リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「アポリポ蛋白A2アイソフォームを用いた、膵癌高危険状態のスクリーニングについての前向き研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

アポリポ蛋白A2アイソフォームを用いた、膵癌高危険状態のスクリーニングについての前向き研究

Sato, Yu 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景と目的】
膵癌は世界中の悪性腫瘍関連死亡の主要な原因の一つである。早期発見で予後の改善が期待できるため、より効果的な発見法が望まれている。その一方、肺癌や大腸癌に比べて生涯罹患率が低く、高価で侵襲的な検査の前に膵癌高危険状態患者の効率的な絞込みが必要である。検診者の絞込みにおいて膵癌の家族歴は重要だが、膵癌の 90%は孤発性である。喫煙や飲酒、肥満、糖尿病歴などの膵癌の危険因子は問診や簡便な血液検査で評価可能であるが、癌検診の実現性を検討する際に、健康習慣のみからの対象者絞り込みでは癌検診に必要な条件を満たさない。そこで、高精度の画像検査と組み合わせる際に検診者を絞り込めるような、簡便なバイオマーカーが必要となる。特に膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)を含む膵嚢胞性疾患や慢性膵炎といった膵の器質的な異常は膵癌高危険状態である。IPMN の膵癌発症率は年率 1%であり、慢性膵炎の危険性は健常者の 6.9 倍とされている。これらの膵癌高危険状態を厳重に経過観察し予防的に介入することで膵癌の死亡率を減少させることができる可能性がある。その一方で、これらの患者を効率的に絞り込むバイオマーカーはまだない。

近年、プロテオミクスによってアポリポ蛋白 A2(ApoA2)のアイソフォームが膵癌の有力な血中バイオマーカー候補として同定された。アポリポ蛋白 A2 は 5 つのアイソフォームに分類されるが、その一つである ApoA2-ATQ/AT が早期膵癌患者および、慢性膵炎や IPMN などの膵癌高危険状態において低下していることが報告されている。本研究は、検診において血中 ApoA2-ATQ/AT を測定し膵癌および膵癌高危険状態に対する一次スクリーニングとしての有用性を検討した、初めての前向き研究である。また、ApoA2- ATQ/AT の一般集団における分布と、膵癌の他の危険因子との相関も評価した。さらに、診断済み検体による横断研究との組み合わせによる ROC 曲線解析により ApoA2-ATQ/ATの最適なカットオフ値を検討した。

【方法】
2015 年 10 月から 2017 年 1 月までに健診目的で国内 6 施設を受診し研究同意が得られた 20 歳以上を対象に、年齢・性別・身長などの健康診断情報と血漿サンプルを収集した。血漿サンプルは 8 時間以上の絶食の後に標準的な採血手技により採取した。採取された血液は速やかに冷蔵保存し、採取から 8 時間以内に遠心分離を行なって得られた血漿を解析まで-80℃で凍結保存した。血漿 ApoA2-ATQ/AT 濃度は ELISA キットを用いて測定し算出した。過去の検討から陽性率が 1%程度となるように血漿 ApoA2-ATQ/AT が 35 µg/ml 以下を陽性とした。結果は 3 週間以内に通知し、陽性者には大規模病院での造影 CT、MRCP、EUS のいずれかと専門医の診察による二次検査を推奨し、二次検査の結果を最終診断とした。主要評価項目は ApoA2 の膵癌高危険状態および膵癌に対する陽性適中率とした。

また、膵疾患の既往がなく腹部エコーでも異常のなかった参加者を健常群と仮定し、神戸大学病院で行われた前向き横断研究にて収集された膵疾患と診断済みの検体と組み合わせて ROC 曲線解析を行い、ApoA2 の膵高危険疾患および膵癌に対する至適カットオフ値とそのときの感度、特異度を評価した。

【結果】
6 施設からの全登録者数は 5120 人であり、年齢中央値は 52 歳で男性は 52.1%であった。全例で ApoA2-ATQ/AT は測定されほぼ正規分布に近い分布であった。血漿 ApoA2- ATQ/AT 陽性者数は 84 人(全体の 1.6%)であり、ApoA2-ATQ/AT は既知の膵癌の危険因子とは強い相関はなかった。陽性者集団はやや高齢で白血球数が多く、総コレステロール値と LDL コレステロール値が低かったが、オッズ比はそれぞれ 1.37, 1.32, 0.94, 1.05であり、顕著なものではなかった。その一方で腹部エコーでの膵の異常については陽性者集団では 13.3%で指摘されており、陰性者集団の 3.1%に比較し有意に高頻度であった。

陽性者 84 人のうち 54 人(64.3%)が二次検査を受けたが、二次検査の受検者と非受検者の背景因子に統計学的有意差はなかった。二次検査をうけた 54 人は造影 CT を受けた者が最も多く 39 例であり、次いで EUS が 10 例、MRCP が 5 例であった。最終的に 18人が膵癌および膵癌高危険状態と診断された。その内訳は、膵癌 Stage IV 1 人、IPMN9人、膵嚢胞 5 人、慢性膵炎 3 人であった。他に膵神経内分泌腫瘍や自己免疫性膵炎、膵体尾部欠損症、限局性脂肪浸潤、早期慢性膵炎などの疾患も指摘されたが、28 例は正常であった。膵癌および膵癌高危険状態についての ApoA2-ATQ/AT の陽性的中率は 33.3%であった。

次に ApoA2 のカットオフ値を検証するために膵癌 41 例や膵嚢胞性疾患 24 例、慢性膵炎 13 例などを含む 105 例の診断済みの膵疾患患者検体と、検診で膵疾患の既往を持たず腹部エコーで膵に異常のない 4161 例の健常集団とで ROC 曲線解析をおこなった。膵癌に対する ROC 曲線下面積は 0.903 (95% CI: 0.851–0.955)であった。今回の検診で用いた ApoA2-ATQ/AT の基準値 35μg/mL では感度 51.2%、特異度 98.8%であった。

【考察】
膵癌高危険状態である膵嚢胞性疾患は一般集団における有病率が数%とされているが、本検討で二次検査した 54 人中 14 人(26%)(IPMN9 人を含む)に膵嚢胞性疾患を認めた。一般集団における血漿 ApoA2-ATQ/AT による一次スクリーニングは二次検査の膵嚢胞性疾患に対する検査前確率を約 10 倍と大幅に向上させることが確認された。同様の傾向は慢性膵炎でも確認された。

ROC 曲線解析では ApoA2-ATQ/AT の適切なカットオフ値の検討を行った。膵癌検診においては感度が偽陽性率の 15 倍以上のバイオマーカー(例えば感度 30%、特異度 98%など)が望ましいとされており、ApoA2-ATQ/AT の基準値 35μg/ml もその基準は満たしている。仮に 5%の偽陽性を許容するのであれば 40.0ng/ml が適正となり、この場合、膵癌に対する感度 61.5%および特異度 96.5%となり、早期の膵癌に対する感度をより向上できる可能性がある。

血中 ApoA2-ATQ/AT の低値は膵外分泌能の異常を反映していると推測されている。膵腫瘍などによる限局的で微少な膵炎により活性化した膵酵素は ApoA2 アミノ酸配列のC末端を過剰切断し、また膵癌や膵嚢胞性疾患による膵実質の萎縮があれば、ApoA2 アミノ酸配列の C 末端の切断は抑制され、いずれの場合にも ApoA2-ATQ/AT は低下すると考えられる。

本研究には幾つかのリミテーションがある。基準値が暫定的なものであること、 ApoA2-ATQ/AT 陰性者における膵癌の有病率が評価不能なこと、2 次検査受診率が十分でないこと、膵癌の有無を確定するためのゴールドスタンダードとなる臨床診断法が存在しないこと、膵癌の検診としては受診年齢層が広すぎること、ROC 曲線解析の健常群が仮定的であることが挙げられる。

【結論】
血中 ApoA2-ATQ/AT 測定は膵癌および膵癌高危険状態の一次スクリーニングの有力な方法として期待される。本研究の結果を踏まえ、我々のグループは 2018 年から 50 歳以上の被験者を対象に、大規模な介入試験を実施している。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る