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大学・研究所にある論文を検索できる 「Matrix remodeling-associated protein 8 is a marker of a subset of cancer-associated fibroblasts in pancreatic cancer」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Matrix remodeling-associated protein 8 is a marker of a subset of cancer-associated fibroblasts in pancreatic cancer

市原, 亮介 名古屋大学

2022.07.04

概要

【緒言】
腫瘍微小環境の主要なコンパートメントであるがん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast :CAF)は、膵癌をはじめ間質増生や炎症反応を伴った治療抵抗性の癌において特に観察される。CAFは機能的にがんを促進させるがん促進性CAF(cancer-promoting CAF: pCAF)と、抑制させるがん抑制性CAF(cancer-restraining CAF:rCAF)の2種類に分類される。rCAFの存在は、ヒト膵癌や膵癌マウスモデルにおいて遺伝学的手法によるCAFの増殖抑制や、CAFの増殖に影響を与える薬理学的介入を加えると腫瘍が予想外に進行するという知見に基づいて概念化されたものであったが、ヒトやマウスにおけるrCAFに特異的なマーカーは同定されていなかった。

当研究室は以前、間葉系幹細胞に発現するGPIアンカー型細胞膜タンパク質Meflin(遺伝子名ISLR)が、膵癌や大腸癌におけるrCAFに特異的なマーカーであることを明らかにした。さらに、がんの進行に伴ってCAFにおけるMeflinの発現は低下し、α平滑筋アクチン(αSMA:pCAFの代表的なマーカー)の発現が低下したことから、Meflin陽性rCAFからαSMA陽性のpCAFへの形質転換が、がんの進行に伴って生じている可能性を提唱した。

しかしMeflin陽性CAFそのものの特性はまだ十分に明らかにされていない。今回我々はMeflin陽性CAFの遺伝子発現プロファイルの同定を通じて、その正確な特性の解明に繋げることを目的とし、ヒトがんにおける単一細胞トランスクリプトーム解析の複数のデータセットを解析した。結果、Meflin陽性CAFと重なるCAFの新たなマーカーとしてMatrix remodeling-associated protein 8(MXRA8)を同定し、その臨床病理学的特徴の検証をした。

【方法】
ヒトの膵癌、非小細胞肺癌、大腸癌、乳癌から単離された全細胞の単一細胞トランスクリプトーム解析の公開データからISLRと発現量が1細胞レベルで相関がある(スピアマンの相関関数が0.3以上を示した)細胞接着分子や表面タンパク質をスクリーニングし、最も高い相関を示した機能不明の分子MXRA8を新たなCAFマーカー候補として同定した。次に単一細胞解析やIn situ hybridization(ISH)法、免疫染色法を用いて、マウスの各正常臓器組織(膵臓、大腸、肺、乳腺)やヒト膵癌手術検体におけるMXRA8の発現分布を検証した。またヒト膵癌手術検体に対するISH法や免疫染色法、あるいはヒト膵癌の単一細胞解析のデータを用いた擬似時系列解析により、αSMAやMeflin等の既知のCAFマーカーとMXRA8の発現の比較を行った。膵癌患者における生存率とMXRA8の発現の関係性については、ヒト膵癌手術検体におけるISH法によって検出されたMXRA8の発現に基づいて高発現・低発現群(1強拡大視野あたりの平均MXRA8陽性細胞数88個をカットオフ値と設定)にわけて予後を調べた。最後にMXRA8ががんの進行に果たす役割をさらに詳しく調べるため、Mxra8ノックアウトマウス(Mxra8-KOマウス)と野生型マウス(WTマウス)の膵臓にマウス膵癌細胞株(mT5)を同所移植し、生じた腫瘍の病理学的特徴を比較した。

【結果】
MXRA8は4つのヒトがん単一細胞解析のデータにおいて細胞接着や表面タンパク質に関する10の遺伝子の中で最もMeflinと高い相関を示した(Figure1A)。またMXRA8は線維芽細胞の普遍的なマーカーであるI型type1コラーゲン(COL1A1)遺伝子を発現する細胞群にMeflinと共に発現しており(Figure1B)、これらの結果からMXRA8は新たなCAFマーカー候補と考えられた。

マウスの正常膵臓ではMxra8はMeflinと同様に膵癌のCAFの起源である膵星細胞(Pancreatic stellate cells : PSC)に特異的に発現していることを見いだし(Figure2A,B)、マウス正常大腸、肺、乳腺の間質細胞においてもMxra8の発現を認めた(Figure2C-E)。ヒト膵癌手術検体では、MXRA8は正常膵臓組織でマウスと同様PSCに発現し、癌組織では間質細胞に発現する一方、上皮細胞や免疫細胞には発現は認めなかった(Figure3AC)。以上の結果から、MXRA8がヒト膵癌のCAFマーカーであることが支持された。またMXRA8はヒト膵癌の3種類のCAFマーカー(αSMA等)陽性CAFと一部共発現し、ほぼ全てのMeflin陽性CAFならびに半数以上のMXRA8陽性CAFでMeflinとMXRA8の共発現を認めた(Figure4A-E)。さらにCAFにおいてMXRA8の発現はαSMAの発現と逆相関しており(Figure4F)、擬似時系列解析では経時的にMeflinとともに発現が低下していた(Figure5A-C)。

術後膵癌患者における生存率はMXRA8高発現群と低発現群間では有意な違いはみられなかった。(Figure6A-D)。

マウス膵癌細胞株(mT5)を同所移植されたWTマウスにおいてMxra8はCAFに発現しており、マウスにおいてもMxra8膵癌のCAFマーカーであることが示されたが、腫瘍の分化度はWTマウスとMxra8-KOマウス間に有意な違いはみられなかった(Figure7A-C)。また癌細胞の増殖度やMeflin陽性CAFの多寡もWTマウスとMxra8-KOマウス間に有意な違いはみられなかった(Figure7D,E)。

【考察】
本研究の結果は、MXRA8がMeflinと共発現する新たな膵癌のCAFマーカーであることを示している。興味深いことにMXRA8の発現はαSMAの発現と逆相関しており、擬似時系列解析では経時的にMeflinとともに発現が低下していることから、膵癌の進行に伴いMeflinかつMXRA8陽性CAFからαSMA陽性CAFへの形質転換が生じている可能性が示された。

今回、MXRA8陽性CAFの多寡が膵癌患者の生存率と相関しないことや、膵癌細胞株の同所移植マウスモデルにてCAFにおけるMXRA8の発現が膵癌の進行に明らかな影響を及ぼさないこともわかったが、この知見のみでMXRA8が機能的に中立であり、CAFの生物学的機能に関与していないと結論するにはさらなる検証が必要である。今後、培養線維芽細胞を用いた実験や膵癌自然発症マウスモデルを用いて、MXRA8陽性CAFおよびMXRA8分子の機能についてさらに検証する必要がある。

【結語】
ヒトやマウスの膵癌におけるCAFの新たなマーカーとしてMXRA8を同定した。

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