リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「風速の予見情報を用いる浮体式洋上風力発電のピッチ角制御」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

風速の予見情報を用いる浮体式洋上風力発電のピッチ角制御

津屋 朋花 大阪府立大学 DOI:info:doi/10.24729/00017762

2022.07.21

概要

温室効果ガスの排出を原因とする地球温暖化に代表される気候変動や,2011 年に発生した東日本大震災などの自然災害により,環境・エネルギー問題への人々の関心が高まっている.また,カーボンニュートラルな社会の実現は,持続可能な世界の構築に必要であり,EU や日本を含む多くの地域や国は,「2050 年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする」という目標の達成を目指している.日本において,石炭などの一次エネルギーを電力などの二次エネルギーに転換する際のCO2 排出量は, CO2 排出量全体の約 4 割を占める.したがって,カーボンニュートラルな社会の実現のためには,発電量に占める化石燃料の割合を下げ,再生可能エネルギーの割合を高める必要がある.再生可能エネルギーに基づく発電には,太陽光発電,風力発電,地熱発電をはじめとして様々な種類がある.

優れたエネルギー源である風力を利用する風力発電は,特にアジア太平洋・ヨーロッパ・北米地域を中心に,普及が進んでいる.風力発電には,陸上で発電を行う陸上風力発電と,洋上で発電を行う洋上風力発電がある.洋上風力発電には,海底に基礎を築く「着床式」と浮体上に風車を設置する「浮体式」がある.着床式は,水深が 50 m未満の洋上に設置可能であるが,海底地盤の調査に時間がかかる.浮体式は,遠浅の海岸に恵まれない日本のような国や地域に適している.この方式は,「強く乱れの少ない風が利用できる」,「深い海にも設置可能である」,「風車を大型化できる」,「海底地盤の詳細な調査がいらない」などの利点がある.その一方,浮体上に風車を設置するという特性上,「風や波の影響で発電出力が変動する」,「浮体の動揺で風車の構成要素に負担がかかり,メンテナンスコストが高くなる」などの問題がある.また,風車の設計の際にも,風と波による最大荷重と疲労強度の算定や,アクセス・メンテナンスの低減,システム全体を経済的に創出することが必要となる.

風力発電システムでは,風速によって発電機出力が変化するため,風速に基づいた運転領域が定められている.風速が定格風速より小さい領域では,発電機出力を最大にすることが目的であり,発電機トルク制御が行われる.風速が定格風速以上カットアウト風速以下の領域では,出力を定格に保つことが目的であり,ブレードピッチ角制御が用いられる.ブレードピッチ角制御は,風車ブレードのピッチ角を変化させることでブレードに働く揚力・抗力を調節し,ロータの回転トルクや風が風車を押す力 (スラスト力) を調整する.ブレードピッチ角制御は,陸上風車に適用され,これまでに多くの制御器が設計された.しかし,陸上風車に対して設計された制御器は,浮体式風車に適用できない.なぜなら,ブレードピッチ角の変化により,スラスト力が変動し,それに伴い,浮体が動揺し,不安定化現象が引き起こされる可能性があるからである.そのため,浮体式風車のブレードピッチ角制御器は,浮体の動揺を考慮して設計しなければならない.先行研究では,浮体式風車の数理モデルに基づいて,ブレードピッチ角制御器が設計された.これらの研究では,基準とする制御器と比較して,発電機速度の変動,浮体の動揺が抑制できたと報告されている.

また,LIDAR (Light Detection and Ranging) に代表されるリモートセンシング技術の発達により,ブレードピッチ角制御に風車前方の風速の予見情報を用いることが検討され始めた.ロータ回転速度の変動,浮体の動揺を抑制するため,浮体式風車の数理モデルを用いて最適化問題を定め,この最適化問題を時々刻々と解いて制御を行う,「モデル予測制御」を用いた制御器が設計され,シミュレーションにより性能評価がされている.しかし,モデル予測制御には,制御周期ごとに最適化問題を解く必要があり,計算負荷が大きい,制御器が非線形であるため,解析が困難であるという問題点がある.そこで,本研究では,制御器の設計に H2 予見制御法,H∞ 予見制御法を用いる.これらの制御法は,設計時に H2 ノルムや H∞ ノルムという指標によって制御性能を評価できる,リアルタイムで最適化問題を解く必要がないという利点がある.これらの制御法を用いて,次の課題に取り組む.(課題 1) 風車の耐用年数の延長・ コスト低減のため,風車構成要素への荷重を抑制する.荷重の抑制により,耐用年数を延長できる可能性があり,従来の風車と同じ耐用年数でも,風車のコストを低減しうる.(課題 2) 風車の大型化に伴い,ウィンドシアの影響が大きくなると考えられる.

ウィンドシアとは,高度が上がるにつれて平均風速が増加する現象である.この現象の影響により,ブレードへの荷重は増加する可能性がある.そのため,ウィンドシアを考慮した制御器を設計する.(課題 3) 先行研究における制御器を既存の風車へ適用する場合,既に実装されている標準的な制御器などを完全に置き換えることになる.よって,長年の運用実績から動作の安全性がある程度担保されている制御器に比べると,その動作の安定性については懸念が残る.そこで,既存の制御器が設置された風車に付加するための「風速の予見情報を用いる補償器」を設計する.(課題 4) LIDARから得られる風速の予見情報の誤差を考慮する.なぜなら,その誤差を考慮せずに誤った予見情報をもとに制御を行う場合,適切なピッチ角に調整できず,制御性能の劣化や,最悪の場合,風車の故障を引き起こす可能性があるからである.

本論文は,上記の課題を解決するため,浮体式風車とスケール模型に対して,風速の予見情報を用いるブレードピッチ角制御器を設計し,適切な予見時間の選定と,制御性能の定量的な評価を行う.適切な予見時間の選定は,システムに必要なLIDARの仕様の決定に役立つ.制御性能を定量的に評価することは,メンテナンス頻度の決定,LIDAR 導入に対するコストと効果の検討を行うことにもつながる.本研究では,上記の課題に取り組むため,次のことを目的とする.(目的 1) 課題 1 に対して,ロータ回転速度の変動,浮体の動揺,風車ブレードへの荷重を考慮した予見制御器を設計する.(目的 2) 課題 2 に対して,ウィンドシアの予見情報を用いた制御器を設計する. (目的 3) 課題 3 に対して,浮体式風車の既存の制御システムに対して予見補償器を付加する.(目的 4) 課題 4 に対して,風速の予見情報の不確かさを考慮した予見制御器を設計する.目的 1 から目的 3 について,NREL 5MW フルスケール風車に対して H2予見制御を用いて制御器を設計し,高精度なシミュレータを用いたシミュレーションにより評価を行う.目的 4 について,スケール模型に対して H∞ 予見制御を用いて制御器を設計し,シミュレーションにより評価を行う.以下に各章の内容を示す.

第 1 章では,本論文の研究背景・目的・各章の概略を示した.

第2 章では,制御対象である浮体式風車とスケール模型の概略,使用するシミュレーションツールについて説明した.

第 3 章では,風車の構成要素への荷重を減らすことを目的とし,浮体式風車に対して,ブレードへの荷重を考慮したブレードピッチ角制御器を設計した(課題 1).まず, 3 枚のブレードを同期して制御する共通ブレードピッチ角制御器を設計し,シミュレーションによりその性能を評価した.次に,3 枚のブレードを独立して制御する個別ブレードピッチ角制御器を設計し,共通ブレードピッチ角制御器との性能比較を行った.その結果,共通ブレードピッチ角制御器は,風速の予見情報によりブレードへの荷重を軽減することができた.個別ブレードピッチ角制御器は,共通ブレードピッチ角制御器と比較して,浮体の動揺とブレードへの荷重を抑制した.また,予見情報により,ロータ回転速度の変動,浮体の動揺,ブレードへの荷重を抑制できた.

第 4 章では,LIDAR によって得られる,ウィンドシアの予見情報の利用を検討した(課題 2).浮体式風車に対して,風速とウィンドシアの予見情報を用いるブレードピッチ角制御器を設計した.設計した制御器と,風速の予見情報のみを用いる制御器 (第 3 章) との性能比較を,シミュレーションにより行った.その結果,ウィンドシアを考慮した場合の方が,風速のみの予見情報を用いた場合に比べ,ロータ回転速度の変動,浮体の動揺,ブレードへの荷重が抑制できた.

第 5 章では,すでに実装された制御器に予見情報を用いた補償器を付加することに ついて検討した(課題 3).既存の制御器が実装されている浮体式風車を制御対象とし,風速の予見情報を用いる補償器を付加した.予見補償器がある場合とない場合について,シミュレーションにより性能比較を行った.その結果,予見補償器を付加することで,発電機速度の変動,浮体の動揺,ブレードとタワーへの疲労荷重を抑制できた.

第 6 章では,LIDAR による風速測定の際に生じる,風速の予見情報の誤差を考慮し た(課題 4).スケール模型による実験を見据え,模型に対する風速の予見情報の不確かさを考慮したブレードピッチ角制御器を設計した.予見情報の不確かさを考慮した場合と考慮しない場合について,シミュレーションにより性能比較を行った.その結果,不確かさを考慮した制御器は,雑音に対するブレードピッチ角の変動を大きく抑制することができた.

第 7 章では,本論文の結果をまとめ,今後の課題について述べた.

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る