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大学・研究所にある論文を検索できる 「Structural and Electronic Modifications of Organoboron Fluorophores」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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Structural and Electronic Modifications of Organoboron Fluorophores

伊藤, 正人 名古屋大学

2021.11.09

概要

有機π共役化合物は,π電子の非局在化に起因した特異な電気・磁気・光学特性を示す.このπ共役骨格へ典型元素を導入することで,特徴ある機能性分子系を創出できる.数ある典型元素の中でも,空の p 軌道を有するホウ素原子を導入すると,p–π* 相互作用に起因した高いLewis 酸性や電子受容性に富んだ骨格を構築できる.近年までに,この特徴的な電子構造を利用した蛍光色素や電子輸送材料が数多く報告されている.しかし,より魅力的な有機ホウ素材料の創製には,依然として克服すべき課題がいくつも存在する.そこで本論文では,有機ホウ素発光体の電子・構造修飾による 1) 光安定性の向上,2) 近赤外発光性の付与のための分子設計指針の確立,さらには,3) ホウ素安定化ラジカルという新たな分子系の潜在性についてまとめており,序論,本論三章,結言により構成されている.

第一章では,非対称トリアリールボランの合成法の開発と,ドナー–π–アクセプター (D–π–A) 型有機ホウ素蛍光色素の光安定性の評価について論じている.ホウ素を含む D–π–A 型化合物は,高い蛍光量子収率と媒体の極性への応答性を兼ね備えた蛍光特性を示し,発光材料や生体イメージングなどへの応用が期待される化合物群である.一方で,有機ホウ素化合物は光照射下で様々な反応が進行することが知られており,高い光安定性をいかに実現するかが実践的応用における課題である.そこで本研究では,立体的・電子的効果が及ぼす,D–π–A 型有機ホウ素化合物の光安定性への影響を系統的に評価することで,優れた発光特性と高耐光性を両立させる分子設計指針の確立に取り組んだ.

この達成のために,ホウ素上に異なる 3 つのアリール基を導入した非対称トリアリールボランを合成し,各々のアリール基に異なる役割を持たせるという構造修飾を着想した.しかし,従来の非対称トリアリールボランの合成法には,アリールスズ試薬のような腐食性や毒性が高い反応剤が必要という問題点がある.これに対し,入手容易なボロン酸エステルと,腐食性,毒性のない反応剤を用いた新たな合成法の開発に成功した.確立した合成法を駆使して合成した一連の化合物は,蛍光の大きなソルバトクロミズムを伴いながら,高極性溶媒においても強い発光を維持する三配位ホウ素化合物の特徴を反映した優れた発光特性を示した.続いて,光安定性を定量的に評価するために,光照射下での吸収スペクトルの変化を追跡した.ホウ素原子周りの電子効果の異なる誘導体について,不活性雰囲気下,アセトニトリル中で測定を行った.電子豊富な構造をもつ誘導体がより高い光安定性を示し,電子効果と光安定性との相関を明らかにした.さらに,2,4,6-(tri-t-butyl)phenyl 基を導入することで,高い耐光性を有する蛍光色素の創製も達成した.これらの知見を設計指針として分子設計を行うことで,より有用な D–π–A 型有機ホウ素化合物の創出が期待できる.

第二章では,2 つのホウ素を含む電子不足ヘテロアセンの合成と物性について論じている.アセン骨格の一部の炭素原子を典型元素で置換したヘテロアセンは,導入する典型元素の性質を反映し,特徴的な物性を有する.中でもペンタセン骨格の 5,12 位を典型元素で置換したヘテロアセンは,長波長領域で電子遷移を示すことが報告されている.これまでに,電子豊富なヘテロアセンは報告されつつあるものの,電子不足なヘテロアセンの報告は少なく,その物性や構造的特徴に興味がもたれる.そこでホウ素を含むヘテロアセンを合成し,その物性評価を行った.

合成した含ホウ素アセンの電気化学特性を測定したところ,2電子の可逆な酸化還元波を酸化過程,還元過程の両方で示した.また光物性の測定の結果,シクロヘキサン中で,近赤外領域での明瞭な振動構造を有する強い吸収 (λabs = 770 nm, ε = 1.10 × 105 M–1·cm–1) と,半値幅 (FWHM)の狭い発光 (λem = 791 nm, ΦF = 0.089, FWHM = 771 cm–1) を示すことも明らかにした.この特性の要因について理論計算を行い考察したところ,これらの物性にはホウ素原子のみならず,分子骨格内の酸素原子も大きく寄与しており,酸素原子の電子供与性 (push) と,含ホウ素ヘテロアセン骨格の電子欠損性 (pull) が組み合わさった push–pull 構造により,特徴的な光物性を示すことが明らかとなった.また,この狭い半値幅の発光の要因をFranck–Condon 計算により解明し,その理解をもとに中央のスペーサーをベンゼンからチエノチオフェンに変換することで,希土類の発光に匹敵するほどの狭い半値幅 (309 cm–1) の発光を 952 nm という近赤外領域において達成した.これらの結果は,アセン骨格を用いた近赤外発光色素を設計する上で有用な知見である.

第三章では,ホウ素の導入により安定化した有機πラジカルの発光特性について論じている.有機πラジカルは,不対電子に由来した特徴的な電子物性を示す.近年では,有機πラジカルを 有機電界発光素子 (OLED) の発光層として応用する研究が注目を集めている.一般に,有機π ラジカルは非発光性であることが多いが,かさ高い置換基によって保護されたπラジカルに対し,アミノ基などの電子ドナー部位を導入し,分子内電荷移動 (ICT) 型遷移を実現することで,発光 性を獲得できることが示されつつある.しかし,新たな安定化手法の確立や,高効率発光の達成 は依然として課題であり,これらを克服する新たな分子設計指針が求められている.

これに対し当研究室では,平面固定化したπラジカル骨格にホウ素を組み込むことにより,空のp 軌道を介したスピンの非局在化に起因して高度に安定化されたπラジカルが得られることを報告している.本章では,このπラジカルが,トルエン中において発光極大 612 nm,量子収率 0.78 という強い赤色発光を示すことに着目し,この高効率発光の要因の解明を検討した.ホウ素原子周りの平面固定化を解き,かさ高い 2,4,6-(tri-i-propyl)phenyl 基を導入したラジカルを合成し,物性の比較を行った.

安定性を定量的に評価するため,酸素を飽和させたトルエンに溶解させ,暗所で静置させた場合の吸収スペクトルの変化を追跡した.母骨格である平面固定化トリフェニルメチルラジカルに比べ,いずれの誘導体も極めて高い安定性を示した.このことから,ホウ素原子の導入がラジカルの安定性に重要であるといえる.また,新たに合成した誘導体は,発光極大 600 nm,量子収率 0.08 と発光効率が顕著に低下することが明らかとなった.これら 2 つの化合物の励起状態ダイナミクスの測定と従来のドナーを含む発光性ラジカルとの理論計算による比較から,高効率発光の理由を考察した.1) ホウ素部位が電子受容性基として作用した ICT 性の獲得と,平面固定化による電子遷移に関わる分子軌道間の効率的な重なりにより,高い振動子強度および大きな輻射失活速度定数 (kr) を保持できること,2) 平面固定化による剛直な分子構造により,無輻射失活定数 (knr) を抑制できること,の 2 点が重要な要因と結論づけた.さらに,OLED の発光層として応用し,従来の閉殻系化学種を用いた場合では達成し得ない高い効率を達成し,この分子系の有用性を実証した.これらの結果は,ホウ素原子が,発光性と安定化の二つの性質に寄与することを示しており,高効率発光性安定ラジカルの重要な分子設計指針といえる.

以上の成果は,ホウ素を含むπ電子系の電子・構造修飾が及ぼす機能性への影響に関する理解を深めるとともに,真に優れた有機ホウ素材料の創出に向けた重要な分子設計指針を示す成果である.ここで得られた一連の知見は,有機ホウ素π電子系を基盤とした,より魅力的な有機電子材料や蛍光プローブの開発を通じ,材料科学の進展に大きく貢献するものである.

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