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Epidemiology and molecular characterization of fecal carriage of third-generation cephalosporin-resistant Enterobacterales among elderly residents in Japan

仲井, 美由紀 名古屋大学

2022.07.26

概要

【緒言】
基質拡張型 β-ラクタマーゼ産生腸内細菌目細菌(ESBL-PE)、カルバペネマーゼ耐性腸内細菌目細菌(CRE)を含む、第 3 世代セファロスポリン耐性グラム陰性菌の蔓延は、深刻な公衆衛生上の課題となっている。
超高齢社会の日本においては、異なる種類のケアを提供する高齢者施設や医療機関が協力し、地域包括ケアが推進されているが、在宅や施設介護ケアを受けている高齢者の多剤耐性菌の保菌状況に関する疫学的データは十分にあるとは言えない。本研究では在宅療養中もしくは高齢者施設に入所中の高齢者の第 3 世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌の腸管内保菌状況及びその分子学的特徴を明らかにすることを目的として、前向き観察研究を行った。

【方法】
2015 年 12 月から 2017 年 12 月までに、研究協力に同意を得られた、在宅療養中もしくは老人ホームや介護施設に入所中の高齢者 101 人から便または直腸スワブのサンプルを採取した。さらに最初の調査の 3～9 か月後に再度同じサンプルを採取した。サンプルは、CHROMagar ESBL 培地(関東化学、東京)に接種して、第 3 世代セファロスポリン耐性グラム陰性桿菌をスクリーニングした。
分離された菌株は、各種 β-ラクタマーゼ阻害薬を用いて、ESBL 型、AmpC 型 β-ラクタマーゼ産生またはカルバペネマーゼ産生の表現型確認試験の後、ポリメラーゼ連鎖反応（PCR)を用いて、9 種類の β-ラクタマーゼ遺伝子(blaCTX-M-1,2,9,8/25、blaTEM、blaSHV、 blaCIT、blaDHA、blaMOX)及び 5 種類のカルバペネム耐性遺伝子(blaIMP-1、blaIMP-2、blaKPC、 blaVIM-2、blaNDM-1)の有無を確認した。blaTEM、blaSHV についてはシークエンス解析を行い、ESBL の判別をした。さらに 1 回目と 2 回目のスクリーニング検査両方で検出された ESBL 産生大腸菌分離株については、PCR-based ORF Typing(POT 法)を用いた分子疫学的解析を行った。
同時に、患者の臨床的背景データとして、年齢、性別、居住状況、基礎疾患・合併症、おむつの使用の有無、1 年以内の入院、手術、感染症の既往等が検体採取時の診療録から収集された。
統計解析には SPSS Statistics 25.0(IBM, 東京)を用い、薬剤耐性菌保菌者と非保菌者に分類し、背景因子ごとに保菌率を比較した。単変量解析には、連続変数に対して t検定、カテゴリ変数にカイ二乗検定もしくは Fisher の正確確率検定(両側)を行い、 p<0.05 を統計的有意とした。p 値が 0.2 未満の因子を共変数として二項ロジスティック回帰分析（変数増加法、尤度比)を行い、保菌リスク因子を抽出した。
本研究は、名古屋大学倫理委員会(承認番号 2015-0196)及び名古屋市医師会の倫理委員会によって承認された。

【結果】
第 1 回調査の対象 101 人中 33 人は男性(32.7%)で、年齢分布は 70～101 歳(平均 86.6歳）であった。62 人は高齢者施設居住者で、認知症 62 人(61.4%)、糖尿病 27 人(26.7%)、31 人(30.7%)に過去 12 か月以内に入院既往があり、43 人(42.6%)には感染症の既往歴があった。54 人(53.5%)がオムツを使用していた。

耐性株の検出及びその耐性遺伝子
第 1 回調査では、101 人中 37 人(36.6%)から 39 株の第 3 世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌が検出され、菌種でもっとも多かったのは、大腸菌 29 株で、次いで Citrobacter spp.、Enterobacter spp.及び Klebsiella pneumoniae が検出された。第 2 回調査においては検体採取が可能であった 80 人中 29 人(36.4%)から検出され、大腸菌が25 株と最多であった(Table 1)。
2 回の調査で分離された第 3 世代セファロスポリン耐性株 68 株の耐性遺伝子としては、blaCTX-M-9 型が 41 株(60.3%)と最も多く、blaCTX-M-1 型は 8 株(11.8%)であった。 27 株(39.7%)から検出された blaTEM はすべて blaTEM-1 であり、19 株は blaCTX-M-9 型と、5 株は blaCTX-M-1 型と共存していた。blaSHV 3 株(4.4%)のうち 1 株は大腸菌から検出された blaSHV-12 で、他は blaSHV-1 であった。5 株の Citrobacter spp.から blaCIT 型 AmpC-βラクタマーゼ遺伝子が検出され、大腸菌 1 株からは blaDHA が検出された(Table 1)。

2 回の調査において持続的に保菌していた高齢者の状況第 3 世代セファロスポリン耐性株が 2 回の調査で繰り返し検出されたのは 20 人で、検出された 41 株中 39 株は ESBL 産生大腸菌であった(Table 2)。
POT 法を用いた分子疫学的解析の結果、39 株の ESBL 産生大腸菌は 22 種類の POT型に分類された。一方、ESBL 産生大腸菌が繰り返し検出された 19 人中 11 人(57.9%)で、2 回の調査の POT 型は同じ型であった。その他の 8 人では、大腸菌の POT 型は別の型であった。また、同じ老人ホーム(Facility 1)に入所する高齢者 2 人と LTCF(Facility 4)居住者 5 人から、施設内で同一の POT 型をもつ ESBL 産生大腸菌が検出された。
2 回の調査間隔について、180 日未満、180～270 日未満、270 日以上の群で比較すると、持続保菌者の割合はそれぞれ 82.4%、57.1%、50%であった(Fig. 1)。

保菌リスク因子
第 1 回調査における第 3 世代セファロスポリン耐性株の保菌に有意に相関する背景因子は糖尿病のみで、多変量解析の結果においても、保菌リスク低減因子[OR:0.22 (0.07-0.69), p =0.009]として抽出された。
また、2 回の調査で、持続保菌群とそれ以外の群の背景因子を比較した単変量解析から、87 歳以上の高齢、おむつの使用、LTCF 居住者及び調査間隔 180 日未満の因子が持続保菌と有意な相関が認められた。多変量解析では 87 歳以上の高齢[OR: 3.51(1.06-11.7), p=0.04)]、LTCF 居住者[OR: 5.19 (1.69-16.0), p=0.004]の 2 つの因子が、持続保菌リスク因子として抽出された(Table 3)。

【考察】
本研究において、在宅療養中もしくは高齢者施設に入所中の高齢者の約 37%が、第 3 世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌の腸管内保菌者であることが明らかになった。今回の保菌率は、日本の老人ホームを調査した先行研究の結果に相当するが、入院患者や市中居住住民の結果よりも高かった。検出された耐性菌の大部分は ESBL- PE であり、調査した範囲内では CRE は検出されていないようであった。ESBL 産生株の 6 割は CTX-M-9 群産生株であり、CTX-M-9 の変異体である CTX-M-27 産生大腸菌の増加傾向を示す過去の報告と同じ傾向がみられた。
3～9 か月間隔での繰り返し調査では、第三世代セファロスポリン耐性株保菌者の71.4%が持続的に陽性で、その 55%は遺伝的に同一の ESBL 産生大腸菌株を持続保菌していた。
持続保菌率については、2 回の調査間隔が長いほど、持続保菌者の割合が低下するが、9 か月以上経過しても、約半数で保菌が持続することから、長期的に感染対策を実施していく必要があると考えられた。
本研究では、糖尿病が第 1 回調査で腸管内保菌リスクの低減因子であると抽出されたが、その原因は今回の対象において糖尿病患者のほとんどが自宅にて在宅療養中であったことが一因と考えられるが、今後さらなる調査が必要である。
本研究の限界としては、まず研究対象は異なる居住状況にある比較的少数の高齢者であり、その結果を一般化することが困難であること、他の交絡因子が見落とされている可能性があることが挙げられる。また、腸管内保菌は 1 回の糞便または直腸スワブ培養の結果で判定されており、保菌率は過小評価されている可能性があると考えられた。

【結論】
本研究では、在宅療養中もしくは高齢者介護施設入所中の高齢者の 1/3 以上で第 3世代セファロスポリン耐性腸内細菌目細菌が検出された。分離株のほとんどは ESBL- PE で、CTX-M-9 群産生株が優位であった。第 1 回調査での保菌者の 50%以上が、CTX- M 型 ESBL 産生大腸菌を 3 か月以上保菌しており、持続保菌リスク因子として、87 歳以上の高齢、LTCF 居住者の 2 項目が抽出された。また、分子疫学的解析結果からは、 ESBL 産生大腸菌の施設内伝播の可能性が示された。日本における多剤耐性菌の効果的な地域感染制御には、急性期以降の療養環境にある高齢者の保菌や感染状況についてのさらなる疫学的調査が必要と考えられた。

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