Employment Status of Colorectal Cancer Patients After Surgery: A Multicenter Prospective Cohort Study in Japan

概要

背景
大腸がんの治療成績の向上により、手術が主な治療である Stage I-III の大腸がん患者の 5
年生存率は、約 70-90％となっている 1, 2。従って多くの大腸がん患者が、手術後に身体的・
精神的・社会的な負担を抱えながら、復職を含む日常生活へ戻ろうとする 3, 4。
がん患者において、離職や復職の遅れなどの就労に関する問題は注目されており、これら
の問題に取り組むことは患者自身だけでなく社会に対しても影響が大きい

。それゆえ、

5-7

基礎的な情報として、就労状況や就労に関する問題のリスク因子が調査されてきた 8-10。先
行研究によると、大腸がん患者の就労割合は 49-89％で、復職までの時間は 2.2-9.1 か月で
あり、リスク因子は高齢、併存症、術後合併症、補助療法、拡大手術、低社会経済的状況な
どがあげられている 11-19。
しかしながら大腸がん手術後の就労状況は網羅的には調べられていない。一つ目に臨床
現場での研究はほとんどないことが挙げられる 13, 18。国や職場でのレジストリ研究では、治
療を念頭に入れた詳細な臨床情報を収集することは困難である

。二つ目にほとんどの

15, 19

研究は西欧諸国で行われており、国によって結果が異なることが挙げられる 10, 11, 18。特に日
本では研究が少ないことが指摘されており、日本の職場における研究で大腸がん診断後の
復職割合が 84％という結果があるが、大企業の正社員だけを対象としたものであった 19, 20。
そこで本研究は日本の臨床現場において大腸がん患者の術後就労状況を明らかとし、そ
のリスク因子を探索することを目的とした。
方法
研究デザインは多機関共同前向きコホート研究で、参加施設は大学病院 1 施設と地域病
院 6 施設である。対象は、根治切除予定の臨床病期 I-III の大腸がん患者で、診断時に就労
しているものとした。登録期間は、2019 年 6 月から 2020 年 8 月で、患者は入院時、手術
前に登録された。追跡に関しては、手術後 6 か月と 12 か月時点で外来にて行った。
就労に関する定義は総務省統計局の労働力調査の定義を参考にした。従業している患者
は、調査週において 1 時間以上働いているものと定義した。就労している患者は、従業して
いる患者および休業している患者とした。復職は、従業していない状態から従業している状
態への就労状況の変化と定義した。主要アウトカムは手術から復職までの期間および手術
後 12 か月時点で従業している患者の割合とした。
リスク因子は臨床的因子(年齢、性別、ASA-PS、腫瘍位置、ステージ、補助療法、人工肛
門、術後合併症)、就労に関する因子(労働時間、雇用形態、勤続年数、企業規模、身体作業、
対人業務、勤務形態、復職希望)、社会経済的な因子(地域、教育状況、婚姻状況、同居状況、
個人収入、世帯収入、保険の加入状況)を収集した。上記の就労に関する因子や社会経済的
な因子は自記式質問票で収集を行った。復職希望に関しては、
「大腸がん手術後も働きたい
ですか？」の質問に対して、
「とてもそう思う」
「そう思う」
「どちらでもない」
「そう思わな
い」
「まったくそう思わない」の選択肢を用意した。2 つの主要アウトカムに対してそれぞ

れの因子を単変量解析で検討した。復職までの期間に関してはハザード比(HR)とその 95％
信頼区間(CI)、
手術後 12 か月時点で従業に関してはリスク比(RR)とその 95％信頼区間(CI)
を算出した。
患者登録期間中に Covid-19 の初回感染拡大を認めたため、Covid-19 に関する自由記載欄
を質問票に追加した。
結果
130 人が登録され 129 人が解析対象となった。術後半年時点で 128 人、術後 12 か月時点
で 125 人が自記式質問票に回答をした。患者背景に関して、39％が 65 歳以上、36％が女性
で、98%が腹腔鏡・ロボット手術を受けていた。7%が術前補助化学療法を受け、39％が術
後補助化学療法を受けていた。24％が人工肛門造設術を受けた。21％に術後合併症が認め
られた。雇用形態に関しては 33％が非正規雇用で 31％が自営業者であった。56％が従業員
50 人以下の企業で働いていた。全体の 89％が「復職希望あり」であった。
復職までの期間の中央値は 1.1 か月(四分位範囲 0.5-2.8 か月)で、手術後 12 か月時点で
従業している患者の割合は 79％(95%CI 71-85%)であった。手術後 12 か月時点で Covid-19
の影響で従業していない患者は 2 人であった。
復職遅延のリスク因子は、進行した臨床病期(stage III/≤II; HR, 0.66; 95% CI, 0.45–0.98)、
人工肛門あり(HR, 0.49; 95% CI, 0.31–0.78)、Clavien–Dindo 分類グレード 3 以上の合併症
(HR, 0.33; 95% CI, 0.12–0.89)、勤務年数の短さ(HR, 0.62; 95% CI, 0.39–0.99)、復職意欲
の低さ(そう思う/とてもそう思う; HR, 0.55; 95% CI, 0.36–0.84; どちらでもない/とてもそ
う思う; HR, 0.22; 95% CI, 0.10–0.52)であった。
手術後 12 か月時点での非従業に関するリスク因子は、人工肛門あり RR, 2.22; 95% CI,
1.15–4.32、復職意欲の低さどちらでもない/とてもそう思う; RR, 10.28; 95% CI, 4.58–23.05;
まったくそう思わない/とてもそう思う; RR, 12.33; 95% CI, 5.73–26.56)、非正規雇用(RR,
2.79; 95% CI, 1.09–7.14)、低所得(RR, 2.36; 95% CI, 1.19–4.69)、国民健康保険(RR, 2.59;
95% CI, 1.18–5.69)、民間医療保険非加入(RR, 2.34; 95% CI, 1.16–4.71)であった。
考察
本研究により日本における I-III 期の大腸がん患者の手術後就労状況が明らかとなった。
本研究の就労状況が海外の先行研究と比較して良好であった理由としては、他国と異なり
日本では公的な休業補償制度がないことが考えられた 17, 19。中央値が術後 1.1 か月という復
職の速さに関しては低侵襲手術の割合が高いことが関係している可能性がある

18

。また

2016 年に改正されたがん対策基本法により、治療と仕事の両立に関する様々なガイドライ
ンが作成され、がん患者の就労状況が改善してきている可能性も考えられた。
リスク因子に関しては先行研究と概ね同様であったが、本研究では新たに「復職意欲の低
さ」がリスク因子であることが明らかとなった。これまでの量的な研究では復職意欲は測定

されておらず、重要な因子であることが示されたとともに、今後の研究ではこの因子を考慮
に入れた検討の必要性が示唆された。
また、復職までの期間には臨床的な因子が、手術後 12 か月時点での非従業に関しては社
会経済的な因子がリスク因子として含まれ、術後就労に関して短期的なリスク因子と中長
期的なリスク因子が異なる可能性が示唆された。この 2 つのアウトカムを同じものとして
扱っている研究もあるが、両者を区別することは臨床的にも研究的にも意義深いものであ
ると考えられた。さらにいずれにおいても人工肛門は就労阻害リスクであり、大腸がん手術
後の就労支援に際し重要な因子であることが示唆された。
本研究の限界として、手術後 12 カ月という比較的短期の追跡であること、サンプルサイ
ズの少なさ、 Covid-19 の感染拡大期を含めて実施されたことが挙げられる。しかしながら、
本研究の結果は大腸がんの治療や就労のサポートをする医療従事者において重要な情報に
なると考える。
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