Extravasation and outcomes in computed tomography and angiography in patients with pelvic fractures requiring transcatheter arterial embolization: a single-center observational study
概要
1. 序論
骨盤骨折はしばしば周囲の血管損傷を伴い循環動態が不安定となることもあり(White CE et al., 2009),その治療法としてのresuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta(REBOA)や interventional radiology(IVR)の有用性は確立されている(King, 2019; Cullinane et al., 2011; Coccolini et al., 2017).しかしながら,IVR の適応に関しては血管外漏出像の有無や血腫の大きさなどの造影 computed tomography(CT)所見の解釈,血行動態の判断など診療にあたる医師の裁量によるところが大きい.造影 CT で血管外漏出像を認めない場合にも,高齢,ショック,骨盤骨折の形態や血腫など総合的な判断から血管造影を施行することがあり,その場合に血管造影で血管外漏出像を認め transcatheter arterial embolization(TAE)が必要と判断される症例を認めることがあるものの,そのような症例についての検討に関する報告は限られている.
本研究は,造影 CT で血管外漏出像なく,血管造影で血管外漏出像を認める症例において関連する要因を探索し,骨盤骨折患者の診療におけるより良いマネージメントに寄与することを目的とした.
2. 方法
本研究は後方視的単施設研究であり,2014 年 12 月から 2020 年 12 月までの 6 年間に横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センターへ救急搬送された鈍的外傷による骨盤骨折患者のうち,造影 CT かつ TAE 施行例を対象とした.また,除外基準は,来院時心肺停止かつ自己心拍再開を認めなかった症例,TAE を施行しなかった症例,TAE 施行前に造影 CT を撮影しなかった症例とした.造影 CT で血管外漏出像がなく血管造影でも血管外漏出像を認めなかった症例は誤分類として除外した.
対象症例を,造影 CT,血管造影共に血管外漏出像を認めた(CT+Angio+)群,造影 CT で血管外漏出像を認めず,血管造影で血管外漏出像を認めた(CT-Angio+)群,造影 CT で血管外漏出像を認め,血管造影で血管外漏出像を認めなかった(CT+Angio-)群の 3群に分類した.連続変数に対しては Kruskal-Wallis 検定を,カテゴリー変数に対しては Fisher 正確検定を用いて,3 群間での違いを検討した.また,CT-Angio+群を参照群として,その他の群との 2 群間比較を行った.その際に,連続変数に対しては Mann-Whitney U 検定を施行し,カテゴリー変数に対しては Fisher 正確検定を施行した.両側検定 p <0.05 を統計学的に有意とみなした.統計解析には,IBM SPSS ver.25 (IBM Corp., Armonk, NY, USA)を使用した.なお,本研究は横浜市立大学人を対象とする生命科学・医学系研究倫理委員会による承認を受け実施した(B200700036).
3. 結果
113 人が解析対象となり,CT+Angio+群は 54 人(47.8%),CT-Angio+群は 47 人(41.6%), CT+Angio-群は 12 人(10.6%)であった.3 群間比較の結果,患者背景(年齢,性別),来院時バイタルサイン,血液検査,来院時から造影CT 撮影,TAE 施行までの時間,Abbreviated Injury Scale(AIS),Injury Severity Score(ISS),来院後 24 時間輸血量,人工呼吸器管理日数,集中治療室滞在日数,在院日数,転帰に有意差は認めなかった.また,CT-Angio+群は CT+Angio+群と比較して,来院から造影 CT 撮影までの時間が有意に長かった(30 分 vs 25 分, p < 0.05).その他の評価項目に関しては 3 群間比較と同様に有意差は認めなかった.CT-Angio+群は CT+Angio-群と比較して,来院後 24 時間以内の輸血量(fresh frozen plasma[FFP], 血小板)が有意に多く(FFP 16.6 単位 vs 7.8 単位, p < 0.05、血小板 11.8単位 vs 3.3 単位, p < 0.05),人工呼吸器管理日数(8.4 日 vs 4.1 日, p < 0.05),集中治療室滞在日数(10.9 日 vs 5.4 日, p < 0.05)が有意に長かった.その他の評価項目に関しては 3群間比較と同様に有意差は認めなかった.
4. 考察
造影 CT における血管外漏出像は血管損傷や活動性出血のマーカーと考えられ,血管造影の適応を判断する指標の一つとされている(Cullinane et al., 2011; Coccolini et al., 2017; Dreizin et al., 2020).本研究においても血管外漏出像を認め血管造影を施行した症例が多数を占めていた.CT-Angio+群については,一般的な血管造影や TAE の適応基準からは外れる可能性があるが,CT+Angio-群と比較して来院後 24 時間以内輸血量(FFP,血小板)が有意に多く,人工呼吸器管理日数,集中治療室滞在日数が有意に長かった一方で,CT+Angio+群と比較してこれらに有意差は認めなかった.また,ISS には 3 群間で有意差がなかった一方で,塞栓物質である n-butyl-2-cyanoacrylate の使用は 3 群間においても有意差があり,CT-Angio+群は CT+Angio-群と比較し有意に多かった.CT-Angio+群が一般的に血管造影が必要とされる患者群と比べて重症度が低いわけではなく,造影 CT で骨盤部血管外漏出像がない場合であっても血管造影や TAE が不必要とは言えないということを示唆していると考えられた.また,来院から造影 CT 撮影までの時間が短い場合,治療すべき血管損傷を検出する機会が増える可能性がある.そのため時間を意識した診療を⼼がけながら,血管造影や TAE の適応を血管外漏出像以外の所見から総合的に判断することで,輸血量や転帰に良い影響を与えることができる可能性が示唆された.今後は日本外傷データバンクや Diagnosis Procedure Combination(DPC)データベースを用いた TAE や REBOAの有用性に関する研究や大型動物の出血性ショックモデルを用いた REBOA の適切な留置位置に関する研究に取り組む予定である.