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書き出し

三員環の環歪みを利用する炭素–炭素結合の切断を伴う触媒的環化異性化反応の開発

菊池, 友宏 名古屋大学

2023.05.22

概要

報告番号



















三 員 環 の 環 歪 み を 利 用 す る 炭 素 –炭 素 結 合 の 切 断 を 伴 う

論文題目




触媒的環化異性化反応の開発

菊池

友宏

論 文 内 容 の 要 旨
単純な基質から複雑分子を触媒的に効率的に合成する手法は、有機合成化学を基盤
と す る 創 薬 に 大 き く 貢 献 で き る 。 遷 移 金 属 触 媒 を 用 い る 1,6-ジ イ ン の 環 化 反 応 で は 、
一 般 的 に メ タ ラ サ イ ク ル を 形 成 し 、一 度 に 複 雑 な 環 骨 格 を 構 築 す る こ と が 可 能 で あ る 。
当 研 究 グ ル ー プ で は 、こ の メ タ ラ サ イ ク ル に ア ル キ ン や ア ル ケ ン を 反 応 さ せ る こ と で 、
炭 素 –炭 素 パ イ 結 合 の 組 み 換 え に よ っ て 、 ベ ン ゼ ン や シ ク ロ ヘ キ サ ジ エ ン な ど の 炭 素
骨 格 を 構 築 す る こ と に 成 功 し て い る ( Scheme 1a) 。 一 方 、 高 い 環 歪 み を 有 す る こ と
を 特 徴 と す る シ ク ロ プ ロ パ ン を 反 応 さ せ る と 、 炭 素 –炭 素 シ グ マ 結 合 の 切 断 と 形 成 を
伴 っ て 、 7 員 環 炭 素 骨 格 な ど を 構 築 で き る こ と が 知 ら れ て い る ( Scheme 1b) 。 既 存
の環化異性化反応では、ビニルシクロプロパンやアルキリデンシクロプロパンが用い
ら れ 、ま ず 隣 接 す る パ イ 結 合 が 反 応 に 関 与 し 、そ の 後 シ ク ロ プ ロ パ ン が 活 性 化 さ れ る 。
すなわち、シクロプロパンを活性化するために、隣接するパイ結合を必須とする。
そこで、私は、シクロプロパノールとシクロプロペンに着目した。酸素からの電子
の押し込みに起因する反応性が知られているシクロプロパノールやアルキンに類似し
た性質を有するシクロプロペンを用いることで、隣接するパイ結合を必要としなくと
も、環化異性化反応でシクロプロパンを活用できるのではないかと考え、本研究に取
り組んだ。

Scheme 1. こ れ ま で の 遷 移 金 属 触 媒 を 用 い る 1,6-ジ イ ン の 環 化 異 性 化 反 応

1.

ロ ジ ウ ム 触 媒 を 用 い る 1,6-ジ イ ン 含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル の 環 化 異 性 化 反 応
遷 移 金 属 錯 体 の 存 在 下 、 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル は 、 β-炭 素 脱 離 を 起 こ し 、 メ タ ル ホ モ

エノラートになることが広く知られている。一方で、シクロプロパノールの分子内に
アルキンを導入すると、アルキンを起点としてシクロプロパノールを活性化すること
ができる。
そ こ で 、 市 販 の 試 薬 か ら モ ジ ュ ー ル 合 成 可 能 な 1,6-ジ イ ン 含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル
基 質 を 設 計 し た( Scheme 2)。1,6-ジ イ ン の 環 化 に よ っ て 形 成 さ れ る メ タ ラ サ イ ク ル
がシクロプロパノールを活性化することを期待し、遷移金属触媒を探索した。その結
果 、 カ チ オ ン 性 ロ ジ ウ ム 錯 体 を 用 い る こ と で 、 1-テ ト ラ ロ ン を 含 む 環 状 エ キ ソ ジ エ ン
が得られることが分かった。興味深いことに、得られた生成物は熱力学的に不利な環
状エキソジエンであり、らせん構造を成していた。実験化学および計算化学の両面か
ら反応機構解明に取り組み、これまでにない活性化様式にてロダサイクルがシクロプ
ロパノールを開環していることやカルボニル基のプロトン化を起点とした単結合回転
によって、らせん骨格が構築されていることを明らかにした。

Scheme 2. 1,6-ジ イ ン 含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル の 触 媒 的 環 化 異 性 化 反 応
2.

プロトン共役電子移動を起点とするアルケン含有シクロプロパノールの触媒的環
化異性化反応
1-テ ト ラ ロ ン や 1-ベ ン ゾ ス ベ ロ ン な ど の ベ ン ゼ ン 縮 環 環 状 ケ ト ン は 、天 然 物 に 広 く

見られる構造で、それらの多くの誘導体が生理活性を有することが知られている。し
かし、ベンジル位に置換基を有するベンゼン縮環環状ケトンのメタルフリーな触媒的
合成法の開発は発展途上である。私は、温和な条件で進行し官能基許容性に優れる、
ラジカル環化反応に着目した。シクロプロパノールから誘導されるシクロプロポキシ
ラ ジ カ ル は 、環 歪 み を 駆 動 力 と し て β-開 裂 を 起 こ し 、活 性 な 第 一 級 ア ル キ ル ラ ジ カ ル
となるので、ベンゼン縮環環状ケトンの合成に適していると考えた。
従来、アルコキシラジカルは、アルコール基質から酸化的に調製することがほとん
ど で あ っ た 。 一 方 で 、 プ ロ ト ン 共 役 電 子 移 動 ( Proton-Coupled Electron Transfer,
PCET)は 、レ ド ッ ク ス ニ ュ ー ト ラ ル な 分 子 変 換 反 応 を 可 能 に す る 。ア ル コ ー ル の PCET
では、塩基触媒によるアルコールのプロトン引き抜きと光触媒による一電子酸化が協

奏的に起こり、アルコキシラジカルを調製できる。
そ こ で 、 1,6-ジ イ ン 含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル の 共 通 中 間 体 か ら 合 成 で き る ア ル ケ ン
含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル 基 質 を 設 計 し 、 PCET を 起 点 と す る ラ ジ カ ル 環 化 反 応 の 開 発
に 取 り 組 む こ と と し た( Scheme 3)。反 応 条 件 の 検 討 途 中 で 、金 属 光 触 媒 よ り も 有 機
光触媒が効果的であることを見出した。結果として、基質中のアルケンの置換様式に
よ っ て 、ベ ン ジ ル 位 に 置 換 基 を 有 す る 1-テ ト ラ ロ ン と 1-ベ ン ゾ ス ベ ロ ン を そ れ ぞ れ 合
成することに成功した。

Scheme 3. ア ル ケ ン 含 有 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル の 触 媒 的 環 化 異 性 化 反 応
3.

ル テ ニ ウ ム 触 媒 を 用 い る シ ク ロ プ ロ ペ ン -イ ン 類 の 環 化 異 性 化 反 応
環内に二重結合を有するシクロプロペンは、シクロプロパンよりも環歪みが大きく

反 応 性 が 高 い 。そ の た め 、遷 移 金 属 錯 体 の 存 在 下 で 、容 易 に そ の 単 結 合 が 切 断 さ れ る 。
一方、シクロプロペンの二重結合はアルキンに似た性質を示すことが知られている。
そ こ で 、1,6-ジ イ ン を シ ク ロ プ ロ ペ ン 化 す る こ と で 合 成 で き る シ ク ロ プ ロ ペ ン -イ ン
基 質 に 着 目 し た( Scheme 4)。遷 移 金 属 錯 体 の 存 在 下 で 、シ ク ロ プ ロ パ ン が 縮 環 し た
メタラサイクルを形成することで、シクロプロパンを活性化できると期待した。種々
の遷移金属触媒を探索したところ、ルテニウム触媒を用いると、シクロプロペンの二
重 結 合 が 切 断 さ れ 、 1,2-縮 環 シ ク ロ ペ ン タ ジ エ ン が 得 ら れ る こ と が 分 か っ た 。 計 算 化
学 的 手 法 に よ り 、 期 待 し た ル テ ナ サ イ ク ル を 形 成 し た 後 に 、 6-員 環 ル テ ニ ウ ム ビ ス カ
ル ベ ノ イ ド を 与 え る よ う に し て 、シ ク ロ プ ロ パ ン を 活 性 化 し て い る こ と が 支 持 さ れ た 。
ま た 、本 反 応 を シ ク ロ プ ロ ペ ン -ジ イ ン 基 質 に 適 用 し た と こ ろ 、シ ク ロ ヘ プ タ ト リ エ ン
が得られることも見出した。

Scheme 4. シ ク ロ プ ロ ペ ン -イ ン 類 の 触 媒 的 環 化 異 性 化 反 応
以 上 の よ う に 、 シ ク ロ プ ロ パ ノ ー ル と シ ク ロ プ ロ ペ ン を 利 用 す る こ と で 、 炭 素 –炭
素 シ グ マ 結 合 の 切 断 と 形 成 を 伴 う 3 つ の 触 媒 的 環 化 異 性 化 反 応 を 開 発 し 、こ れ ま で 到
達困難であった分子の創出に成功した。

この論文で使われている画像

参考文献

(1) (a) Y. Yokoyama, Chem. Rev. 2000, 100, 1717-1739.

(2) (a) M. Ogasawara, S. Kotani, H. Nakajima, H. Furusho, M. Miyasaka, Y. Shimoda, W. -Y.

Wu, M. Sugiura, T. Takahashi, M. Nakajima, Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 13798-13802.

(b) M. Ogasawara, H. Sasa, H. Hu, Y. Amano, H. Nakajima, N. Takenaga, K. Nakajima, Y.

Kita, T. Takahashi, T. Dohi, Org. Lett. 2017, 19, 4102-4105.

(3) (a) A. J. Anciaux, A. Demonceau, A. J. Hubert, A. F. Noels, N. Petiniot, P. J. Teyssié, J. Chem.

Soc., Chem. Commun. 1980, 16, 765−766. (b) C. A. Merlic, A. L. Zechman, Synthesis 2003,

1137−1156. (c) S. E. Reisman, R. R. Nani, S. Levin, Synlett 2011, 2437−2442.

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謝辞

本研究を行うにあたり、研究テーマの立案から論文執筆に至るまで終始御指導、御鞭撻を

賜りました名古屋大学大学院創薬科学研究科 山本 芳彦 教授に感謝し、御礼申し上げます。

また、多くの御指導ならびに有益なご助言をいただきました同研究科 澁谷 正俊 准教授に

深く感謝致します。同研究科 安井 猛 助教には、実験の実施、実験結果に対する考察、プ

レゼンテーションなどまで、日常から多くの御指導をいただいただけでなく、研究に対する

姿勢や思想など精神面においてもたくさんの学びの機会をいただきました。本当にありが

とうございました。

本論文の審査にあたり、有益なご助言を賜りました名古屋大学大学院創薬科学研究科 横

島 聡 教授ならびに同研究科 布施 新一郎 教授に厚く御礼申し上げます。

金銭面にて援助いただきました公益財団法人 岩垂奨学会およびトランスフォーマティ

ブ化学生命融合研究大学院プログラムに感謝申し上げます。また、本博士学位論文研究の一

部は、2020 年度笹川科学研究助成金の交付を受け実施されたものであり、公益財団法人 日

本科学協会に感謝いたします。

最後に、これまで私自身の意志を常に尊重し、研究生活を見守ってくれた家族に心より感

謝します。本当にありがとうございました。

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