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大学・研究所にある論文を検索できる 「きのこ子実体に適した電子顕微鏡試料作製法の開発とその活用に関する細胞学的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

きのこ子実体に適した電子顕微鏡試料作製法の開発とその活用に関する細胞学的研究

尾崎 佑磨 鳥取大学

2022.03.11

概要

(様式第9号/Format No.9)

学位論文審査の結果の要旨
Summary of Doctoral Dissertation Examination


名/Name

尾崎 佑磨
Chief



Examiner

Assistant

Examiner

Assistant

Examiner

Assistant

Examiner








Title



Assistant



審 査 委 員
Examining Committee

Examiner






霜村 典宏




會見 忠則




阿座上 弘行




上野 誠




中桐 昭




きのこ子実体に適した電子顕微鏡試料作製法の開発とその活用に関する
細胞学的研究

審査結果の要旨(2,000字以内)/Summary of Doctoral Dissertation Examination (Within 1200 words)
菌類・きのこは生理、生態に関して不明なことが多く、生活環の解明や子実体形成機構の解明
は、きのこの育種技術や安定的な人工栽培法の確立に寄与することが期待される。本研究では形
態学的側面からこれらの課題にアプローチすることを目的とした。電子顕微鏡は高い分解能によ
り細胞の微細構造を可視化することできる。しかし、電子顕微鏡で観察するためには、細胞、組
織が本来有する微細構造を保持したまま試料作製する必要がある。これまで試料作製に関して、
動植物を材料として技術革新が展開されてきた。しかし、動植物における試料作製技術をそのま
まきのこに応用しても微細構造が満足に観察できないという問題があった。そこで本研究では、
世界的に広く生産されている食用きのこ、ヒラタケ Pleurotus ostreatus を材料として用いて、その
技術開発を先ずは試みた。
第 2 章では透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察のための試料作製技術についてヒラタケ幼子実体の
柄を構成する組織を対象に検討した。一般的に TEM で生物試料を観察するためには、細胞に樹脂
を浸透させ、樹脂包埋試料を作製し、そこから薄く切り出した切片を観察する方法がとられてい
る。今回使用したエポキシ樹脂 (主剤) の重合には硬化剤を必要とし、加速剤には樹脂混合物の重
合反応を加速させる働きがある。通常はこれら 3 つの樹脂構成要素を混合した樹脂混合物が試料
への樹脂浸透処理過程において用いられるが、本研究では樹脂混合物における加速剤の有無が、
細胞内微細構造に与える影響について調査した。その結果、加速剤無添加の樹脂混合物を用いた
場合、加速剤を添加した場合と比較して全体的に細胞膜、及び、細胞小器官の膜のコントラスト
が低下した。ミトコンドリア、また、ほとんどの核膜、粗面小胞体膜は膜構造を認めることが不
可能であった。これらのことから、加速剤は樹脂の重合反応を加速させる物質であるが、細胞内
の膜の TEM 像に影響を与えることが示された。従って、細胞内の膜を対象とした解析をするにあ
たっては、加速剤を添加した樹脂混合物を用いることが適正であることが示唆された。

第 3 章では走査型電子顕微鏡(SEM) 観察のための試料作成技術について、ヒラタケ成熟子実
体の子実壮托を対象に検討した。ヒラタケ子実層托を電子顕微鏡観察のための固定法として一般
的に用いられているグルタルアルデヒドと四酸化オスミウムによる二重固定をした試料を t-ブチ
ルアルコール凍結乾燥をして SEM で観察すると、細胞は著しく収縮して変形を生じ、本来の細胞
表面における微細構造を観察できないという問題があった。そこで試料の固定法を改良した結果、
四酸化オスミウム、タンニン酸、四酸化オスミウムによる三重固定 (OTO 三重固定) をすると、
t-ブチルアルコール凍結乾燥を経ても細胞の収縮を生じず、微細構造の観察が可能であることを発
見した。同一条件下で作製した試料を TEM で観察した結果、細胞表面を観察するための SEM 試
料作製においても、四酸化オスミウムを細胞壁、細胞質に十分浸透させ結合させることが細胞の
収縮を抑制するために重要であることが示唆された。本固定法は、安全かつ迅速な乾燥を可能と
する t-ブチルアルコール凍結乾燥法がきのこの子実層托の観察に応用できることを示した。
オートファジーは生物の様々な代謝に広く関与することが知られている。また、酵母の胞子形
成や植物病原菌の病原性獲得など、菌類の形態形成にオートファジーが関与することが報告され
ている。一方、生活環の主体を菌糸体として生息するきのこは子実体を形成する場面では著しい
形態形成を伴う。そこで第 4 章では、きのこ子実体形成へのオートファジーの関与を調査するべ
く、まずはヒラタケにおけるマクロオートファジー (以下オートファジー) 関連構造体の TEM 観
察による検出を試みた。その結果、細胞質中に細胞質成分を含む内外二重膜構造体が観察された。
連続切片を観察した結果、二重膜構造体の内容物が二重膜により細胞質から完全に隔離されてい
ることが明らかとなった。また、構造体の形と大きさ、限界膜の厚み、さらに液胞と相互作用す
る場面が観察されたことから、二重膜構造体はオートファゴソームであると判断した。なお、細
胞質ゾルを隔離したオートファゴソームには内容物に関して多様性が認められたこと、また担子
菌類に特有の隔壁構造を構成するかっこ体がオートファゴソームによって隔離されていたことは
きのこに特異的な現象である。さらにオートファゴソームに成熟する前の構造体、隔離膜が検出
され、きのこにおけるオートファジー経路を推定した。
以上の研究は、菌類、きのこを対象とした電子顕微鏡観察のための新たな技術、並びにその応
用例を示すもので、今後の菌類における電子顕微鏡を用いた形態学的解析に寄与する成果である。
以上のことから、本論文は博士(農学)の学位論文として十分価値を有すると判断した。