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大学・研究所にある論文を検索できる 「わが国の透析患者におけるフレイル対策の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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わが国の透析患者におけるフレイル対策の検討

櫻井, 仁子 東京大学 DOI:10.15083/0002001453

2021.09.08

概要

わが国における透析患者は年々増加しており現在日本では 32 万人を超えている.透析患者の疫学的背景の変化において,特に注目すべきは高齢化の進行であり,日本透析医学会が発表している統計調査では,日本での透析導入の平均年齢は 68.7 歳,年末患者の平均年齢も 67.2 歳と 30 年間上昇し続けている.また,61.8%と半数以上が 65 歳以上であることが特徴として挙げられる.高齢化に関する概念として,フレイル, PEW(protein-energy wasting),サルコペニアという病態がある.フレイルとは高齢期に生理的予備能が低下することにより,ストレスに対する脆弱性が亢進し,生活機能障 害,要介護状態,死亡などの転帰に陥りやすい状態のことを言い,重要な点は可逆性があるため介入によって改善する可能性があることである.PEW は骨格筋などの体構成蛋白の減少と血清蛋白成分の減少,エネルギーの減少を伴う栄養障害と定義され,慢性腎臓病患者,特に維持透析患者の 15-43%でみられると報告されている.サルコペニアは全身の骨格筋量の低下および骨格筋力や身体機能の低下を特徴とする症候群である.腎機能障害はこれらの疾患の原因の一つに挙げられており,末期腎不全患者では多く見られることが報告されている.また,これらの 3 つ概念は相互に関連しており,生命予後に関与していることがわかっている.特に高齢者において,身体機能と栄養状態の低下が起こることで,これらの疾患を認める割合が高く,進行速度が速いと言われている.高齢化が進行している透析患者においてこれらの病態は重要な介入点であり,介入手段として栄養療法,運動療法の役割は大きい.そこで本研究では、透析患者における予後から見た現状と実際の栄養療法や運動療法による治療介入の現状の検討を行うことを目的とした.

予後から見た現状として透析患者の年齢別・死因別推移について検討した.日本透析医学会が施行している統計調査の1987 年から2014 年までの死亡患者死亡原因分類(年齢との関係)及び年末患者,年齢,性別の項目についての集計データーを使用した.死亡者数について,全死亡,死因別死亡の上位 3 位である心血管死亡,感染症,悪性腫瘍について検討した.年齢群別(45-59 歳,60-74 歳,75-89 歳,90 歳以上)の粗死亡率及び死因別粗死亡率を計算した.年齢群別に 1995 年を基準とした過去 25 年間のリスク比及び 95%信頼区間の推移を求めた.

透析患者数と死亡者数の推移としてはともに 60 歳以上で増加傾向にあった.年齢群別の粗死亡率のリスク比の推移としては,1995 年と比較して 90 歳未満の患者ではリスク比の改善がみられていた.死因別の粗死亡率の推移に関しては,透析患者の死因 1 位である心不全において,90 歳以下で 1995 年と比較し改善傾向にあった.また,第 2 位である感染症及び第 3 位である悪性腫瘍においては 60-74 歳では改善傾向が見られていたが,その他の年齢層では改善がみられなかった.以上のことから 90 歳以上の超高齢者は生命予後の経時的な改善は見られておらず,この年齢群では年齢が予後規定因子として重要であることを示していた.死因別年齢別の検討からは感染症や悪性腫瘍に対する対策が必要である.感染症死亡はフレイルとの関連が示されており,フレイルへの対策が必要である.

実際に行われているフレイル対策の検討としてわが国の血液透析施設における栄養療法と運動療法について質問紙による全国調査を行った.日本透析医学会の会員施設,3,993 施設を対象とし,2015 年 8 月時の施設種別,施設におけるスタッフの数(医師,看護師,技師),スタッフの有無(栄養士,薬剤師,理学療法士),65 歳以上の割合,血清アルブミン値 3.5 g/dL 以下の割合などの施設の特徴と経腸栄養剤 oral nutritional supplements (ONS) の種類,経静脈栄養 intradialytic parenteral nutrition (IDPN)の種類,運動療法の種類についての施行状況に関する質問紙を送付した.

施設及び患者の特徴について要約し,ONS, IDPN 運動療法の割合に関して集計し た.多変量解析を用いて栄養療法,運動療法の提供に関連する施設の特性を調べた.回 答は 1048 施設(回答率:26.2%),患者数 88,492 名(27.6%)を含む施設から得た.65 歳 以上の患者は全患者の 63.4%,Alb3.5g/dL 以下の患者は全患者の 37.6%であった.栄養 療法としては,透析中の食事提供は 601 施設(64%),経腸栄養剤の使用は 382 施設(40%),透析中の経静脈栄養は 471 施設(46%)でそれぞれ行われていた.透析中の運動の施行は190 施設(20%)であった.透析学会の調査における施設種別や地域によって回答率を調整した後も傾向は変わらなかった.患者レベルでは全体に対する患者の割合では,経腸栄養 2.1%,経静脈栄養 2.7%,運動療法 3.0%と各々限られた患者のみに行われていた.解析の結果,無床診療所は有床診療所や病院と比較し,栄養・運動療法をより行っている傾向にあった.医師以外の院内スタッフ(技士や栄養士など)が多い施設ほど,栄養・運動療法が行われる傾向にあった.高齢者や低アルブミン血症である患者の割合は ONS,IDPN の栄養療法の施行と正の相関があった.ONS,IDPN は施設における栄養士や薬剤師の有無との関連はなかった.以上のことから,栄養療法は日本における多くの血液透析施設で行われていたが,栄養療法を受けていた患者数は少なく Alb3.5g/dL 以下の患者の割合と比較すると受けるべき患者でも受けられていない可能性がある.しかしながら,栄養療法に関連する因子として,高齢者の割合,低アルブミン血症を認める患者の割合が多変量解析で示されたことは患者背景を考慮して治療を行っている可能性がある.また,解析で栄養士や薬剤師との関与が見られなかったことから,他職種とのチーム医療を進めることで栄養療法を受けるべき患者の割合と実際に受けている患者の割合の差を埋められる可能性がある.運動療法に関しては施設数は増加傾向にあるが諸外国と比べて少なく,患者数はまだ少ないことが示された.運動療法の啓発と評価方法の確立が重要である.

以上をまとめると,予後から見た現状としては感染症,悪性腫瘍対策が必要で あり,フレイル,低栄養は重要な介入点である.透析医療における栄養療法・運動療法 の現状からは,これらの治療を受けるべき患者の割合と実際に受けている患者の割合に は差があり,このような差を埋めていく努力が今後必要とされると考え,色々なスタッ フの立場から患者の病態を捉え指導していくこと,運動療法の啓発の重要性が示された.この研究が今後の透析医療の一助となることを期待する.

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