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大学・研究所にある論文を検索できる 「三次元縮合複素多環性物質の触媒的不斉合成に向けた複素環式芳香族化合物の脱水型アリル環化法の開発およびその機構に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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三次元縮合複素多環性物質の触媒的不斉合成に向けた複素環式芳香族化合物の脱水型アリル環化法の開発およびその機構に関する研究

岩瀨, 翔太郎 名古屋大学

2020.04.02

概要

複素環骨格は,創薬有機化学分野の中核をなす.すべての医薬品有効成分のうち八割以上が含窒素複素環式芳香族化合物であり,創薬研究の標的としてしばしば注目される.加えて,複素環式芳香環の高い反応性を活用して多くの骨格変換が可能であるため合成中間体としても有用性が高い.特に,脱芳香的な官能基化による飽和複素環類への変換は,複雑な三次元骨格構築に強力な手段を提供する.これらの観点から,任意の置換基をもつ芳香族性複素環式骨格の効率的供給法の開発に強い期待が寄せられている.上述の医薬複素環化合物のうちおよそ半数が光学活性であることを鑑みると,エナンチオ選択的な手法が望ましい.その戦略は様々に考えられるが,入手容易な単純複素環のC–H結合官能基化反応は理想的である.特に,結合形成炭素上の不斉中心の制御を伴うC–C結合形成は,その後の複雑骨格構築への展開を容易にする.これまでにも,Friedel–Crafts反応やDiels–Alder反応,ラジカル付加反応などが展開されているものの,各々の構造特異性から,合成中間体供給の観点において依然として制約が残る.生成物に高反応性複素環が残るため,副反応や過剰反応の併発が反応開発を妨げる一因であろう.本研究では,芳香族性複素環を求核剤とする,Tsuji–Trost(T–T)型分子内脱水型不斉アリル化反応に着目した.本反応の生成物がもつ芳香環と独立したアルケニル基は,多彩な化学変換を可能とする.分子内反応にすることで多環式骨格を構築でき,過剰反応の抑制も期待できる.さらに,脱水型とすることによって生成物の精製が容易となる.極めて魅力的な反応ではあるが,T–T型反応における成功例は極めて少ない.これは,芳香族複素環はT–T反応で多用される金属エノラートなどと比べて著しく求核性が低いためである.従来の塩基による求核剤の活性化を旨とする脱塩型反応からの脱却が,理想反応実現への伴であろう.

目的達成に向けて,当研究室において独自に開発された脱水型アリル化触媒CpRu–光学活性2-キノリンカルボン酸,Cl-Naph-PyCOOH錯体触媒法に着目した.この錯体を用いると,プロトン性求核部(NuH)としてアルコール,アミド,カルボン酸をもつアリルアルコールを,光学的にほぼ純粋な対応するα-アルケニル環状化合物に変換できる.本触媒法では,ソフトなRuとハードなBrønsted酸の協働効果によって,その性能を発現する.この錯体とアリルアルコールが基質触媒複合体を形成する際,Ruがソフトなアルケニル基と,H+がハードなOHと相互作用し,円滑な電荷移動を起こし脱水を伴いながらΠアリル錯体を形成する.生じたRuカルボキシラト錯体が水素結合により求核剤を活性化し,Brønsted塩基としてプロトンを捕捉することで求核攻撃が進行し目的物を与える.塩基性条件下で反応する従来のT–T反応に対して,弱酸性条件で機能する本触媒的脱水型不斉アリル化は,非プロトン性求核剤である芳香族複素環基質への適用が強く期待される.本論文では,その適用性を検証すると共に,反応性発現に関する機構的な理解を深め,触媒反応生成物を伴中間体とする生物活性天然有機化合物の不斉合成への展開を目的とした.

代表的な複素環式芳香族化合物であるピロールに注目し,これまでに報告例のないN連結型ピロールアリルアルコールを基質とする1,2-縮環型ビニルピロール形成反応の開発に取り組んだ.六員環形成基質を標準基質として反応条件を検討した結果,望む1,2-縮環型ビニルピロールが,ほぼ完璧なエナンチオ選択性かつ定量的収率で得られることを見出した.10-g規模でも問題なく目的物が得られた.基質適応範囲も広く,アリルアルコール上のβ,γ位に置換基を導入することもできる.特に第四級不斉炭素を構築できる位にエチル基を導入した触媒反応生成物より,強力な抗腫瘍活性を示す天然物ラジニラムの既知合成中間体に導いた.ピロール上にはアルキル基,フェニル基,チオメチル基を導入することができ,七員環も構築することができる.さらに,本触媒反応はフラン類やチオフェンにも適応できる.フランはピロールよりも二桁近く求核性が低く,触媒的な不斉アリル化反応の報告は一例に限られており,チオフェンにいたっては世界初の成功例である.非プロトン性求核剤を用いる本反応は,従来のプロトン性求核剤を用いる反応系とは異なり,Ruカルボキシラト部と水素結合を形成しにくいため,その反応経路には興味がもたれる.反応経路の理解を深めるべく,重水素標識実験を実施した.標準基質のアリルアルコールα位を不斉重水素標識し,生成物の絶対配置と重水素の位置を追跡した.その結果,酸化的付加段階において塩素原子がハロゲン結合により求核剤を捕捉することで単一の触媒サイクルを促進する新しい反応機構を提唱するに至った.配位子の塩素原子をよりハロゲン結合受容性の高い臭素,ヨウ素に置き換えると触媒性能が一桁向上したことは,ハロゲン結合が酸化的付加段階を促進する上記の考えを強く示唆する.

次に,本反応の有用性を示すべく標的分子としてモルヒネを取り上げて,フランの脱水型不斉アリル化反応を伴とする合成研究に着手した.その結果,分子間Diels–Alder反応と酸素架橋環の開環によって酸化度の揃ったヒドロフェナントレン骨格の構築に至った.

以上の成果は創薬開発研究に強力な手法を提供するものであり,今後の展開が強く期待される.

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