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大学・研究所にある論文を検索できる 「腫瘍関連マクロファージは膠芽腫の予後因子である脳脊髄液中IL-6に影響を与える」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腫瘍関連マクロファージは膠芽腫の予後因子である脳脊髄液中IL-6に影響を与える

Hori, Tatsuo 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
サイトカインの1つであるインターロイキン-6 (IL-6)は、腫瘍の成長と進展に重要な役割を果たしているとされ、予後に関連しているとする報告がいくつかある。腫瘍内にはマクロファージが存在し、腫瘍関連マクロファージ(TAM)と呼ばれているが、最も頻度の多い脳腫瘍の 1 つであるグリオーマにおいても、 TAM の存在は報告されている。TAM は様々なサイトカインやケモカインを放出しており、腫瘍の微小環境の形成、維持に関与している。そして様々な研究で TAM の腫瘍促進効果が示され、TAM は腫瘍の進展、血管新生、浸潤や免疫抑制に寄与していると報告されているが、グリオーマにおける TAM の役割はあまり解明されていない。

脳脊髄液 (CSF) は物質の輸送やシグナルの伝達、物理的緩衝作用など様々な機能を有しているが、CSF の生化学的検査は、脳の生物学的プロセスの理解に重要な情報をもたらす。脳原発中枢性リンパ腫では、CSF 中 IL-10 が病勢に役立つマーカーとなっている。加えて、CSF 中 IL-10 は、JAK-STST3 シグナル経路を促進させる。特異的サイトカインやケモカインである、CXCL 10、CCL 4、CCL 17 とIL-8 は、転移性脳腫瘍時の CSF 中で上昇している。グリオーマの中で最も悪性の膠芽腫においては、CSF 中 IL-6 濃度が高いことが報告されている。本研究の目的は、膠芽腫において CSF 中 IL-6 とマクロファージの浸潤度や予後との関連性について明確にすることである。

【対象と方法】
2007 年 1 月から 2016 年 6 月まで神戸大学附属病院で治療を受けたグリオーマの症例で、新規に診断を受けたものを対象とした。術前診断のために腰椎穿刺を行い、患者から脳脊髄液を 2~6ml 採取した。CSF 中 IL-6 濃度測定は、SRL社(東京、日本)の 2 ステップサンドイッチ法を利用した化学発光酵素免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay; CELIA)で行った。

CD163 陽性率の測定は、免疫組織染色を行い、評価・計測し、免疫陽性率(% area)の平均値は、200 倍率で検体切片のランダムに選んだ 5 箇所から ImageJ 1.48 ソフトを用いて計測した。54 症例の膠芽腫と 21 症例の他グリオーマの合計 75 症例の CSF を用いて、IL-6 濃度と TAM の浸潤度および予後との関連性を解析した。

In vitro の実験では、U87、T98、A172 グリオーマ細胞株を使用し、マクロファージは健常人から採取した末梢血単核球の中から、CD14 陽性単核球を自動磁気細胞分離装置で選別し、それを M-CSF を加えた培養液で 6 日間培養し、マクロファージへ分化誘導させた。さらに U87 グリオーマ細胞培養液を 50%加えて 2 日間培養し、TAM 様マクロファージを生成した。

共培養試験では、TAM 様マクロファージはコンパニオンプレートに、U87 細胞はセルカルチャーインサート(0.4μm pore size)に PRMI 培養液で 2 日間培養し、培養液中の IL-6 濃度と細胞内 mRNA 発現量、細胞数を測定した。

遊走、浸潤試験では、セルカルチャーインサートやマトリゲル細胞浸潤チャンバーを使用し、TAM 様マクロファージや患者 CSF を 30%含んだ調整培養液で 24 時間共培養し、遊走細胞、浸潤細胞を固定、染色し評価した。

統計解析は、2 群間は Mann-Whitney U 検定、3 群間以上は Steel-Dwass 検定を使用した。2 群間の関連性の評価には、Spearman の順位相関係数を使用した。生存時間解析は Cox 比例ハザードモデルや Kaplan-Meier 法を使用し、群間での差は log-rank 検定で評価した。

【結果】
本研究にグリオーマの 75 症例が登録された。平均年齢は 56 歳で、男性 41名、女性 34 名であった。54 症例が WHO 分類 gradeⅣの膠芽腫、9 症例が grade Ⅲグリオーマ、11 症例が gradeⅡグリオーマ、1 症例が gradeⅠグリオーマであった。

CSF 中 IL-6 濃度の平均値は 26.3±88.5pg/ml であった。膠芽腫に限れば、 CSF 中 IL-6 濃度の平均値は 37.3±104.5pg/ml であり、gradeⅡ(p<0.0001)、 gradeⅢ(p=0.002)より有意に高かった。免疫染色では髄液 IL-6 濃度に相関して IL-6 がグリオーマ細胞に発現していた。

膠芽腫内の TAM の浸潤程度を検証すると、膠芽腫組織内の TAM 浸潤率(CD163 陽性率)は 4-75%(平均値:23.6±18.5%)であった。CD163 陽性の TAM は主に壊死や血管の周囲に観察され、IL-6 も TAM と同様な領域で発現していた。CD163 と IL-6 の二重免疫染色では、CD163 陽性 TAM は IL-6 も陽性であった。次に、腫瘍内 TAM の浸潤程度と CSF 中 IL-6 濃度との関係性を検証した。これと同様に、腫瘍内 TAM 浸潤率は CSF 中 IL-6 濃度と有意な相関関係が示された(p<0.001)。

TAM 様マクロファージがU87 細胞内のIL-6 の発現と分泌を促進するか検証した。U87 細胞を TAM 様マクロファージと共培養し、上清中の IL-6 濃度を解析すると、U87 細胞単独培養や TAM 様マクロファージ単独培養の上清より IL- 6 が著明に上昇していた。次に、TAM 様マクロファージとの共培養の有無で、 U87 細胞の IL-6 の mRNA 発現量を比較検討した。単独培養の U87 細胞より、 TAM 様マクロファージと共培養した U87 細胞の方が、IL-6 の mRNA 発現量は著明に高かった。加えて、IL-6 の下流分子である STAT3 の mRNA 発現量も同様に上昇していた。細胞遊走解析では、単独培養の U87 細胞と比べ、TAM 様マクロファージと共培養したほうが U87 の遊走細胞数は増加しており、遊走能は上昇した。加えて、単独培養の U87 細胞と比べ、TAM 様マクロファージと共培養した U87 細胞の方が、浸潤能も亢進した。

膠芽腫患者の CSF 中 IL-6 が膠芽腫細胞の遊走を促進させるか検証した。膠芽腫患者の CSF を 30%加えた培養液を用いてグリオーマ細胞(U87、T98、 A172 細胞)を培養した。CSF を加えて培養したグリオーマ細胞は CSF を加えない培養液で培養したものと細胞形態が異なり、シャーレの底面に広がっており運動能が亢進していることが示唆された。CSF を加えない培養液でのグリオーマ細胞と比べ、CSF を加えて培養したグリオーマ細胞は、遊走能が著明に上昇していた。更に IL-6 中和抗体を添加し IL−6 を阻害させた CSF では、グリオーマ細胞の遊走能は低下した。これらの結果から、膠芽腫患者の CSF 中 IL-6 はグリオーマ細胞の遊走を促進することが示された。

CSF 中 IL-6 濃度が膠芽腫患者の予後に関連するか検証した。膠芽腫患者を CSF IL-6 濃度の高値(≧6 pg/ml)、低値(<6 pg/ml)の 2 群に分けると、CSF中 IL-6 高値群は、低値群より生存期間が有意に短かった。また、TAM の浸潤率が高い膠芽腫患者は生存期間が短い傾向にあった。多変量解析では、CSF 中 IL- 6 高値、高齢、低い KPS、MGMT プロモーターメチレーション陰性が生存期間の短縮の独立した予後因子であった。これらの結果から、CSF 中 IL-6 濃度は膠芽腫の予後因子の一つであるが示された。

【考察】
グリオーマ細胞の周囲には炎症性サイトカインが多く存在し、これらのサイトカインはグリオーマの増殖や腫瘍の発生、成長、血管新生、浸潤に関係しているとされる。本研究では、CSF 中 IL-6 濃度が膠芽腫の有益な予後診断マーカーであることを示した。腫瘍細胞内では外部刺激や癌固有のシグナルに反応し、IL−6 が産生されるとされるが、グリオーマ内に TAM が浸潤して IL-6 を産生し、TAM との相互作用にてグリオーマ内の IL-6 の発現も上昇すると共に、上昇した CSF 内 IL-6 がグリオーマの運動能、浸潤能も亢進することが示唆された。

一般的に、TAM は M2 マクロファージに似ていると考えられている。Zhangらは、グリオーマ細胞内で M2 様マクロファージが IL-6 の発現を増幅し促進することで、PKC 経路を介して結果的にグリオーマ内に血管を形成すると報告している。本研究では、TAM 様マクロファージによってグリオーマ細胞内での IL- 6 の発現が上方制御されていた。加えて、CSF 中 IL-6 濃度が TAM 浸潤率と相関していた。

これまで多くの研究で、IL-6 の発現とグリオーマの予後との関連性が示されてきたが、我々の渉猟した限りでは、CSF 中 IL-6 濃度とグリオーマの予後の関連性を検証した研究は一つだけだった。Shan らは、86 症例の CSF 中 IL-6 濃度を測定し、CSF 中 IL-6 濃度が高い群(>20 pg/ml)は予後がより不良であることを報告した。彼らの結果は我々の結果と似ていたが、彼らの結果は低悪性度グリオーマの患者を多く含んでおり、多変量解析は行っていなかった。本研究では、膠芽腫患者のみで生存解析を行っており、さらに多変量解析での詳細な解析を行ったことが以前の報告と異なる。我々の解析の結果、膠芽腫のみにおいても CSF 中 IL-6 は独立した予後因子であることが明らかとなった。

本研究の Limitation は、①後方視的な研究であること ②検体数が少ないこと ③全患者に同じ治療を行っていないこと(Stupp regimen;放射線治療(60 Gy/30 fr)+化学療法(テモゾロマイド)を 54 例中 46 例(85%)に実施) ④腫瘍の分子診断を十分行っていない である。そのため将来的に大規模な研究で確認する必要がある。

ここ最近、リキッドバイオプシーなど、診断や予後判断できる低侵襲的な方法として、末梢血や CSF 検査が注目されている。CSF 中 IL-6 も膠芽腫の予後診断マーカーとして有用であるが、他の因子と組み合わせることでより正確に予後診断できるかもしれない。

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