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Roles of transcription factor AP-2β in sleep regulation in mice

中井, 彩加 筑波大学

2023.09.04

概要

〔博士論文概要〕

Roles of transcription factor AP-2β in sleep regulation in mice
(マウスの睡眠制御における転写因子 AP-2β の機能の解析)

令和 4 年度

中 井 彩 加
筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群
ニューロサイエンス学位プログラム

背景
睡眠は動物において広く観察される生理状態である。哺乳類だけでなく、鳥や爬虫類、魚
類、無脊椎動物も睡眠をとる。しかし、これらの睡眠制御に関わる分子メカニズムや、無脊
椎動物から脊椎動物まで、睡眠制御に関し進化的に何が保存されてきたのかは、多くの部分
が明らかになっていない。
ヒトは、覚醒時間が長くなるほど睡眠圧が高まり、眠気を強く感じる。睡眠をとることで
睡眠圧は解消される。しかし、主観的な眠気を生み出す睡眠圧の分子実体が何かは、いまだ
明らかでない。生まれつきショートスリーパーのヒトは短い睡眠時間の日々を過ごしても
日中の眠気を示さない。もしこの特徴が遺伝的な要因に起因しているならば、原因遺伝子を
理解することは睡眠覚醒サイクルやその恒常性維持の分子メカニズム、私たちが主観的に
感じる眠気の実体を理解する手掛かりになると考えられる。先天性の短眠に関わる遺伝子
は長年調べられてきており、ヒトのショートスリーパー家系から見つかったいくつかの遺
伝子に関しても、マウスを用いて睡眠覚醒サイクルの制御に果たす機能が解析されてきた。
しかし、これらのショートスリーパーから見つかった遺伝子変異を持つマウスが劇的な短
眠を示すことはなく、睡眠覚醒サイクルの制御に重要な遺伝子がいまだ発見されていない
可能性が残っている。
哺乳類や鳥類は脳波と筋電位の活動にもとづき、覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の 3 つの
状態を判別することができる。一方、無脊椎動物のうち線虫(Caenorhabditis elegans)は、異
なる 2 つの睡眠を示す。1 つは脱皮の前の 2-3 時間に出現する発達段階特異的睡眠
(lethargus)である。もう一方は、熱や紫外線のようなストレスを受けたのちに見られるスト
レス誘導性の睡眠である。線虫を用いた最近の研究から、睡眠制御の分子メカニズムの少な
くとも一部が無脊椎動物から脊椎動物まで保存されていることが明らかになった。つまり、
無脊椎動物もまた動物界全体において睡眠制御に重要な分子を発見する手掛かりになるこ
とが期待される。
本研究において私は、転写因子 AP-2B(TFAP2B)に着目した。ヒトにおいて TFAP2B の
変異は Char 症候群をもたらす。このうち、TFAP2B 遺伝子に異なる点変異をもつ Char 症
候群の 2 つの患者家系で睡眠異常が報告されている。一方の家系(144 変異家系)では睡眠時
随伴症(夢遊病)があり、もう一方の家系(145 変異家系)はショートスリーパーであること
が自己申告されている。これらの家系はスプライシングに重要な遺伝子配列にヘテロ接合
に変異を有しており、144 変異家系はエキソン 3 の直後のスプライシングドナーに、145 変
異家系はエキソン 5 の直前のスプライシングアクセプターに変異を有している。
加えて、線虫を用いた研究から aptf-1 遺伝子(TFAP2B の相同遺伝子)は睡眠制御に重
要であることが明らかになっている。aptf-1 遺伝子の変異体は、発達段階特異的睡眠とスト
レス誘導性の睡眠のどちらも大幅に減少する。しかし、線虫の睡眠は哺乳類の睡眠覚醒ステ
ージの判定のように脳波にもとづいた解析が行われないため、夢遊病のような状態との判
別が難しい。

TFAP2B は AP2 転写調節ファミリーに属し、
多くはパリンドローム配列の 5‘-GCCN3GGC3’に結合し、細胞発達や分化に関わる遺伝子のプロモーター領域に結合する。加えてこの
パリンドローム配列はドーパミンの生成に重要なチロシン水酸化酵素やドーパミンβ水酸
化酵素のシスエレメントにも存在し、これらの遺伝子の転写にも関わっていると考えられ
る。
ヒトおよびマウスの Tfap2b は、6 番染色体(ヒト)および 1 番染色体(マウス)に存在
し、7 つのエキソンから構成されている。Tfap2b は、胚発生から初期発生を通じて、神経堤
細胞で発現し、その後、脳の一部で発現する。 マウスでは Tfap2b の欠損は腎不全を引き起
こし、仔マウスは出生後すぐに死亡する。また、Tfap2b は、四肢の形成、一部の神経細胞の
分化、肥満、緑内障にも関与している。

目的
これまでの研究から睡眠の分子メカニズムは無脊椎動物から哺乳類まで保存されている
と考えられ、TFAP2B は哺乳類の睡眠制御に関わっていると期待される。しかし、TFAP2B
が哺乳類の睡眠制御に関わることの直接的な証拠はなかった。そこで私は本研究でマウス
を用いて Tfap2b に変異を挿入した影響に関して解析した。

手法
本研究では CRISPR/Cas9 システムを利用し作製したヒトの Char 症候群家系(K144 家系、
K145 家系)と同様な一塩基変異を持つマウス(Tfap2bK144 と Tfap2bK145)と、ノックアウ
トマウスプロジェクト(KOMP)にて作成された Tfap2btm1a(EUCOMM)Wtsi/+マウスを様々なマウ
スと交配し、全身性ノックアウト(Tfap2b+/-)、神経系特異的ノックアウト(Nestin-Cre;

Tfap2bflox/flox)を睡眠覚醒サイクルの解析に用いた。
Tfap2bK144 マウス、Tfap2bK145 マウスと Tfap2b+/-はメッセンジャーRNA(mRNA)とタン
パク質発現量の解析のため、胎生期 18.5 日において脳を採集し、半定量的 RT-PCR とサ
ンガーシーケシング、ウェスタンブロッティングを行った。
睡眠覚醒サイクルの解析には 8-13 週齢のマウスを用いた。8-10 週齢のマウスに脳波と
筋電位を測定するための電極を取り付けるための手術を行い、少なくとも 4 日以上元のケ
ージで休ませたのちに睡眠覚醒サイクルの測定用のチャンバーにうつし、5 日以上の馴化の
後に測定した。脳波と筋電位の測定と共にビデオと赤外線センサーによる測定も行った。
脳波と筋電位のデータは 4 秒を 1 エポックとして人為的に覚醒、ノンレム睡眠、レム睡
眠の 3 つの段階に分類した。脳波データは周波数解析も行った。

Tfap2b+/-マウスは Tfap2b 遺伝子の 2 番目のエキソンのすぐ下流に LacZ 配列を有するた
め、TFAP2B の発現は X-gal 染色の結果が模倣していると考えられる。そこで Tfap2b+/-マ
ウスを灌流固定して脳を採集し、切片を作成して X-gal 染色を行った。神経系特異的ノック
アウトマウスはどの部位で遺伝子組換えが起きているか正確には不明であるため、レポー

ターマウスと交配し、誕生したマウス(Nestin-Cre; Rosa26 LSL-L10-GFP/+)を灌流固定して脳内
の蛍光タンパク質(GFP)の発現部位を解析した。

結果・考察
Tfap2bK144 マウスと Tfap2bK145 マウスを CRISPR/Cas9 システムを用いて作成し、点変
異 を サ ン ガー シ ー ケシン グ に よ り確 認 し た。こ れ ら の マウ スの mRNA を 反 映す る
complementary DNA(cDNA)の発現量と 3 番目から 5 番目のエキソンの配列を確認した
ところ、Tfap2bK144/K144 マウスは Tfap2b のcDNA の発現量の変動や配列の異常が確認さ
れなかったが、
Tfap2bK145/K145 マウスはcDNA の発現量が低く、2 つの異なる長さのcDNA
が形成されており、5 番目のエキソンの最初の 2 つの塩基が欠損しているcDNA と、5 番
目のエキソン自体が欠損しているcDNA が確認された。これらはどちらもフレームシフト
を引き起こすと予想される。続いて TFAP2B タンパク質の発現量を解析するため、ウェス
タンブロッティングを行ったところ、Tfap2b+/-マウスは野生型に対して TFAP2B タンパク
質の発現量が約 1/2 に、Tfap2b-/-マウスはより減少していた。これに対して Tfap2bK144/+ マ
ウスと Tfap2bK144/K144 マウスは TFAP2B タンパク質の発現量に変動が見られなく、

Tfap2bK145/+ マウスも顕著な影響は検出されなかったが、Tfap2bK145/K145 マウスは Tfap2b/-

マウスと同様なレベルまで TFAP2B タンパク質の発現量が減少していた。

Tfap2b-/- マ ウ ス は 誕生 後 す ぐ に 死 ん で しまう た め 、 睡 眠 覚 醒 サイク ル の 解 析 に は
Tfap2b+/-マウスを用いた。オスの野生型と Tfap2b+/-マウスは睡眠覚醒時間に有意な差は認
められなかったが、メスの野生型と Tfap2b+/-マウスを比較したところ覚醒時間が増加し、
ノンレム睡眠時間が減少した。それぞれのエピソードの持続時間と回数を解析したところ、
メスは暗期の覚醒の持続時間が増加していたことが覚醒時間の増加につながったと考えら
れる。

Tfap2bK145/K145 マウスは TFAP2B タンパク質の発現量がかなり減少していたことから、
Tfap2bK145/+ マ ウスの睡眠覚醒サイクルを解析した。すると、オスもメスも野生型 と
Tfap2bK145/+マウスは睡眠覚醒時間に有意な差は認められなかったが、メスの Tfap2bK145/+
マウスは覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠ともにエピソード数が増加し、ノンレム睡眠のエピ
ソードの持続時間が減少していた。つまり、メスの Tfap2bK145/+マウスは、特にノンレム睡
眠において睡眠の断片化が見られた。
続いて、Tfap2bK144/+マウスの睡眠覚醒サイクルを解析したところ、オスは暗期のノンレ
ム睡眠時間が野生型と比較して減少していた。加えて、暗期のノンレム睡眠のエピソード数
が有意に減少し、覚醒の持続時間が有意に増加していた。
ここまでの結果から Tfap2b 遺伝子の変異はマウスの睡眠覚醒サイクルに様々な影響を
与えることが明らかになったため、続いて神経系特異的にホモ接合に Tfap2b 遺伝子をノッ
クアウトしたマウス(Nestin-Cre; Tfap2bflox/flox)を作製した。このマウスは Tfap2b-/-マウス
とは異なり成体まで生存し、オスの睡眠覚醒サイクルを測定したところ野生型と比較して

大幅にノンレム睡眠量が減少していた。覚醒のエピソードの持続時間が増加し、逆に覚醒と
ノンレム睡眠のエピソード数が減少していた。ただしこのマウスの活動リズムを観察する
と明期の開始に活動が開始していなかった。先行研究から緑内障を発症すると考えられ、サ
ーカディアンリズムの光によるエントレインメントに関係する光受容細胞に異常をきたし
ていると考えられる。
最後に脳内での TFAP2B の発現部位に関して検討を行った。Tfap2b+/-マウスは Tfap2b 遺
伝子の 2 番目のエキソンのすぐ下流に LacZ 配列を有するため、TFAP2B タンパク質の発現は
X-gal 染色の結果が模倣していると考えられる。X-gal 染色の結果、室傍核、上丘、結合腕
傍核、青斑核、小脳、孤束核において発現が観察された。Nestin-Cre によりどの部位で遺
伝子組換えが引き起こされたかに関しては、Rosa26

LSL-L10-GFP/+

マウスと交配し、GFP 発現を

観察することで確認した。その結果、Nestin-Cre は X-gal 発現の確認された部位のうち室
傍核と青斑核では GFP 発現が非常に少なかったが、他の X-gal 発現の確認された部位では
GFP が発現して組換えが引き起こされたことを確認した。
ここまでの結果から遺伝子変異,mRNA の配列と発現量、タンパク質の分子量と発現量、睡
眠への影響の結果を整理すると、ヒト Tfap2bK145 アリルはエキソン 5 の直前のスプライシン
グ関係部位に一塩基変異があるため、エキソン 5 がスキップされると予想される。マウスm
RNA ではエキソン 5 の最初の 2 塩基が欠損している mRNA 産物とエキソン 5 が欠損している
2 つの産物が形成されていた。これら 2 つの mRNA 産物はフレームシフトをおこし、ストッ
プコドンが形成されるため、予想されるタンパク質の大きさはそれぞれ野生型の TFAP2B タ
ンパク質より小さい 36kDa の産物と 31kDa の産物である。これらの産物は機能を持つ可能
性がある。しかし、ウェスタンブロットによる検出ではこれらの大きさの産物が確認されな
かったため、ごく少量のタンパク質が形成されているか、ナンセンスコドン介在的 mRNA 分
解によりmRNA が分解されタンパク質が形成されていない可能性が高い。メスの Tfap2bK145/+
マウスはノンレム睡眠の断片化がみられることから、Tfap2bK145/+は Tfap2b+/-とは異なるノ
ンレム睡眠における TFAP2B の機能に影響を与えている可能性が高い。
ヒト Tfap2bK144 アリルはエキソン 3 の直後のスプライシング関係部位に一塩基変異がある
ためエキソン 3 がスキップされると予想されるが、
マウス mRNA の配列には変化がなかった。
タンパク質の大きさ、配列にも変化が見られなかったことから、変異が TFAP2B タンパク質
の構造や全体の発現量に影響を与えている可能性は低い。Tfap2b の発現部位に影響するこ
とで睡眠に影響している可能性が考えられる。
マウス Tfap2b-アリルはエキソン 3 が欠損しその下流に poly A 転写終了配列が挿入され
ていることにより転写がエキソン 2 までで終了していると考えられる。エキソン 2 までで
形成されるタンパク質の大きさは 20 kDa であるがウェスタンブロットによる検出ではバン
ドは確認できないため、ナンセンスコドン介在的 mRNA 分解により異常 mRNA が分解され

Tfap2b- アリルからはタンパク質がほとんど形成されていない可能性が高い。メスの
Tfap2b+/-マウスと Nestin-Cre; Tfap2bflox/flox マウスはノンレム睡眠時間の減少をもたらす

ことから、TFAP2B は神経系においてノンレム睡眠時間の規定に関わると考えられる。

結論
マウスにおいて Tfap2b はノンレム睡眠の制御に関わっている。 ...

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