシンに有意な差が見られた。これらの物質は抗精神病薬の服用量とは相関しなかったことから、第 1 セットで同定された代謝物は統合失調症のバイオマーカーであり、第 2 セットで同定された代謝物は急性精神病の状態マーカーである可能性があると考えた。

2018 年の大規模なシステマティックレビュー(Davison ら、2018 年)に続き、こ の分野ではいくつかの研究が行われている。グルタミン酸や乳酸など、いくつか報告 されている代謝物は今回の我々の結果と一致していたが、これまでに報告されている 他の代謝物(一部の脂肪酸、クエン酸、キヌレニンなど)には、我々の研究では有意 な差は認められなかった。同一の患者から採取した異なるサンプル間(血清と尿など)では、矛盾した結果が報告されている研究もあり、これは異なる臓器で代謝/分泌速度 が異なることが原因である可能性を示唆している。したがって、精神病性障害におけ る中枢と末梢の変化をマッピングするために Quinones and Kaddurah-Daouk(2009) の脳脊髄液と血液を含めたレビューのような、より多くの比較研究が必要である。

この分野における最大の課題の一つは、抗精神病薬の服用、食事、活動、入院などの影響によるバイアスを排除することの難しさである。重度の症状を持つ患者は、迅速かつ適切な治療を必要とするため、抗精神病薬を使用しない患者のデータを得ることは倫理的に困難である。

もう一つの大きな課題は、統合失調症は単一の疾患ではなく、多様な遺伝的・生物学的変数の影響を受ける症候群である可能性があることである。統合失調症における メタボロームの結果が一致しないのは、これらの多様な病態に起因する可能性がある。しかし精神病性障害、薬物療法、精神病の急性期や寛解期における代謝物の動態をよ り正確に特定することができれば、まだ完全には解明されていない統合失調症の病態 も明らかになるかもしれない。

この研究の限界の一つは、サンプルサイズが各グループ 20 人と小さいことである。また、患者群が入院していることによるバイアスを除外できていない。本研究の対象となった患者はすべて重症であり、入院して治療を受ける必要があったため、このバイアスを除外することは不可能であった。ただし、抗精神病薬の影響については、ロジスティック回帰解析やスピアマン解析を用いて、可能な限り除外した。

今回の我々の研究とシステマティックレビューは、近年急速に拡大しているメタボローム研究において、重要な役割を担い、今後の研究の大きな足掛かりの一つになると考えている。

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