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大学・研究所にある論文を検索できる 「ACTH単独欠損症の病態の多様性の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ACTH単独欠損症の病態の多様性の解明

Fujita, Yasunori 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景と目的】
ACTH単独欠損症は、50代の男性に比較的多くみられ、続発性副腎不全による食思不振、体重減少、全身倦怠感、低Na血症などをきたす疾患である。下垂体前葉のホルモン分泌細胞のうちACTH細胞であるコルチコトロフのみが障害されることによって引き起こされる。

ACTH 単独欠損症ではしばしば橋本病などの自己免疫疾患の合併を認めることや、免疫チェックポイント阻害薬とりわけ抗 PD-1/PD-L1 抗体治療の免疫関連副作用として発症を認めることなどから、その病因として自己免疫機序の関与が示唆されている。自己免疫機序を示唆する要素として、ACTH 単独欠損症患者血清中には抗コルチコトロフ抗体などの抗下垂体抗体を認めることがあるが、その詳細な意義は不明である。また、ACTH 単独欠損症患者の臨床上の多様性はこれまでも認識されているが、病態に基づく明確な分類はなされていない。

本研究では、ACTH 単独欠損症症例を集積し、抗下垂体抗体の詳細な解析とともに臨床的特徴に基づいて ACTH 単独欠損症を分類し、その多様性と病因・病態を明らかにすることを目的とした。

【対象と方法】
1992 年から 2018 年の間に神戸大学病院、兵庫県立加古川医療センターで ACTH 単独欠損症と診断された 46 例を対象とし、後ろ向きに解析した。先天性 ACTH 単独欠損症、外因性のステロイド投与歴を認めた患者は除外した。保存血清を入手できた 33 例において、抗下垂体抗体を解析した。マウス下垂体を用いて間接蛍光免疫染色法を行い、下垂体抗体陽性例においては、抗ACTH 抗体(コルチコトロフ)、抗 S100β抗体(抗濾胞星状細胞)による二重染色を行うことにより認識している細胞を同定した。抗体の解析とともに、十分な臨床情報を得られた 29 例を対象に臨床的特徴 (年齢、性別、診断時の血清 ACTH 値、自己免疫疾患の併存の有無) と抗下垂体抗体 (抗コルチコトロフ抗体、抗濾胞星状細胞抗体) のパラメータを基に主成分解析、クラスター解析を行い、臨床像および抗下垂体抗体情報に基づいた ACTH 単独欠損症の分類を試みた。

【結果】
46 例の解析では、発症年齢58.1 ± 12.3 歳 (男性; 62.8 ± 9.3 歳、女性; 50.1 ± 13.0 歳) と男性が 63%と多く、男性において年齢が高い傾向が認められ、既報に一致した。28% で自己免疫疾患 (橋本病 8 例、バセドウ病 1 例、関節リウマチとリウマチ熱 1 例、潰瘍性大腸炎 1例、IgA腎症 1 例、円形脱毛症 1 例) を合併し、41%で自己抗体 (抗甲状腺抗体 11 例、抗核抗体 5 例、リウマトイド因子 2 例、ss-DNA 抗体 1 例) を有していた。血清を解析し得た症例において、抗コルチコトロフ抗体を 58%で認め、抗濾胞星状細胞抗体を 6% で認めた。

年齢、性別、診断時の血清 ACTH 値、自己免疫疾患の併存の有無、抗下垂体抗体の 6 つの臨床パラメータを用いた主成分解析によって、主成分 1; 年齢と性別、主成分 2; 診断時の血清 ACTH 値と抗下垂体抗体の有無、主成分 3; 自己免疫疾患の合併の 3 つの主成分で患者情報の 70%を説明可能であった。さらにクラスター解析によって、患者は 3 群 (Group A, B, C) に分類できることが明らかになった。Group A、B の特徴は、いずれも抗コルチコトロフ抗体陽性例が多く(Group A; 73%、Group B; 60%)、血清 ACTH は低値傾向であり (Group A; 2.2 ± 5.6 pg/mL、 Group B; 3.8 ± 5.8 pg/mL) であったが、Group A は中高年男性 (60.9 ± 10.3 歳、男性; 100 %、Group B は中年女性 (45.3 ± 11.2 歳、女性; 100%) であった。Group C は抗濾胞星状細胞抗体陽性例が多く (50%)、高齢男性 (72.8 ± 3.8 歳、男性; 100%) でACTH は比較的高値 (21.1 ± 10.3 pg/mL) であるという特徴を持っていた。

【考察】
今回の解析から、ACTH 単独欠損症は臨床情報および抗下垂体抗体の有無を基に 3 つの群に分類されることが明らかとなった。今回分類された 3 つの群(Group A-C)は、年齢、性別、発症時のACTH 値、抗下垂体抗体の種類によって特徴づけられており、臨床像の多様性が明確になるとともにそれぞれ異なる病因・病態の存在が示唆された。

その中で、Group A、C において、発症時の ACTH 値の低値すなわちより高度なコルチコトロフ障害と抗コルチコトロフ抗体の存在を認めたことは、これまで推測されてきたように自己免疫機序によるコルチコトロフの障害が成因として深く関わっていることを示唆している。

今回私たちは初めて、ACTH 単独欠損症を含む下垂体疾患において血中抗濾胞星状細胞抗体を同定した。濾胞星状細胞は下垂体前葉に存在する非ホルモン産生細胞で、機能としては幹細胞機能、貪食作用、パラクライン因子による局所的なホルモン分泌調節などが報告されている。今回示唆された濾胞星状細胞に対する自己免疫機序は新たな病態と考えられる。

抗濾胞星状細胞抗体を有したGroup C では、血清ACTH 値が比較的保たれており、Group A, Cとは異なる機序で ACTH 単独欠損症を発症した可能性が考えられた。現在のところその機序は不明であるが、これまでコルチコトロフとの関連については、濾胞星状細胞から IL-6 が分泌されパラクラインによってコルチコトロフにおけるACTH の前駆物質であるPOMC の発現を抑制したとの報告やケモカインCXCL10 を介した ACTH 分泌抑制作用も報告されている。これらを考慮すると、Group C では ACTH 分泌は比較的保たれていることから、抗体が濾胞星状細胞からの IL-6や CXCL10 などの分泌を促し、コルチコトロフからの ACTH 分泌が機能的に抑制されたと言った機序が推測されるが、今後の検討が必要である。

本研究の限界として、比較的まれな疾患とはいえ症例数の問題、血清採取が発症時期ではない点、マウス下垂体を用いた間接蛍光抗体法による抗下垂体抗体検出を行なっていることによる感度の問題などが考えられる。今後さらに別のコホートによる前向きの検証が必要である。

今回私たちは、初めてACTH 単独欠損症をその病態によって 3 つのグループに分類した。この分類は ACTH 単独欠損症の予後の推定、適切な治療法、複数の存在が示唆される発症機序の解明に有用であると考えられた。

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