日本縦断測線を用いたラコスト型相対重力計G31のスケールファクター検定(2023年6月~7月)
概要
ラコスト型重力計はキャンペーン重力測定に使用されている可搬型の相対重力計であり、この測定デー
タを用いることで重力加速度(重力)の時空間分布や地下の質量変動を把握することができる。ラコス
ト型重力計にはバネが内蔵されており、現場での読取値 x とメーカー提供の変換関数 f (x) を用いること
で重力値 gR = f (x) を算出することができる。しかし、メーカー提供の変換関数 f (x) が真の変換関数と
乖離していると、得られた重力値 gR = f (x) は系統誤差を有し、複数の重力計間で重力値が異なる(器
差が生じる)という事態が起こりうる。
このような事態を避けるために、各重力計に対して変換関数の検定観測がしばしば行われてきた (e.g.,
Nakagawa et al., 1983)。具体的には、絶対重力値が既知の 2 点間を相対重力測定で結び、2 種類の重力
差(絶対重力差 ∆gA および相対重力差 ∆gR )の比を取ることで、変換関数 f (x) の補正係数(スケール
ファクター)S を算出できる。
∆gA
(1)
S=
∆gR
このとき、重力計の真の変換関数 F (x) は以下のように表現でき、この変換関数を用いて真の相対重力
′ を得ることができる。
値 gR
′
gR
= F (x) = S · f (x)
(2)
ただし、スケールファクター S を精度良く決定するためには、重力差の大きな測線を設ける必要がある。
日本においては南北に長い測線を取ることで 1000 mGal 以上の重力差を稼ぐことができるが、その反
面移動距離が長くなるために時間的および経済的な負担が大きくなってしまう(※ 1 mGal = 1 × 10−5
m/s2 )。
本稿で取り上げるラコスト型重力計 G31 は北海道大学が所有する相対重力計であり、1970 年代から
50 年近くに渡って桜島火山をはじめとした複数の地震火山地域でキャンペーン重力測定に使用されてき
た (e.g., 田島ほか, 1977)。しかし、上述の時間的・経済的理由により、G31 重力計に対する広帯域のス
ケールファクター検定はこれまで十分に実施されてこなかった。G31 重力計のスケールファクターを検
定できれば、過去の重力測定データから重力時空間変動を正確に把握することができ、地震火山地域に
おける質量変動を詳細に解明できると期待される。
そこで本研究は、北海道弟子屈町から沖縄県石垣市に渡る日本縦断測線を用いて、2023 年 6–7 月に
G31 重力計による相対重力の往復測定を実施した。その上で、得られた相対重力差を既知の絶対重力差
と比較することで、G31 重力計のスケールファクターを決定した。本稿では、日本縦断測線における各重
力点の概要を述べ、重力測定の生データやその解析結果、およびスケールファクターの計算結果を示す。 ...