ラコスト型相対重力計を用いた小田原~富士山間におけるキャンペーン相対重力測定(2022年9月)
概要
可搬型相対重力計はキャンペーン重力測定に使用されており、この測定データを用いることで重力加速度(重力)の時空間分布や地下の質量変動を把握することができる。可搬型相対重力計にはバネが内蔵されており、現場での読取値xとメーカー提供の変換関数f(x)を用いることで重力値gR=f(x)を算出することができる。しかし、メーカー提供の変換関数f(x)が真の変換関数と乖離していると、得られた重力値gR=f(x)は系統誤差を有し、複数の重力計間で重力値が異なる(器差が生じる)という事態が起こりうる。
このような事態を避けるために、各相対重力計に対して変換関数の検定観測がしばしば行われてきた(e.g., Nakagawa et al., 1983)。具体的には、絶対重力値が既知の2点間を相対重力測定で結び、2種類の重力差(絶対重力差∆gAおよび相対重力差∆gR)の比を取ることで、変換関数f(x)の補正係数(スケールファクター)Sを算出できる。
S=∆gA∆gR(1)
このとき、相対重力計の真の変換関数F(x)は以下のように表現でき、この変換関数を用いて真の相対重力値g′Rを得ることができる。
g′R=F(x)=S·f(x)(2)
ただし、スケールファクターSを精度よく決定するためには数100mGal以上の重力差が必要である。また、近年ではスケールファクターが読取値ごとに異なる値を有することも分かってきており(Onizawa,2019;若林ほか,2022)、スケールファクターの読取値依存性を定量化するためにはさらに広い読取値帯域における検定観測が必須となる。しかしながら、大きな読取値の差を稼ぐためには(例えば日本列島の南北重力差を活用するなど)一般に長距離測線での検定観測が必要であるが、時間的および経済的観点からこのような検定観測を頻繁に実施するのは難しい。
そこで、東京大学地震研究所特定共同研究2022-B-04では、富士山の標高差を活用して重力差約295mGalの検定測線が定義された(今西ほか,2022)。この重力差は京都大学~阿蘇・桜島間の重力差とほぼ同じであるが(若林ほか,2022)、富士山では同程度の重力差を1日で往復測定することができ、時間や旅費を大幅に節約できる。しかも、富士山周辺では小田原~箱根大涌谷~芦ノ湖間で半年おきに相対重力測定が実施されており(風間ほか,2019)、この測定の起点である神奈川県温泉地学研究所と富士山五合目を結べば約500mGalもの重力差を1日で稼ぐことができる。
以上の観点から、我々はラコスト型相対重力計のスケールファクターを検定するために、2022年9月に小田原~富士山麓~富士山五合目の間でキャンペーン相対重力測定を実施した。本稿ではこの重力測定の概要や測定結果を述べ、該当重力計に対して算出されたスケールファクター値を示す。