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大学・研究所にある論文を検索できる 「大脳皮質拡延性抑制動物モデルを用いた、片頭痛に対する呉茱萸湯の効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大脳皮質拡延性抑制動物モデルを用いた、片頭痛に対する呉茱萸湯の効果の検討

川添, 由貴 大阪大学

2021.03.24

概要

【目的】
片頭痛は人口の10%近くが罹患する反復発作性の疾患で、繰り返し起こる激烈な頭痛発作のため、日常生活に支障を来たすことが多く、また、原因不明の歯痛や顔面痛を主訴として歯科を受診する場合も多いといわれている。片頭痛の発症メカニズムは未だ確立されていないが、髄膜に分布する三叉神経血管系及び大脳皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression、CSD)との関連が最も有力とされている。片頭痛の急性期治療薬としては、アセトアミノフェン、NSAIDs、制吐剤、トリプタン製剤などが使用されている。予防薬としては、抗てんかん薬、抗うつ薬、β遮断薬、Ca拮抗薬などの西洋薬の他に、漢方薬の呉茱萸湯が有効であるといわれてきた。しかし、漢方薬は経験的に使用され発展してきた治療薬であるため、基礎研究や臨床研究などの科学的裏付けとなる研究が不足しているのが現状である。そこで、本研究では、片頭痛の治療薬として経験的に使用されてきた漢方薬の呉茱萸湯に焦点を当て、片頭痛動物モデルであるCSDモデルに対する効果やその作用機序について明らかにすることを目的として検討を行った。

【方法】
本研究は実験動物に対する苦痛および使用動物数を最小限に留めるよう努力した。当研究計画はNIHの実験動物の飼育と取扱いガイドラインに沿ったものであり、大阪大学大学院歯学研究科動物実験委員会の審査を受け承認を得た(動歯R-01-012-0)。

実験1使用動物および薬物投与
実験には、4週齢の雄性Sprague Dawleyラットを用いた。ラットの固形飼料に呉茱萸湯が3%の濃度になるように混餌した飼料を4週間投与した群を呉茱萸湯群とした。対照として、呉茱萸湯を混餌していない固形飼料を4週間投与した群をコントロール群とした。数日おきにラットの体重、飼料の摂取量を計測した。

実験2CSD発生モデルの作製
飼料投与開始後4週間目のラットに、イソフルランと亜酸化窒素による全身麻酔下で気管切開を行い、左側大腿静脈に薬物投与用のカテーテル、左側大腿動脈に動脈圧測定用のカテーテルを留置した。筋弛緩薬の持続投与開始後、ベンチレータに接続し、脳定位固定装置に固定した。頭皮を正中切開し、頭蓋骨を露出させた。ブレグマとラムダの間の右側頭蓋骨に穴を3か所開け、そのうちの1つはKCl投与用として硬膜を剥離し露出させた。他の2つの穴より150mMNaClを満たした脳波測定用のガラス電極を皮質表面から300μm下に挿入し、Ag/AgCl基準電極を頸部の皮下に留置した。その後、麻酔の維持をイソフルランと亜酸化窒素からイソフルランのみに切り替え、大脳皮質表面に1MKClを浸した綿球を留置し、CSDを2時間誘発した。ベンチレータ接続後から実験終了まで、血液ガス分析および動脈血圧測定により循環動態および呼吸状態を監視した。

実験3免疫組織学的検討
CSD発生2時間後、ペントバルビタールの腹腔内過量投与を行ったのち、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で脱血し、パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて灌流固定を行った。灌流固定終了後、全脳および三叉神経脊髄路核(Vi、Vc)、上部頚髄(C1-C2)、三叉神経節(TG)を取り出し、後固定ののち、スクロース溶液に移し替え、4℃で保存した。

(1)ABC法
ミクロトームを用いて中脳水道周囲灰白質(PAG)、青斑核(LC)、延髄吻側腹内側部(RVM)、Vi、VcおよびC1-C2を含む厚さ40μmの連続凍結横断切片を作製した。ABC法にてc-Fosタンパクに対する免疫組織化学的染色を行い、光学顕微鏡にて陽性細胞数をカウントした。

(2)蛍光染色
クライオスタットを用いて、TGから厚さ10μmの連続凍結水平断切片を作製し、スライドに貼り付けた。pERKに対する免疫組織化学的染色を行い、共焦点レーザー顕微鏡にて陽性細胞数をカウントし、全神経細胞数に対する陽性細胞数の割合を算出した。

実験4行動学的検討
普通飼料投与21日目に、ペントバルビタールの腹腔内投与によりラットに全身麻酔を行い、脳定位固定装置に固定し、頭皮を正中切開し、頭蓋骨を露出させた。ラウンドバーにて右側頭蓋骨の一部を除去して硬膜を、カニューレを植立し、歯科用レジンにて固定した。飼料投与28日目に、ラットを観察用ケージに入れ、カニューレより1MKClあるいは生理食塩水20μlを硬膜上に注入した。その後、ビデオカメラにて30分間行動を撮影した。この間に、(1)Immobilization(不動化)、(2)Exploration(探索行動)、(3)Face Grooming(顔面領域の毛づくろい)を観察し、それぞれの行動の合計持続時間を測定した。

次に実験1と同様にラットを呉茱萸湯群とコントロール群に分け、飼料投与21日目に、上記と同様にカニューレを植立し、飼料投与28日目に、ラットを観察用ケージに入れ、カニューレより1MKCl20μlを硬膜上に注入した。その後、ビデオカメラにて30分間行動を撮影した。この間に、Immobilization、Exploration、Face Groomingのそれぞれの行動の合計持続時間を測定した。

結果は全て、平均値±標準偏差で表し、危険率はp<0.05で有意差ありとした。2群の統計学的比較にはStudent’st-testを用いて解析した。

【結果】
1.飼料摂取量、体重の変化
一週間ごとの固形飼料摂取量の推移は、呉茱萸湯群とコントロール群において、差は認められなかった。また、ラットの個体別の体重増加に関しても、両群において差は認められなかった。

2.CSD発生数
脳波記録時の循環動態および呼吸状態は、呉茱萸湯群、コントロール群とも正常範囲内であった。両群において、KCl刺激によりCSD波形が認められたが、2時間のCSD発生数に差は認められなかった。

3.行動評価
NaCl刺激群と比較して、KCl刺激群において、Immobilizationの合計持続時間は有意に延長し、Explorationの合計持続時間は短縮傾向が認められ、Face Groomingの合計持続時間は有意に短縮した。また、コントロール群と比較して、呉茱萸湯群においてImmobilizationの合計持続時間は有意に短縮し、Explorationの合計持続時間は有意に延長した。Face Groomingの合計持続時間に有意な差は認められなかった。

4.痛覚伝導路の一次中継核における
c-Fos発現両群において、大部分の抗c-Fos抗体陽性細胞はVc、C1-C2のⅠ層とⅡ層の腹外側に密集して分布していた。吻尾的には、Vcの尾側寄りからC1-C2にかけて、コントロール群と比較して、呉茱萸湯群において抗c-Fos抗体陽性細胞数の有意な減少が認められた。

5.下行性疼痛抑制系の各神経核における
c-Fos発現LCでは有意な減少が認められた。PAG、RVMでは、両群間で差は認められなかった。6.TGにおけるpERK発現TGにおける抗pERK抗体陽性細胞数の割合は、コンロール群と比較して、呉茱萸湯群で有意な減少が認められた。

【考察】
本研究の結果より、呉茱萸湯の慢性投与によりCSD発生は抑制されなかったが、痛覚伝導路の一次中継核(VcおよびC1-2)の活性化が抑制され、また、片頭痛関連行動であるImmobilizationが抑制され、Explorationの時間が延長した。過去の報告で、さまざまな西洋薬の片頭痛抑制の共通のメカニズムとしてCSD発生抑制が考えられているが、呉茱萸湯の片頭痛抑制効果はCSD発生抑制によるものではなく、CSDによって活性化される痛覚伝導路を何らかの形で抑制することにより、頭痛発作を抑制することが示唆された。そのメカニズムとして、下行性疼痛抑制系やTGの関与を検討した結果、LC、TGにおける活性化が抑制された。このことより、呉茱萸湯はTGの活性化を抑制することで片頭痛発作を抑制することが示唆された。呉茱萸湯のLCに対する作用については、今後さらなる検討が必要であると思われる。

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