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大学・研究所にある論文を検索できる 「胃内容物分析および炭素・窒素安定同位体比分析からみた伊勢・三河湾系スナメリの食性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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胃内容物分析および炭素・窒素安定同位体比分析からみた伊勢・三河湾系スナメリの食性

古山 歩 三重大学

2021.06.07

概要

スナメリNeophocaena asiaeorientalisは,東アジア沿岸域に生息する鯨類である.日本では,遺伝的に独立した個体群として5海域に分布している本種は,水産資源保護法対象種として保護されてきたが,保護のために重要な生態情報は不足しており,その食性は2系群でしか報告がない.そこで本研究では,本種の食性情報の蓄積と摂餌生態のさらなる解明を目的として,伊勢・三河湾系群を対象に1992~2020年の約30年間に収集されたストランディングや混獲個体の標本を用いて,胃内容物分析と安定同位体比分析からその食性を明らかにした.

1.胃内容物分析による食性解析
 80個体の胃内容物を分析した結果,魚類8目24科30種,頭足類3目4科6種,甲殻類2目3科7種が同定された.これら餌生物について,生活型ごとに個体数割合(%N)と出現頻度(%FO)を算出して季節的な傾向をみたところ,春夏では頭足類の%N,%FOが著しく高かったが,秋冬では春夏と比べて頭足類の%Nが低下し,表層群泳魚や底生魚などの%N,%FOが上昇した.分類群ごとの重要度の順位比較では,ツツイカ目,ニシン目,キス科,ハゼ科,タコ目が上位であった.出現分類群数は,性成熟個体の方が未成熟個体よりも10分類群ほど多く,そのうち8分類群は表中層魚であった.さらに,胃内容物を基に混合分布クラスタリングを行ったところ,供試個体は6つのクラスターに分かれ,それぞれの胃内容物は,主に底生魚,頭足類,大量の底生魚,表層群泳魚と底生魚,表中層魚,表層群泳魚と頭足類で構成された.これらのうち,胃内容物が表層群泳魚と頭足類で主に構成されるクラスターに40個体(56%)が分類された.以上のことから,本系群のスナメリは,ツツイカ目やタコ目の頭足類とニシン目の表層群泳魚を高頻度で摂餌し,季節や成長段階によって,その食性が変化することが示唆された.

2.漂着個体における腐敗標本の安定同位体比解析法の確立
 安定同位体比分析に供する標本には腐敗が進んだものも含まれるため,屋内実験により,2個体の新鮮な筋肉を腐敗させ,炭素・窒素安定同位体比(δ13C,δ15N)と含有率の変化を観察し,腐敗が解析に与える影響を調べた.筋肉を20℃で30日間放置した結果,δ13Cに大きな変化はなかったが,δ15Nは最大1.86‰上昇した.δ15Nが大きく変化した標本は窒素含有率の低下も激しく,元素含有率の低下に伴い,安定同位体比が変化することが示唆された.この結果を踏まえ,混獲や座礁,迷入した新鮮な53個体と腐敗度合いが様々な死亡漂着した213個体(漂着標本)との間で筋肉中の炭素・窒素含有率を比較したところ,漂着標本は低い炭素・窒素含有率を示した.次いで,漂着標本のδ13C,δ15Nについて,炭素・窒素含有率やCN比(炭素/窒素)の変化が与える影響を一般化加法モデル(GAM)によって解析したところ,モデル選択において,元素含有率やCN比が説明変数として採択され,それらの変化に伴う安定同位体比の大きな変化が予測された.以上の結果から,安定同位体比の解析には,炭素・窒素含有率やCN比を指標として標本を抽出したり,GAM解析を適用することで,標本の腐敗度合いを考慮した解析ができることが明らかになった.

3.安定同位体比分析による食性解析
 前述の解析手法の検討結果を踏まえ,298個体の筋肉のδ13C,δ15Nについて,体長や性別,採取年,採取月,採取海域を説明変数としてGAM解析を行った.このうち体長と採取年のみが明確な変化を示した.体長による予測では,δ13C,δ15Nとも,性成熟体長と考えられる1.4m付近で変化がみられた.採取年による予測では,いずれも長期にわたる経年低下がみられ,その原因は環境や一次生産者の変化である可能性が示唆された.安定同位体比を用いた寄与率推定において,比較に用いる餌生物は2016~2020年に収集したものであるため,この経年低下を補正する必要が生じた.そこで,新生仔104個体を用いて採取年と安定同位体比について直線的な回帰を行い,補正式を作成した.元素含有率を基に抽出した68個体について,経年変化を補正したうえで,胃内容物を基に分けられた6クラスターをそれぞれ1つの餌資源として寄与率を推定した結果,表層群泳魚と底生魚,表層群泳魚と頭足類を主とするクラスターで寄与率の8割が占められ,これらが本系群の重要な餌資源であることが示された.

 以上の2つの手法を用いた解析結果から,伊勢・三河湾系スナメリは,ニシン目の表層群泳魚,キス科やハゼ科の底生魚,ツツイカ目やタコ目の頭足類を主に摂餌し,春夏には頭足類の摂餌が多くなることや成長に伴い多様な表中層魚を摂餌するようになることが明らかになった.本種の食性は遊泳能力の向上や季節的な生物の密度変化によって変化していると考えられ,基本的には機会的な摂餌を行うことが示唆された.

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