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大学・研究所にある論文を検索できる 「腫瘍関連マクロファージ由来のCCL1はCCR8に作用し、Akt/PRAS40/mTORシグナルを介して食道扁平上皮癌の進展に寄与する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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腫瘍関連マクロファージ由来のCCL1はCCR8に作用し、Akt/PRAS40/mTORシグナルを介して食道扁平上皮癌の進展に寄与する

Fujikawa, Masataka 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景・目的】
食道癌は、2018年には世界で癌発生頻度の第7位であり、癌による死亡原因の第6位に位置している。食道癌の中でも食道扁平上皮癌(ESCC)は東アジア、東アフリカ、南アフリカで多い傾向がある。発癌のリスクファクターとして飲酒・喫煙などが挙げられる。食道は、解剖学的に気管、大動脈、肺動脈、心嚢、脊椎、胸膜等の主要臓器と隣接しており、かつ、漿膜を持たないため、 ESCC は進展しやすく治療困難な癌と考えられている。ESCC の治療はより進歩しているが、5 年生存率は 10〜20%のままである。そのため、さらなる腫瘍進展の機序解明が求められている。

癌微小環境は腫瘍の進展に重要な役割を担っていることが知られている。申請者の研究室では先行研究にて癌微小環境の主要な構成要素である腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage、TAM)や癌関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast、CAF)の協調作用が上部消化管癌の進展に寄与する事を報告した。また、ESCC においてはCD204 陽性TAM の浸潤数が ESCC の不良な予後と相関することを報告した。さらに TAM と ESCC との相互作用について解明するために申請者の研究室では、「ヒト末梢血由来マクロファージ」と「ESCC 細胞株培養上清添加により作製したヒト末梢血由来 TAM 様マクロファージ」との間で cDNA マイクロアレイ解析を行い、 TAM 様マクロファージにおいて高発現している遺伝子を網羅的に抽出した。本研究では、この内 C-C motif chemokine ligand 1(CCL1)に着目した。炎症性サイトカインの一種であるCCL1 の特異的受容体は G タンパク質共役型受容体である C-C chemokine receptor 8(CCR8)であり、CCL1- CCR8 経路はメラノーマや乳癌などの様々な悪性腫瘍で腫瘍促進的に働くことが報告されている。 ESCC 微小環境下における TAM 由来 CCL1 の役割は解明されておらず、本研究にて ESCC の進展や予後に対する CCL1 の役割について検討した。

【材料と方法】
ESCC 細胞株(TE-8、TE-9、TE-11)は理研バイオリソースセンターから購入した。ヒト末梢血か ら autoMACS®を用いて単離した CD14 陽性単球に M-CSF を用いて作用させマクロファージを作製した。マクロファージに ESCC 細胞株培養上清を添加し、TAM 様マクロファージへと分化させた。 SurePrint G3 Human GE microarray 8×60K v2(Agilent Technologies)を用いて cDNA マイクロアレイ解析を行い、マクロファージと TAM 様マクロファージとの間で遺伝子発現を比較した。TAM 様マクロファージにおけるCCL1 の発現を qRT-PCR、ELISA、蛍光免疫染色にて確認した。ESCC 細胞株における CCR8 の発現を RT-PCR、Western blotting、蛍光免疫染色にて確認した。TAM 様マクロファージや recombinant human CCL1(rhCCL1)(R&D systems)の ESCC 細胞株に対する作用を、増殖能は MTS assay、運動能は Transwell migration assay、浸潤能は Corning BioCoatTM Matrigel Invasion Chamber(Corning)、細胞内シグナルは Phospho-Kinase Array(R&D systems)や Western blotting を用いて検討した。siRNA targeting CCR8(siCCR8)(Sigma-Aldrich)、CCL1あるいは CCR8 に対する中和抗体(R&D systems)、PI3K あるいは Akt 阻害剤(Cell Signaling Technology)を用いて運動能や浸潤能の評価、シグナルの検討を行った。また、69 症例の ESCC切除標本にて CCL1、CCR8 の免疫組織化学を行った。さらに、ESCC 切除標本の二重蛍光免染を行った。免疫組織化学の結果をもとに、癌間質における CCL1 陽性細胞数を計測し浸潤数の多寡によって 2 群に、癌胞巣における CCR8 の染色強度によって 2 群に分け、それぞれ臨床病理学的検討を行った。また、Kaplan-Meier 法を用いて生存期間との関係を検討した。

【結果】
ESCC 細胞株 (TE-8、TE-9、TE-11) の培養上清を添加して分化させたヒト末梢血由来 TAM 様マクロファージ (TAM8、TAM9、TAM11) はマクロファージと比較して CCL1 の発現が高いことを qRT-PCR、ELISA、蛍光免疫染色にて確認した。ESCC 細胞株に CCR8 が発現している事を RT- PCR、Western blotting、蛍光免疫染色にて確認した。rhCCL1 をTE-8 に作用させた時にリン酸化が誘導されるシグナル分子を Phospho-Kinase Array で網羅的に検討したところ、PRAS40 のスポットが亢進していた。そこでTE-8、TE-9、TE-11 にrhCCL1 を添加して 10、30、60 分後にタンパクを抽出し、Western blotting で検討すると、Akt/PRAS40/mTOR のリン酸化の亢進を確認できた。 TAM 様マクロファージと ESCC 細胞株を共培養すると ESCC 細胞株の運動能と浸潤能が亢進し、 CCL1 あるいは CCR8 に対する中和抗体を作用させるとその効果が減弱することから、CCL1- CCR8 経路が TAM によって誘導される ESCC の運動能と浸潤能に関与することが判明した。さらに、rhCCL1 の作用で亢進した ESCC 細胞株の運動能と浸潤能およびシグナルは、siCCR8 や CCR8 に対する中和抗体、PI3K あるいは Akt 阻害剤を用いることで抑制された。以上から CCL1- CCR8 経路は Akt/PRAS40/mTOR シグナルを介して ESCC の運動能と浸潤能の亢進に関与していることが確認できた。一方で、CCL1 は ESCC 細胞株の増殖能と生存能には寄与しなかった。

最後に 69 例の ESCC 切除標本に対して CCL1 および CCR8 の免疫組織化学を行ったところ、 CCL1 は癌間質に、CCR8 は癌胞巣に発現していることが確認できた。さらに、ESCC 切除標本の二重蛍光免疫染色にて CCL1 は癌間質の CD204 陽性細胞、FOXP3 陽性細胞、FAP 陽性細胞において発現していることを確認した。癌間質の CCL1 陽性細胞数あるいは癌胞巣の CCR8 発現強度と臨床病理学的因子との関連を検討すると、CCL1 陽性細胞数は壁深達度(P = 0.002)、血管侵襲(P = 0.027)、CD68/CD163/CD204 陽性マクロファージ浸潤数(P < 0.001)と有意に正の相関を示した。また、CCR8 は壁深達度(P = 0.003)、リンパ管侵襲(P =0.003)、病期(P = 0.001)、 CD204 陽性マクロファージ浸潤数(P = 0.011)と有意に正の相関を示した。Kaplan-Meier 法での検討では、全生存期間ならびに無病生存期間において CCL1 高発現群が低発現群に対して有意に予後が不良であった。また、CCR8 高発現群も CCR8 低発現群に対して全生存期間ならびに無病生存期間において有意に予後が不良であった。全生存期間において多変量解析を行うと、CCL1 の高発現が独立した予後不良因子であることが確認できた。

【考察】
TAM 様マクロファージはマクロファージに比べCCL1 を高発現しており、ESCC 細胞がその受容体であるCCR8 を発現していることを見出した。TAM 由来の CCL1 がESCC の CCR8 を介し、Akt、 PRAS40、および mTOR のリン酸化を促進することで ESCC の運動能と浸潤能を亢進させることを解明した。また、癌間質における CCL1 の高発現と、癌胞巣における CCR8 の高発現は ESCC 患者の全生存期間と無病生存期間を悪化させることを確認した。 CCL1-CCR8 経路は Akt/PRAS40/mTOR シグナルを介して ESCC の運動能と浸潤能を亢進させることで ESCC の進展に関与していることを明らかにした。現在、CCL1-CCR8 経路は制御性 T 細胞に対する免疫治療として注目されており、今後 CCL1-CCR8 経路は ESCC 治療においても新規標的分子となる可能性が示唆された。

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